第202話−転換点
クロコダイル1人に対して、CP9最強を謳われるロブ・ルッチと自然系能力者であるスモーカーの2人。
それでも尚……。
「舐めるな……!」
砂漠は己のフィールドとばかりに獅子奮迅の戦いぶりを見せる。
砂嵐は尚も吹き荒れている。
確かに煙が立ち込めた事で視界は妨害された。だが、それだけだ。
ここが砂漠ならば、砂が、己の分身が奴らの居場所を教えてくれる。
「【砂漠の向日葵(デザート・ジラソーレ)】!」
砂が足場を失う。
だが、一瞬の間でその変質を察知し、急ぎ、ルッチもスモーカーも【月歩】で空へと逃れる。
だが……。
「く……!」
「面倒な……!」
周囲は巨大な砂嵐が荒れ狂っている。
熟達の六式使いであるルッチでもバランスを崩しかける。
スモーカーは自然系能力者である為に本来は効かないはずなのだが、今は下手に煙に体を変えると吹き荒れる風に体が引き千切られそうになる。……どんな能力者でも何かしら弱点がある。
ルフィのゴムならば斬撃、バギーのバラバラなら打撃がという具合で、それは自然系とて変わらない。
事実、クロコダイルの砂ならば水分、濡れたら砂は固まってしまう為に攻撃が有効になってしまう。
では、スモーカーは?
実は煙の弱点は風だ。
強い風が吹き荒れていては煙は流されてしまう。ただ、単に大量の煙を流して視界を遮るだけならばいいが……。
「くそ……!」
体を煙に変えられない為に、六式の習熟度で劣るスモーカーは【月歩】で空中にとどまっていられない。
バランスを崩しつつも、スモーカーは何とか着地する。
瞬間、ぎょっとする。クロコダイルが距離を詰めていたからだ。しかも……その鉤爪には何かの液体が滴っている。この状況でアレがちょっと濡れただけさ、などと軽い気持ちで考えられる馬鹿がいる訳もなく……。
(……毒か!)
しかも、接近戦を仕掛けてきて、覇気を纏っていない訳がない。
急ぎ、背中の十手に手を伸ばそうとしたが……。
(……間に合わん!)
「【鉄塊・砕】!」
空から駆け下りてきたルッチが覇気を纏った蹴りでもって、クロコダイルを蹴り飛ばす。
ガードしたものの、これには溜まらず素直にクロコダイルは下がった。
「……すまん、助かった」
「……ふん」
互いに視線は合わさず、だが、背中合わせになるように位置取りする。
既に分かっていた。クロコダイルに自分達は一対一では勝てないと。……何より場所が最悪だった。
これがアスラがやりあった時のように、試合会場のような場所であればまだ良かった。だが、ここは砂砂漠だ。クロコダイルがその全力を発揮出来る場所であり、使った砂は即座に補充される。
策はある。
互いに相手が誰か、どのような力を持っているかなどは聞いている。
事前に一応ではあるが、このように共闘する事になった場合の対応策なども考えてはいたのだが……まさか、激しい砂嵐の中戦う事になるとは予想していなかった。いや、ここら辺は想定が甘かったと考えるべきだろう。
ならば、こうなった以上、多少の危険を犯してでも……。
その一方で、クロコダイルもまた焦りがあった。
(……何時までもこいつらに構ってはいられん……)
最高司令官たる自分が足止めを食っている訳にはいかない。
作戦が予想外の戦力の介入で中止に追い込まれた以上、早急に部隊の引き上げと手駒の再配置を行なわねばならない。その為には早急にレインディナーズに戻らねばならないし、そもそも自分が最前線でやりあっている事自体が余りよろしい話ではない。
無論、この時点で既にオフィサーエージェント1つとってもほぼ壊滅状態にある事をクロコダイルは掴んではいない。知っていれば、また違う対応もあっただろうが……。
だがだからといって、彼らを見逃すという手もまた、ない。
特にMr.6は色々と危険な情報も知っている。無論、その大半は世界政府側に流されていただろうが、そもそもMr.6の立場にある者が裏切り者だったなど、その相手を討ち取れず放置しておくなどクロコダイル自身の組織における権威に傷がつきかねない。
だからといって、仮にも単独潜入を果たしていた程の豪の者。
加えて、自然系悪魔の実の能力者でもある海軍本部の将官。そんなものが容易く倒せるなら誰も苦労はしない。
(……ならば、やむをえん。少々危険を犯してでも早急に片付けるしかあるまい)
奇しくも双方を思惑が一致した事により戦場はまた動く。