第188話−Mr.4&ミス・メリークリスマス(4)
Mr.4とゾロ。
2人の戦いは奇しくも遠距離戦となった。
Mr.4の連射する爆弾がゾロの接近を阻んだ。ゾロとてやられっぱなしという気にはなれないから【煩悩鳳(ぽんどほう)】で反撃する。
Mr.4の戦闘方法は至極単純明快だ。
何時も連れている愛犬でもあるラッスーの吐き出すボール型時限爆弾を手にしたバットで打つ。
近付いてくれば、バットで相手を直接打つ。
使うバットは以前は4t、現在では実に6tに達する巨大な代物だ。
これで殴られれば、ただではすむまい。そんなものを木製の普通のバットと同じように軽々と振り回す怪力で殴り倒されれば、普通は死ぬ。
爆弾も1発や2発ならともかく、連打されると近付いた状態では、さすがにかわしきるのも難しい。
無論、ゾロはそうした連中とはまた異なる。
敢えて接近戦の距離へと踏み込もうとして果たせずにいた。
何しろ、ゾロには高速移動手段がない。
相手が距離を取ろうとすれば、なかなかそれを詰める事が出来ずにいた。
(ちっ。あの野郎……確かにこの距離じゃ俺が不利だ)
確かに【煩悩鳳】は威力は高い。
だが、連射に向いた技とは言いがたい。
何しろ、【煩悩鳳】は溜めの姿勢から一気に威力を放つ技。1発の【煩悩鳳】を放つ間に、相手からは10発以上のボール型時限爆弾が飛来する。そもそも溜めの態勢に入った時点で次が飛来するから、実際にはもっと間隔が開く。
懸命に回避しながら、直撃コースに乗った爆弾を打ち払った時ふと気付いた。
(……ん?時限爆弾?)
ふと引っ掛かるものがあった。
(……やってみるか)
連打してくるとはいえ、ラッスーが吐き出す以上一定の限界がある。
それを見極め、Mr.4が打った瞬間。
ゾロはそれに合わせて前へ出た。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
両手で黒刀【秋水】を持ち、前へと出て、打ち返した。
こんな無茶は他の2本では出来ない。恐竜が踏んでも1ミリさえ曲がらないとまで言われる、とにかく頑丈極まりない黒刀だからこそ出来る芸当だ。
見ていて気付いた事だが、あのボール型爆弾はとにかく頑丈であり、また起爆時間が来るまでは絶対に爆発しないようになっているようだった。でなければ、あの豪腕で打った瞬間に爆発している。
では、何時起爆するようになっているのか?
見ていた所、時限爆弾として一定の時間乃至最初に自分がいた位置付近で爆発するようセットされている様子な反面、距離を取った場合、随分と手前で爆発する様子も確認出来た。
ならば、前に出て、爆発の時間が来る前に打ち返す事も可能なはずだ。
そして、その目論見は図に当たった。
ただし、想定外の事もあった。
怪力に関してはMr.4はゾロを上回る。その豪腕で打ち出された爆弾の勢いはゾロをしても完璧に打ち返すという訳にはいかず、野球で言うならばボテボテのゴロのような形になった。
それでも幸い下が固い地面だったのが幸いした。
跳ね返り、転がった爆弾はゾロ寄りの地面で爆発し、飛来する砲弾の軌道を逸らした。だけでなく、爆発によって2人の間の土砂を巻き上げ、視界を妨げた。
(好機!)
一気にゾロは斜め方向へと走る。
Mr.4もまたこの爆煙に紛れて行動してくると予想して爆弾を打って来るが、やはりその飛来するのは真正面。
吐き出す砲弾は多いとはいえ短時間では限界がある故に、前方120度全てに向けて打つのは困難だ。とはいえ、煙の中に動く影に気付き、即座に方角を修正したのはMr.4の面目躍如と言えるだろう。
「邪魔だあっ!」
だが、飛来する爆弾は僅かに3発。
うち、直撃コースは1発。
その1発を叩き切り、真っ二つに分かれたそれが自分を過ぎた地点で爆発する、その爆風をも後押しにして駆ける。
もちろん、いい事ばかりではなく、爆発によって吹き飛ばされた砲弾の欠片や岩の破片が背中から襲い掛かり、幾つかはゾロの背に突き刺さる。それでも致命傷ではないと判断し、突き進む。
ゾロとて分かっている。ここで倒れれば、それこそ終わりだと。そして、遂にゾロは自身の距離へと踏み込む。
ことここに至れば、もう爆弾ノックは無理だ。それこそMr.4やラッスー自身も爆発に巻き込んでしまう。
空気を引き裂くような轟音を立てて、Mr.4のバットが迫る。
これをゾロは【刀狼流し】で受け流す。
いや、受け流そうとした。
「ぐっ!?」
Mr.4は覇気を使えない。
努力はしたのだが、どうにも相性が悪かったのか修得する事が出来なかった。
だが、新世界へ行った事が無駄だったのかというとそうではない。
実力者との戦闘も多々こなし、怪力もアップした。何より、接近戦闘での小回りを効かせたバット捌きを身につけた。だからこそ、バットも単純に振るだけならばもっと重いバットを使う事も出来るが、この重量に留めている。
受け流そうとして、ゾロはその怪力によって態勢を崩された。
それでも、吹き飛ばされなかったのは、【刀狼流し】がゾロとしては珍しい真っ向受ける形の剛剣ではなく、受け流す柔剣だったからだ。
刀とこうした金属の塊は相性が余りよろしくない。
黒刀はともかく、他の刀では刃が欠けかねないし、歪みも出易い。下手をすればいかな名刀といえど、受けた瞬間にへし折れる。それ故の受け流しだったのだが、如何にゾロが怪力の部類に入るといえど、相手もまたゾロを上回る怪力の持ち主であり、武器を持つ手もゾロは片手に対して、Mr.4は両腕。その差が純粋に出た形となった。
この瞬間にゾロは悟った。
(受け手に回ったら不利、いや、やられる!)
崩れた姿勢から強引に受けたのとは反対の左手に持つ【三代鬼徹】を振り上げる。
これをMr.4は引き戻したバットで受け止め……ほぼ同時に襲い掛かってきた【和道一文字】を慌てて防いだ。
それを防げば、今度は【秋水】……正に息をもつかせぬ怒涛の連撃を加えてゆく。
ここが勝負所だとそう定めているからだ。
ここで、手数の差が出た。
武器の差といってもいい。
バットは1本、刀は3本、加えて打撃武器であるバットに対して刀は刃物。ましてや、ゾロの刀はいずれ劣らぬ切れ味を誇る名刀ばかり。掠めた刃でもMr.4に細かな切り傷を負わせてゆく。そうして左右同時に振られた刀の内、左手の【三代鬼徹】がMr.4の足を切り裂いた。
戦闘続行不能な深手ではない、だが、確かに瞬間、Mr.4は態勢を崩した。
瞬間。
ゾロは【三代鬼徹】を手放した。
そのまま両腕で【秋水】を掴む。
「一刀流……【飛竜火焔】!」
斬鉄。
両腕で振るわれた刀は、僅かな抵抗を示し——バットを切り裂き、そのままMr.4の体をも切り裂いた。瞬間、発火した傷口はMr.4に膝をつかせ、トドメとばかりに打ち込まれた峰での一撃が遂にMr.4の意識を刈り取った。
地に倒れ伏したMr.4だが幸いというべきか、傷口が下になった為に巨体によって押さえ込まれる形となった火も燻っているのみだ。これ以上広がる事はあるまい。ラッスーは心配そうにMr.4の傍に寄り添っている。
それを確認して、荒い息をつくゾロの口から【和道一文字】が零れ落ちた。
そのままゾロもまた倒れ伏した。
背中に刺さった破片は決して軽傷のものだけではない。中にはナイフ並の鋭さと大きさのある物もあり、ゾロの体力を着実に奪っていた。
勝敗がついたと見たCPの隊員らが駆けつけてくるのを確認しつつ、そのままゾロの意識もまた暗闇に呑み込まれていった。