200話記念外伝−あの人は今
【ガイモン&バギー】
とある珍獣の島。
この島に、ガイモンという男がいる。
仲間達と宝を探しに来たは良かったが、箱に嵌り抜け出せずにもがいている内に、仲間達は船へと帰還。ようやっと箱から顔と足を出して動けるようになった時には既に船は地平線に消える頃合だった。
宝箱の姿は見つける事が出来た。
だが、それは突き出した岩の上、今の箱に嵌った状態では到底登れるような場所ではない。
それ以後、ガイモンはあれは自分が見つけたから自分のものだと、『自分の宝箱を守る』と称して、この島を守り続けてきた。
これまでは。
「けっ、手間かけさせやがって」
その日やって来た海賊は『道化』のバギーに率いられた海賊団だった。
バギーの勢力は拡大している。
何しろ、東の海でも大物の部類だった内、『百計』のクロこそ実は生きていた、と復活したが、『魚人』アーロン、『騙し討ち』のクリークといった大物達が次々と捕縛され、その縄張りがすっぽり空いた。特にクリークの勢力は傘下の海賊が多かっただけに広範囲だったから、バギーも嬉々として勢力を広げたものだった。
そうした中で訪れた、この島で見かけた宝箱。
こいつはいいものを見つけたとばかりに開けてみれば中には鉄砲を構えたアフロな髭もじゃが1人。
危うく撃たれる所だったとバギーが怒れば、宝箱を奪いに来たのか、という台詞。
さて、海賊相手に「宝箱」などと言えばどうなるか?
答えが冒頭の結末だ。
バギーは「ほほう、そいつは頂いていくか」と手を伸ばした所を狙撃され、激烈だが短い戦闘の末、ガイモンが叩きのめされて終わったのだった。
確かに、原作では周囲が周囲だけにバギーが小物に見えるが、東の海では間違いなくトップクラスの海賊の1人だった。
だが……。
「なんじゃこりゃあ!?」
引き降ろされた宝箱は……いずれも空だった。
腹いせに、ちょうど森から出てきた珍獣を殺そうとした時、全身ボロボロで転がされていたガイモンが立ちはだかった。
勝てないのは分かっている筈だ。
何の事はない、単なる珍獣のはずだった。
それでも、ガイモンはバギーの前へと立った。しばらく睨んでいたが……やがて、バギーは面白くもなさそうに鼻を鳴らすと背を向けた。
「ちっ……おい、お前ら帰るぞ」
「「え?いいんすか?船長」」
モージとカバジ。幹部の2人が声を掛けるが、『阿呆!あいつ殺したって一銭にもなりゃしねえだろうが!やるだけ時間と弾の無駄だ!』、そう叫んで帰って行くバギーの後を海賊達は一瞬、ガイモンに視線を向ける者もいたが、いずれもこれ以上手を出す事なく、慌てて追っていった。
やがて、バギーの船が出航したのを見送り、ガイモンは改めて島を振り向いた。
「ああ、そうか……」
自分はこの島が好きなんだと。
そう理解して、ガイモンは満面の笑顔を浮かべた。
一方、バギーはといえば、船上から舷側に頬杖をついて、面白くもなさそうな顔で島を見ていたが、ふとニヤリと口元に笑みを浮かべた。
迫力も足りない、実力も貫禄も何もかも足りない。それでも嘗ての懐かしい、尊敬する人を思い出させた。だからこそ、バギーはアレ以上あの男に手を出す気を失った。
「ロジャー船長に似た目しやがって……」
手前の命はその代金だ。
立ち上がり島に背を向けると、バギーは「行くぞ、手前ら!次に出くわした獲物は逃がすんじゃねえぞ!」、そう叫んだ。応える声が船に響く中、もうバギーは島に目を向ける事はなかった。
【フルボディ】
「失礼します!」
そう声を掛け、ローグタウン駐留部隊の一員であるフルボディ本部大尉は部屋へと入った。
その中には黒いスーツと海軍のコートを纏った美女が1人。海軍本部大佐にしてローグタウン駐留部隊司令官『黒檻』のヒナである。
といっても、それもあと少しの事。
これまでの功績が認められ、また、ローグタウンが落ち着いた事もあり、ヒナは海軍本部へと戻る事が決まっている。その際には海軍本部准将へと昇進が決まっている。
フルボディは東の海へ休暇でやって来た。
本来ならば、東の海で一夏の出会いを体験して帰る予定だったが、帰路でヒナ大佐に出会ったのが全てだった。
一目惚れ。
そうとしか言いようがない。
以後、彼女の傍にいられるよう転属届けを出し、ローグタウンで働き、更に頭角を現せば目を向けてくれるだろうと頑張り続け……。
今ではヒナ大佐の信頼すべき副官となっている。
「ご苦労様、貴方も休んでいいわよとヒナ思うわ」
「は、それでは失礼します」
敬礼し、フルボディもまた下がる。
そう、彼も昇進が決まっている。ヒナ大佐の海軍本部帰還に合わせ、少佐へと昇進し、副官を続ける事になる。
ヒナ大佐と出会ってからは、女性を口説く事もめっきりと減った。どうしても女性と話していても、ヒナ大佐と比べてしまうからだ。
少しは彼女も自分に気を許してくれるようになったかな。
そう思いながら、フルボディは部屋へと戻っていった。
彼の傍らには別の世界で魂の相棒となった、同じ女性に懸想する親友はいない。
その彼の歩いていった通路の壁には新たに張り出された手配書が何枚か。
黒ネコ海賊団副船長『1、2の』ジャンゴ。
懸賞金額1000万ベリー。
そんな手配書が静かに張られていた。
……その頃。
「ふう、あいつは私より派手に活躍してるみたいね、ヒナ悔しい」
久しぶりに何気なしに届いたスモーカーからの手紙。偶には手紙ぐらい寄越せとこちらにきて三ヶ月後ぐらいに手紙に書いて送ったら、律儀に定期的に近況を送ってくるようになった。
穏やかな、優しい笑顔で手紙を読み終えると、引き出しを開け、綺麗に整頓された手紙の中に仕舞い、引き出しに鍵をかける。
……その時のヒナを見たら、フルボディは崩れ去っていたかもしれない。
【インペルダウン】
「しょ、所長ー!?」
ハンニャバルが泡を食って地獄のインペルダウン所長マゼランの部屋へと駆け込む。
その様子を見て、マゼランは深い溜息をついた。
「うわ、所長!?そんな深い溜息なんてつかないでくださいよ!死んじゃいますって!?」
ドクドクの実の能力者であるマゼランの吐息はこれ全て毒になる。
限られた空間である所長室で、確かに毒ガスを撒き散らしていれば、ろくな事にならないのは確かだろう。
もっとも、マゼランが溜息をついたのは別にハンニャバルを殺そうとした訳でもないし、ハンニャバルの態度が情けないと思った訳ではない。
ハンニャバルはこう見えてかなりの腕を持つし、何より確たる正義がある。
『大勢の普通に暮らしている人々が穏やかに暮らせるように』と、その為には地獄の釜の蓋たるこのインペルダウンからは絶対逃さぬと、その為に命を賭けられる男だ。
だからこそマゼランは彼を副所長につけているし、看守らも普段はからかいながらも、いざとなれば即座にハンニャバルの指示に従う。良い意味で口先だけの男だと、口では何と言おうともやる時はやる男なのだと皆が理解しているからだ。
そんな男がここまで慌てて駆け込んで来る。
もし、囚人が暴動を起こしたなら、ここに来るのは看守の1人であり、ハンニャバル自身はそれを食い止めるべく最前線に立っている事だろう。となれば、ここに彼自身が来ているのは……。
「その、シリュウ看守長が……」
「やはりか……」
インペルダウン看守長『雨の』シリュウ。
マゼランと並び恐れられる男だが、囚人達にどちらが【危ない】男かと問いかければ、間違いなくシリュウの名が挙がるだろう。
マゼランは確かに恐るべき男だが、無駄な殺しはしない。
まあ、インペルダウンに放り込まれた時点で緩慢なる死刑に処せられたと言えなくもないし、一度騒ぎを起こせば容赦しないが、少なくとも積極的に囚人を殺す為に動く事はない。
シリュウは違う。
そもそも勤務時間が短いマゼランに対して主力となる男でもある上に、気紛れで囚人を殺す。
ハンニャバルの制止も聞こうとせず、何しろ実力に措いては間違いなくこのインペルダウンの双璧的な存在だ。ハンニャバルに抑えきれるような男ではない。
「やむをえん……!」
だが、それでも彼の存在がインペルダウンに措いて必要だったが故に、殺すのが海賊に限られていたからこそ、これまで彼の行動は問題視されつつも見逃されてきたが……さすがにもう限界だ。
「ハンニャバル!」
「はっ!」
「出るぞ。LEVEL6の檻を1つ開けておけ……!」
「えーーーーーっ!?」
それが意味する所を悟り、絶叫するハンニャバルを残し、マゼランは所長室を出て行った。
この後、激戦の末、シリュウは倒され、今度は彼が囚人として収監される事になる。