第192話−Mr.2(1)
さて、ここまでは世界政府側が上手く勝利を納めて来た。
だが、全てが全て上手く行っている訳ではない。
その典型例がMr.2を相手としているクマドリだった。
「蹴爪先(ケリ・ポアント)!」
「ぐぐっ……」
強烈な蹴りを受け、【鉄塊】で防御するも尚ダメージが通ってきたクマドリは呻き声を上げた。
「んが〜っはっはっは、残念だったわねい」
どうにもおかしい。
アスラと戦ってから、それなりの時間が過ぎた以上怪我が治っていたもおかしくはない。
だが、アスラとの戦闘後もCPとしてはこの厄介極まりない男を逃す訳にはいかない、と、追い続けてきた。
だが、その後のMr.2は復帰後も以前と異なり、逃走を行なう事が増えた。戦闘に突入しても時間が長引けば逃走を選んだ。
その結果として、以前程の戦闘力を失ったと判断されていた。
アスラ自身は果たして本当にそうなのか迷っていたのだが……如何に情報を分析しようとも、そこに真実が混じっていなければ意味はない。結局、保留とするのが精一杯だった。
しかして真実は……。
「こっちがたばかられたって〜事かい」
「んが〜っはっはっは。当然ねい!演技はあちしの得意技よう!」
という次第だった。
結果として、覇気をも使える新世界で鍛錬を重ねてきたMr.2ボン・クレー相手にクマドリは苦戦していた。
クマドリとて決して弱い訳ではない。
むしろ、以前より余程強くなっている。何しろ、彼もCPの忙しさのせいで人手が足りず、新世界にちょこちょこ派遣されていたからだ。
それでも尚、地力においてMr.2が上回っていた。
大将黄猿の介入により開戦前に両軍の対峙は終結した。
海軍側とて、海兵らは決して戦争がしたい訳ではない。ただ、上の命令があったから動いただけだ。
その上の更に上。頂点に近い黄猿大将から「戦闘をやめろ」と直接命令が下った以上、海兵らは、いやアラバスタ王国軍もまた、どこかほっとした様子で双方とも軍を引いていた。
無論、両方の部隊にBW(バロックワークス)の工作員は紛れ込んでいたのは確かだが、コブラ国王の傍には現在は近衛たるペルやチャカ。更に銃弾をその身でもって防いだゴム人間であるルフィ海軍中佐ががっちりガードしている。
一方の黄猿大将はというと、こちらに手を出して何とかなると考えるような無謀な奴はさすがにいなかった。
原作では万が一に成功すれば名を上げられるという願望から狙った奴がいたのは確かだが、ここでそんな事をやった所で何の意味もなく、それどころか先程暴走した面々がいたばかりなせいで、周囲の海兵もアラバスタ王国兵もピリピリしている所でやろうとしても、即座に取り押さえられる事が確実だったからだ。
この撤収の混乱の中で、Mr.2は巧妙に脱出した。
能力をフルに使い、或いは別の海軍将校に、或いは単なる海兵に化け、するすると戦闘を避けて逃げ出した。
お陰で、少将が突如消えた海軍側には密かに混乱が起きていたが、幸い目の前に海軍最高戦力がいる。黄猿は既に詳しい事情を知らされていたから、すぐに状況を把握し、部隊を掌握。指示を下していた。
この逃げ出したMr.2を張っていたのがクマドリだ。
といっても、常について回った訳ではない。そんな事をしても、まず振り切られるのがオチだ。
なので、軍の周囲にCPの監視員を配置し、部隊から離れる人間がいないか監視していた。
そうして引っ掛かったのが、合計11名余。
うち7名は混乱したり、サポートに潜り込んでいたBW構成員らである事が確認。3名はクマドリを含めた戦闘要員が始末し、遂に捕捉したのがMr.2だったのだが……。
「さ〜て、あんたを始末して、とっととオサラバさせてもらうわねい!」
「………」
いざとなれば逃げるしかあるまい。
逃げるだけならば、【剃】や【月歩】を使えば容易い筈だ。
とはいえ……。
(あっしにも〜CP9の一員としての意地がある、っとくらぁ)
政府非合法工作員。
その中でも最高の部隊を称されるCP9たる六式使い。
無論、Mr.2が万全の状態という、この現状はCPの情報収集の失敗を意味している。クマドリが責められる事はあるまい。だが、本来はそうした失敗を覆す事を期待されるのがCP9だ。
(まあ〜やれるだけぁ〜やってやる)
一方、Mr.2も余り余裕がある訳ではなかったりする。
(拙いわねい。こんな所で足止め喰らってる訳にはいかないのよねい)
策が失敗した以上、早々に離脱しなければならない。
何しろここまで逃れてきたとはいえ、海軍はその大部隊が未だ近辺に留まっている。指名手配されている自分ならば、その追撃に躊躇しまいし、最悪海軍大将までやって来る。出来るだけ早急に目の前の男を片付けねばならなかった。
(ま、なるようにしかならないわねい)
双方の思惑が入り混じりながら、戦いは続く……。