第19話−将来展望
『狂賢』より小物だったが、他にも数名の海賊を討ち取り、我々はフーシャ村へと戻ってきた。
そろそろ帰還せねばならない頃だ。まあ、確かに東の海はグランドラインとは比べ物にならない位気軽な海で、突然海王類が襲撃かけてくる事もないし、ログポースなしでは航路が分からないという事もない。突然異常気象が発生する事もないし、出会った海賊もグランドラインの連中と比べれば、実に弱かった。
まあ、こんな海だからこそ、ある意味ルフィみたいな性格の奴には良かったのかもしれん、と思う。
もし、この海がもっと危険な海だったら、ONE PIECEの物語は始まった途端に終わっていたかもしれない。何しろルフィは原作を見れば分かる通り、自身の正義に従う男だ。
それだけに、RPGゲームと同じだ。
RPGゲームだって、いきなりボスの支配地域からがスタート地点だったらそれこそどうにもなるまい。
ルフィは海賊の実力が最も劣る東の海だったからこそ、弱い海賊らと戦い、経験を積み、強者と戦えるだけの実力をつけていけたのだ。
……まあ、ルフィも同じ事ぐらいはやらねばなるまい。
とりあえず、ここの所エースとサボはめっきり塞ぎこんだ。
最初のケース以来塞ぎがちだったのだが、最後の町での事もあった。
サボの洩らした、『……なあ、俺達海賊になりたい、って間違ってたのかな…』という弱気な言葉に、エースが反発して、『海賊になるのを諦めるのかよ!俺達はこんな海賊にならなきゃいいだろうが!』と言ったのを、その町の子供が聞き付けたのだ。
大人はまだ、睨みはしたものの、小さな子供とあってそれ以上は言わなかった。
それに噛み付いたのは、同年代の小さな子供達だった。
特にエースが堪えたのは、小さな女の子、喧嘩になった少し大きめの男の子の妹と思われる彼女の叫びだった。
『何が海賊よ!何で私達のお父さんお母さん殺したような奴らになりたいって思うのよ!』
胸倉を掴まれるのではない。
殴られるのではない。
小さな少女の、顔中をくしゃくしゃにして、涙をボロボロと流した、その叫びにエースは何も応えられず、呆然とした様子で俯くしかなかった。
……俺もガープさんも2人にこの航海の間、特に何も言わなかった。
自分の目で見て、自分で感じてもらうのが一番だと思ったからだ。
この航海の間、ガープさんとはじっくり話し合った。
この人を説得せずして、今後の原作通りの展開は避けられないと思ったからだ。
……正直に言おう、俺は白ひげには生きていて欲しいと思っている。
別に白ひげがいい海賊だから、なんて言うつもりは毛頭ない。だが、調べれば調べる程、現段階でもっても彼が倒れる事は却って世界の海に無用な混乱と争いを発生させると悟らざるをえなかった。
『海賊王』ゴールド・ロジャーが倒れ、海賊提督『金獅子』のシキが行方を晦まし。
現在の海賊界は再編の真っ最中にある。
その中で厳然と聳え立つのが、大海賊白ひげだ。
原作を見れば分かると思うが、彼は財宝でも名誉でもなく、求めたのは家族だった。それ故に、息子の1人であるエースの為に家族総出で助けに向かい、そして命を散らした。
……だが、あそこにエースがいなければ?
エースが捕まったのは、自身の隊の副隊長であった黒ひげが四番隊隊長サッチを殺したからだったが、白ひげは、黒ひげの追撃は不要と異例の指示を出していたのを、他の隊長達の制止も振り切ってエースは黒ひげを追い、そして破れ、処刑台へと送り込まれた。
黒ひげが白ひげの船の誰かを殺すのは、避けられまい。ヤミヤミの実を発見するのが彼自身でない限り、それは起こる。
だが、その時エース以外の人間が黒ひげの隊長だったらどうだろうか?
海軍も、エースの公開処刑に踏み切った理由の大きな1つに、彼がゴールド・ロジャーの息子という面があった。
もし、原作のエース同様、その時の黒ひげの隊長が制止を振り切って追ったとして、だ。
捕らえられたのが、エースではなく、別の隊長だったら?果たして、公開処刑にまで至っただろうか?白ひげとの全面戦争、勝っても負けても損害が馬鹿にならないそれに、踏み切っただろうか?
それに、エースでなければ、ゴールド・ロジャーの息子でなければ、大渦蜘蛛スクアードは白ひげに刃を突き立てたりはしなかっただろう。……元々は、ディカルバン兄弟より先、真っ先に指揮を任されようとしたぐらいに信任が厚い男だったのだ。それが、ロジャーの息子という衝撃に、戦闘の興奮、サカズキさんの言葉で惑わされ、ああいう事になった。
そう……エースでなければ、相当状況は変わる筈なのだ。
まあ、無論、そうした未来の事象だけじゃなく、本音という部分もある。
夢を追うのはいいが、現実を見て、エースには出来ればガープ中将が望んだように海兵になって欲しい。
……もっとも、これは厳しいかな?とも思ってしまう。
実際にはそんな事はないと思うんだが、ロジャーの息子の自分がどの面下げて海軍に入れるんだ、という気持ちもあるだろうし、母を追い詰め死に追いやった海軍になんか、と思う気持ちもあるだろう。
それでも、エースもサボも、今からならまだ海賊になりたい、という想いには修正が効くんじゃないかと思うんだ。
その為には、ガープさんを説得しないと始まらない。
……あんな劣悪な子育て環境だけはやめさせないと。幼い頃からサバイバルってのも良くない、幼い頃から犯罪組織の一員なんてのも全くもって宜しくない。
という訳で、ガープさんを説得して、この2人、しばらく俺の船に乗せる事にした。
センゴクさんには見習いとして乗せる許可をもらった。……さすがに当初は一体何を言い出すのかと思われたようだが、ガープ中将の子育て方式を聞くと、さすがに呆れて了承をくれた。部下の海兵達には、ガープ中将のお孫さんと、その友達をしばらく海兵見習いとして乗船させる、という方向で伝えた。
既にガープ中将の非常識子育て法は部下達の間には広まっていたから(俺と中将が口論にも聞こえる議論してたのを聞いてた者が結構いた)、むしろ子供達に同情してた連中が多く、割とすんなりと受け入れられた。
というか、一番納得していなかったのは、エースとサボ当人だった訳だが……。
まあ、なんだ。
アキラメロ。
なお、ココヤシ村のベルメールさんにノジコとナミだが、会う事は出来た。
出来たが……今は何も出来なかった。
現在の付近の責任者はプリンプリン大佐。
原作では自身の正義にかけて海賊は放っておけないとアーロンパークに襲撃をかけ、返り討ちにあった海軍第77支部の准将兼司令官……の過去だ。
つまりは、正義感の強い、それなりに有能な海軍の人間だ。
現状、この平和な村周辺に、彼以上の戦力を派遣する余裕など海軍にはあるまい。ベルメールさんらも退役した海軍の人間、それもこちらは本部大佐、との接点や会話などそんなにある筈もなく……面識を作るのが精一杯だった。
何とか、原作の悲劇は回避したいものなんだが……所詮は、またしても偽善だが、なに、Tボーン大佐風に言うなら、俺のモットーは『やらない善よりやる偽善』、って所かね。
偽善だからって、やらなけりゃ誰も助けられない。偽善でもやれば、誰か助けられる人はいるなら、俺はそれを選ぼうじゃないか。
『狂賢』より小物だったが、他にも数名の海賊を討ち取り、我々はフーシャ村へと戻ってきた。
そろそろ帰還せねばならない頃だ。まあ、確かに東の海はグランドラインとは比べ物にならない位気軽な海で、突然海王類が襲撃かけてくる事もないし、ログポースなしでは航路が分からないという事もない。突然異常気象が発生する事もないし、出会った海賊もグランドラインの連中と比べれば、実に弱かった。
まあ、こんな海だからこそ、ある意味ルフィみたいな性格の奴には良かったのかもしれん、と思う。
もし、この海がもっと危険な海だったら、ONE PIECEの物語は始まった途端に終わっていたかもしれない。何しろルフィは原作を見れば分かる通り、自身の正義に従う男だ。
それだけに、RPGゲームと同じだ。
RPGゲームだって、いきなりボスの支配地域からがスタート地点だったらそれこそどうにもなるまい。
ルフィは海賊の実力が最も劣る東の海だったからこそ、弱い海賊らと戦い、経験を積み、強者と戦えるだけの実力をつけていけたのだ。
……まあ、ルフィも同じ事ぐらいはやらねばなるまい。
とりあえず、ここの所エースとサボはめっきり塞ぎこんだ。
最初のケース以来塞ぎがちだったのだが、最後の町での事もあった。
サボの洩らした、『……なあ、俺達海賊になりたい、って間違ってたのかな…』という弱気な言葉に、エースが反発して、『海賊になるのを諦めるのかよ!俺達はこんな海賊にならなきゃいいだろうが!』と言ったのを、その町の子供が聞き付けたのだ。
大人はまだ、睨みはしたものの、小さな子供とあってそれ以上は言わなかった。
それに噛み付いたのは、同年代の小さな子供達だった。
特にエースが堪えたのは、小さな女の子、喧嘩になった少し大きめの男の子の妹と思われる彼女の叫びだった。
『何が海賊よ!何で私達のお父さんお母さん殺したような奴らになりたいって思うのよ!』
胸倉を掴まれるのではない。
殴られるのではない。
小さな少女の、顔中をくしゃくしゃにして、涙をボロボロと流した、その叫びにエースは何も応えられず、呆然とした様子で俯くしかなかった。
……俺もガープさんも2人にこの航海の間、特に何も言わなかった。
自分の目で見て、自分で感じてもらうのが一番だと思ったからだ。
この航海の間、ガープさんとはじっくり話し合った。
この人を説得せずして、今後の原作通りの展開は避けられないと思ったからだ。
……正直に言おう、俺は白ひげには生きていて欲しいと思っている。
別に白ひげがいい海賊だから、なんて言うつもりは毛頭ない。だが、調べれば調べる程、現段階でもっても彼が倒れる事は却って世界の海に無用な混乱と争いを発生させると悟らざるをえなかった。
『海賊王』ゴールド・ロジャーが倒れ、海賊提督『金獅子』のシキが行方を晦まし。
現在の海賊界は再編の真っ最中にある。
その中で厳然と聳え立つのが、大海賊白ひげだ。
原作を見れば分かると思うが、彼は財宝でも名誉でもなく、求めたのは家族だった。それ故に、息子の1人であるエースの為に家族総出で助けに向かい、そして命を散らした。
……だが、あそこにエースがいなければ?
エースが捕まったのは、自身の隊の副隊長であった黒ひげが四番隊隊長サッチを殺したからだったが、白ひげは、黒ひげの追撃は不要と異例の指示を出していたのを、他の隊長達の制止も振り切ってエースは黒ひげを追い、そして破れ、処刑台へと送り込まれた。
黒ひげが白ひげの船の誰かを殺すのは、避けられまい。ヤミヤミの実を発見するのが彼自身でない限り、それは起こる。
だが、その時エース以外の人間が黒ひげの隊長だったらどうだろうか?
海軍も、エースの公開処刑に踏み切った理由の大きな1つに、彼がゴールド・ロジャーの息子という面があった。
もし、原作のエース同様、その時の黒ひげの隊長が制止を振り切って追ったとして、だ。
捕らえられたのが、エースではなく、別の隊長だったら?果たして、公開処刑にまで至っただろうか?白ひげとの全面戦争、勝っても負けても損害が馬鹿にならないそれに、踏み切っただろうか?
それに、エースでなければ、ゴールド・ロジャーの息子でなければ、大渦蜘蛛スクアードは白ひげに刃を突き立てたりはしなかっただろう。……元々は、ディカルバン兄弟より先、真っ先に指揮を任されようとしたぐらいに信任が厚い男だったのだ。それが、ロジャーの息子という衝撃に、戦闘の興奮、サカズキさんの言葉で惑わされ、ああいう事になった。
そう……エースでなければ、相当状況は変わる筈なのだ。
まあ、無論、そうした未来の事象だけじゃなく、本音という部分もある。
夢を追うのはいいが、現実を見て、エースには出来ればガープ中将が望んだように海兵になって欲しい。
……もっとも、これは厳しいかな?とも思ってしまう。
実際にはそんな事はないと思うんだが、ロジャーの息子の自分がどの面下げて海軍に入れるんだ、という気持ちもあるだろうし、母を追い詰め死に追いやった海軍になんか、と思う気持ちもあるだろう。
それでも、エースもサボも、今からならまだ海賊になりたい、という想いには修正が効くんじゃないかと思うんだ。
その為には、ガープさんを説得しないと始まらない。
……あんな劣悪な子育て環境だけはやめさせないと。幼い頃からサバイバルってのも良くない、幼い頃から犯罪組織の一員なんてのも全くもって宜しくない。
という訳で、ガープさんを説得して、この2人、しばらく俺の船に乗せる事にした。
センゴクさんには見習いとして乗せる許可をもらった。……さすがに当初は一体何を言い出すのかと思われたようだが、ガープ中将の子育て方式を聞くと、さすがに呆れて了承をくれた。部下の海兵達には、ガープ中将のお孫さんと、その友達をしばらく海兵見習いとして乗船させる、という方向で伝えた。
既にガープ中将の非常識子育て法は部下達の間には広まっていたから(俺と中将が口論にも聞こえる議論してたのを聞いてた者が結構いた)、むしろ子供達に同情してた連中が多く、割とすんなりと受け入れられた。
というか、一番納得していなかったのは、エースとサボ当人だった訳だが……。
まあ、なんだ。
アキラメロ。
なお、ココヤシ村のベルメールさんにノジコとナミだが、会う事は出来た。
出来たが……今は何も出来なかった。
現在の付近の責任者はプリンプリン大佐。
原作では自身の正義にかけて海賊は放っておけないとアーロンパークに襲撃をかけ、返り討ちにあった海軍第77支部の准将兼司令官……の過去だ。
つまりは、正義感の強い、それなりに有能な海軍の人間だ。
現状、この平和な村周辺に、彼以上の戦力を派遣する余裕など海軍にはあるまい。ベルメールさんらも退役した海軍の人間、それもこちらは本部大佐、との接点や会話などそんなにある筈もなく……面識を作るのが精一杯だった。
何とか、原作の悲劇は回避したいものなんだが……所詮は、またしても偽善だが、なに、Tボーン大佐風に言うなら、俺のモットーは『やらない善よりやる偽善』、って所かね。
偽善だからって、やらなけりゃ誰も助けられない。偽善でもやれば、誰か助けられる人はいるなら、俺はそれを選ぼうじゃないか。