第211話−三十六計
アスラとティーチ。
2人の戦いはアスラが先手を取った。
「【大嵐】」
巨大な真空の刃がティーチを襲う。
直撃を受けたティーチが苦しむも、体が破壊された様子はない。黒く噴き出した煙のような闇が治まると荒い息をつきながらもティーチは立ち上がる。
「……それが闇か」
「よく知ってるな……そうだ、こいつが自然系悪魔の実の1つ、悪魔の実の中でも一際凶悪と言われるヤミヤミの実だ」
通常の自然系と異なり無効化は出来ないと言うが……それはあくまで痛みだけのようだ、とアスラは判断せざるをえなかった。超人系や動物系の能力者ならば斬撃が無効な能力者でない限り、直撃していれば今の一撃で怪我の1つぐらいは負っている。
だが、ティーチは苦しみはしたものの、体には怪我の1つもない。
「今度はこっちから行くぜ!【闇水(くろうず)】!」
「!!」
黒ひげの掌から発生した闇がアスラを引き寄せる。
アスラは幸い、この闇によって悪魔の実の能力が封じられる事を知っているが、知らなければ海軍大将とて不意打ちの一撃となりかねない。
「【鉄塊・剛】!」
だが、逆に言えば封じられるのはあくまで悪魔の実の力のみ。
叩きつけてきた豪腕に対して、純粋な技でもってアスラは耐える。
「……成る程、面白い能力だ」
悪魔の実の能力は使い手次第。使い手の発想が貧困であったり、或いはそれに溺れたり、制御出来なかったりすれば、同じ超人系動物系であっても、それをフルに発揮した人間に比べ大きく劣る。
ベラミーのバネバネの実とて、首や胴体をバネに変えれば敵から受ける打撃の有効性は大幅に下げられるし、顔全体をバネに変化させられたなら、あの叩きつけられた瞬間のダメージも大幅に軽減出来たはずなのだ。
或いはもし、バネバネの実による強度変化がスパスパの実同様の鋼のバネとして起きるのならば、防御にも使えるだろう。だが、実際はベラミーはただ移動速度の強化に使っただけだった。結果があれだ。
……元々、この目の前のティーチは生身の実力は高いはずなのだ。
何しろ、悪魔の実の能力者となる以前にシャンクスと戦い、その顔に傷をつけた程の男のはずだ。
どうにもこの男については実力が原作を見てもはっきりしない。
シャンクスにあそこまで警戒させるような事を言わせたかと思えば、妙な所で苦戦する……。
(いや、これはただ単に力に溺れているだけ、か?)
何しろ、長い時間をかけて探し続けてきた悪魔の実だ。
それをようやく手に入れる事が出来たとなれば、その力を試したいと思う気持ちは分かるし、試して自分のものにしていかねば黒ひげの命はあるまい。普通に手に入れたならばまだしも、彼は白ひげ海賊団における最大の禁忌を犯した。
白ひげが彼を許すとは思えない。
事実、原作ではエースが単独で飛び出したが、こちらでは白ひげ海賊団そのものが、その傘下共々活発に動いているらしい。
おかげで、一時は何が起きたのかと海軍でも大騒動になったものだ。もっとも、だからこそアスラがティーチの事を知っていても海軍で疑問に思われる事はない訳だし、センゴク元帥らがティーチの売り込みに対しても即効で切り捨てたりしなかった訳だから、世の中何が幸いするか分からない。
とはいえ……。
この男の七武海入りを狙う理由を知っているアスラとしては、出来ればここで仕留めてしまいたい。
(だが……出来るか?)
いや、迷うな。
そう自らに言い聞かせると、アスラは踏み込んだ。
【SIDE:ティーチ】
くそったれ、戦闘方法の相性が悪すぎらあ!
内心でティーチは罵り声を上げた。
目前のアスラ中将は能力者だ。だが、厄介な事に殆ど戦闘に能力を使用する気配がない。加えて、アスラ中将の戦闘は格闘戦だ。
【闇水(くろうず)】で引き寄せた所で、六式と併用しての格闘が主体のアスラ中将相手じゃ、中将の得意な距離に自分から飛び込むのと同じだぜ!
ちっ……しょうがねえ、余りやりたかねえ手だったが……。
今はとっとと逃げるが勝ちだ。
そう判断すると、ティーチは早かった。
「【闇穴道(ブラックホール)】!」
周囲の物質、果ては人間まで飲み込む。
町の人間も海賊もお構いなしだ。
それでも瞬時にアスラは闇の圏外へと空を駆け、離脱する。だが、構わない、目的は奴じゃない。
「【闇穴道(ブラックホール)】!」
「【闇穴道(ブラックホール)】!」
連発したお陰で、町は住人ごと大半吸い込んじまったな、ゼハハハハ!
途中で奴も気付いたらしく、攻撃が激化したが……何、防御に専念すりゃあ、何とかなるもんだ。
「【解放(リベレイション)】!」
そうして、突撃してきた所にカウンターでぶつけてやるが……ちっ、ここで能力を使うか。九尾で薙ぎ払って、突き進んできやがった。だが、これで終わりだ。
「おおっと待ちな。今、俺の中には大勢の人間がいる。海賊だけならともかく、町の住人もなあ……」
ゼハハハハハ!そうだろうな、止まらざるをえねえだろう。
さて、だがこういう奴はそっからが怖いんだ、吹っ切ってきやがるからな。だからもう一押しいる。
「いいのか?0ベリーの賞金首でもねえ海賊1人の討伐の為に町1つの住人を生贄にしてもよ?」
そう、今の俺はまだ賞金はかかってねえ。
これが多額の賞金がかかってるような高名な海賊ってんならまた話は別だろうがな……正義を背負ってるからこそ、こういう時動けなくなる。
とはいえ、だからってここでこっちが人質を取ってると思って攻撃しちまったら話はややこしくなっちまう。
とっとと逃げるが勝ちだな……。
まったく、ついてねえ。
結局、海軍本部中将相手に、それも次期大将とも言われるような奴にならこっちの実力を見せるにはいい機会だと思ったんだが、尻尾巻いて逃げる羽目になっちまうとはな。
あ〜あ、ついてねえ。