第191話−Mr.3(3)
変身が終わった時、Mr.3の視界にいたのは象だった。
それも全身が毛並みに覆われ、牙もまた現在一般に知られている象より大きい。何より全体が一回り以上大きかった。
(……覚えがあるガネ。確かマンモス)
古代種だったか、それともまだ辺境の島のどこかに生きていたか。
そこら辺までは覚えていないが、獣人系なのははっきりした、が、それ以上に。
(……さっきまでの動きはスピードタイプだったのが、こっからはパワータイプカネ……)
戦闘スタイルがガラリと変わるであろう事が気になる。
能力者当人が、それに対応出来ていないならよし、だが、対応出来ていた時は……。
そして、その答えをMr.3はすぐに知る事になった。
カクの全身が肥大化し、巨体となる。
どこか鼻や牙も角ばった印象があるのは、変身前の素体故か。
この能力を手に入れてからはカリファ共々積極的に使用してきた。
どんな便利な道具とて使いこなせねば意味はない。
実際、自分以外の能力者と戦った事もあったが、振り回されている印象が強かった。
反面、CP長官の差配で密かに海軍兵士に混じって、海軍上層部の能力者同士の戦いを見る機会もあった。
……あの時の印象を問われたなら、凄かったとしか言いようがない。
赤犬大将の奔流するマグマ。
青キジ大将の瞬時に海すら凍らせる氷。
黄猿大将の一撃で大地を削る光。
長官もまたその荒れ狂う銀の洪水が周囲を薙ぎ払っていた。
当人によれば、能力の鍛錬も兼ねていたから、普段はあそこまで能力ばかりではないそうだが……少なくとも、能力が多彩なのは、そして使い方次第で様々な応用が利く事も理解出来た。
以後、自分の能力を使い、試し、それに合った戦い方を模索し続けた。
「ゆくぞ!【双鉄槌】!」
変身に気を取られていたのだろう。
瞬間動きが止まっていた目の前の巨体人形……自分がこのサイズになれば、巨体とまでは言えないかもしれないが、自身の後ろ脚で立ち上がり、前脚を叩きつける。
参考にしたのは長官の家のグランタイガー、アリスだ。
動物の五式使いという事もあり、色々と参考になる点が多かった。
さて、悪魔の実の蝋は硬い。
だが、反面というべきか、脆い。
硬さはあっても、金属特有の粘りがないからだ。
結果、斬撃から打撃へと変わった一撃に、操り人形は耐えられなかった。激しい衝撃を受け、腰付近から真っ二つに折れ……次の瞬間、溶けて新たな人形が生まれた。
(……やはりか)
所詮、あれは操り人形。
人形師を何とかしない限り、相手の精神力切れが起きない限り、何度でも蘇ってくるだろう。
「む?」
……どうやら相手も危機感を抱いたようだ。
人形の形状が変わった。
先程まではのっぺりとした人間を思わせるような印象だったのだが……今は全身至る所から棘が突き出し、手も刃物みたいな形状へと変化している。
(打撃が有効なのは分かった。後は……)
瞬時に体を半獣人形態へと変える。
パワーは落ちるが、同時に体のサイズも小さくなる。正に人間形態と獣形態の中間と言える。これが相手に通用すれば……。
「【流星槌】!」
空へと駆け上がり、そこからドロップキックをかける。
隙の大きな技だが……操り人形では、どうしてもタイムラグが生まれる。
棘?
こちらもまた【鉄塊】をかけての攻撃だ。全く痛くない訳ではないが、無視出来る範囲だ。
壊す度に相手もまた復活する。
正にイタチごっことも言えなくもないが……。
(ふむ)
やはり角度によって、相手の反応に差がある。
低位置からの攻撃に対しては反応が一段遅れる。
高い高度を取っての一撃にも反応がやや遅れる、が低空よりはマシだ。
確認の上で、今度は木々の高さ程度から今度は前から次は後ろから、その次は左右からと様々な角度から攻撃を加えて……人形への攻撃に対する反応から大体位置にも予想がついた。
再び高空へと舞い上がる。
そして……。
再度獣形態へ。その巨体を丸め、自身を砲弾として落下する。
「……これで終わりじゃ、【鉄塊丸】」
その光景に角度的に一瞬Mr.3は反応が遅れた。
気付いた時には驚愕した。
「な、なんで人形ではなく、こっちに来るガネ!?」
瞬間、頭の中で色々な対処法を考えた
だが……。
改めて、上空を見た。
降って来る巨大な象のサイズの砲弾を。
自分の蝋の強度を考えた。
結論は簡単だった。ふっとMr.3はニヒルな笑いを浮かべ。
「あんなもん無理だガネ!?」
血相を変え、現在の擬態——蝋で形作ったガランドウの樹木の中に潜んでいたMr.3は蝋を解いて、転がるように逃げ出した。
カクが着弾し、潜んでいた樹木模型に着弾、その衝撃で軽い毬のように吹き飛ばされ転がったMr.3は他ならぬ自身の蝋でコーティングされたが故に鉄のように硬い別の樹木に頭部をぶつけ、気を失った。