第189話−Mr.3(1)
Mr.4とミス・メリークリスマスもまたCP隊員によって運ばれて行った。
だが、彼らはまだ運が良かった。
相手をしたのがエース達であり、殺しに来た訳ではなかったからだ。一方その頃……。
Mr.3は冷たい汗が自分の背を伝うのを実感していた。
目の前には1人の鼻の長い男がいる。
先程までは味方だと思っていた。今は敵だとしか思えない。
そう、誰だって今のMr.3の立場に立てば、そう思うだろう……彼の足元に力なく転がるミス・ゴールデンウィークの姿を見れば……。
この男が最初に姿を現した時は、Mr.3もミス・ゴールデンウィークも警戒した。
当然だろう。何しろ、Mr.3は賞金首だ。以前と比べ、のんびりしていられる状況ではなくなってしまった。
「……何者だガネ?」
「ああ、すまんのう。敵じゃないわい。Mr.8と名乗れば分かってもらえるかのう?」
それを聞いて、多少は疑念を解いた。
「……何で、Mr.8がここにいるガネ?」
当然の疑問だったが、自分と相棒のミス・マンデーはそれぞれに援護に向かうよう命令が来たのだという。
Mr.8はMr.3である自分の所へ、ミス・マンデーはミス・ダブルフィンガーの下へ、だ。
「本当カネ?」
「あ〜疑うのはもっともじゃが、こちらとてアンラッキーズから何でそんなもんが届いたかは不明なんじゃ。こっちはオフィサーエージェントではないからのう。そっちから問い合わせてもらった方が早いわい」
ふむ、とMr.3は顎に手を当てつつ考えた。
……筋は通っている。
確かに、この重要な局面で、重要な部署に応援を回すのは当然だし、下手な雑魚を回した所で余り効果的な応援にはならない。それならば、フロンティアエージェントから役立ちそうな奴を見繕って……というのは十分ありえる。
Mr.3もMr.6がフロンティアエージェントながら、実力を評価されて新世界側に回された事ぐらいは知っている。実際、数字が上がっていけば、フロンティアでもオフィサーに為れる訳だから、おかしな話ではない。
……自分の地位なら、すぐに振り落とされる危険はない訳だし。
Mr.3は手配書が回ってからというもの、疑い深くはなっていたが、だからといってむやみやたらと疑ってばかりいては部下さえ疑わなければならない。
それに少なくとも、確認した限りでは彼は何年もBW(バロックワークス)の一員として活動してきたなら当然の常識を間違いなく持っていた。
「分かったガネ。それならこちらとしても協力してもらうガネ」
少しほっとしてMr.3は言った。
ミス・ゴールデンウィークも敵ではないと分かったからだろう。どこか安心した様子だ。
彼女の場合、戦闘能力がない故に、彼に手配書が回ってからというもの尚更危険な状態にあった。
幾度危機的な状況に陥った事か……。
幸いなのは、彼女自身は手配されていない為に、騙されて連れられている様子を演出すれば手出しされる事はなかった事ぐらいか。……もっとも、お陰でMr.3の罪状は増えていたりするのだが。
「分かった。それで何をすればいいんじゃ?」
言いつつ、近寄ってきて、ミス・ゴールデンウィークの傍を通り、Mr.3の下へ。
「【指銃】」
向かう途上。
彼女の傍を通り抜けざま、軽く一撃。
通常の【指銃】とは異なる。
そう、隣を歩きながら首筋に一撃を僅かに腕を上げ、肘を曲げたままで放たれた一撃で、だがミス・ゴールデンウィークは力なく倒れた。
瞬間、Mr.3は何が起きたか分からなかった。
だが、そのまま近付いてくるMr.8相手に咄嗟に手配されてから追われた者故に身についた反応が。
「【指銃】」
「ドルドルアーマー!」
どろりと体前面に広がった蝋の鎧が何とかギリギリで間に合った。
舌打ちするMr.8から急ぎ距離を取る。
「お前……!やはり、嘘カネ!」
「いいや……Mr.8なのは本当じゃ。ただ、本当の所属が違うだけじゃ」
その言葉で悟った。
こいつがかねてからいるだろうと推測されていた世界政府のスパイなのだと……。
「成る程……だとすると」
こいつの相棒であるミス・マンデーもまたそうである可能性がある。
そう思いはしたものの、動ける状況ではない。
それに……。
(仮にもMr.1の相棒だガネ。本当だとしてもあちらで対処してもらうしかないガネ)
そう判断すると、自らの腕に蝋を垂らす。
力なく倒れ伏すミス・ゴールデンウィークの様子を見る限り、彼女がこの戦闘中に復活するのは期待しない方がいいだろう。ならば、自分が自分の力で何とかするしかない。
(……私とて、BWのMr.3だガネ!)
今正に、戦いが始まろうとしていた。