第216話−報告
エースの事はここにいる誰もが知っている。
幼い頃よりこの島で育ったのだ。
ましてや、ガープの養子であり、アスラが実質育てていたのだ。当然だが、ここにいる四人共に接点がある。
よく知っている相手がこのような事件の当事者となれば……矢張りそれなりに思う所があるのだろう。単なる犯罪者を相手にするのではないどこか重苦しい雰囲気がある。
天竜人という、かの存在の傍若無人ぶり、不条理ぶりを知るから尚更、とも言うべきか。
それでも詳しい事情の説明を求めたのは彼らが責任というものをよく理解していたからだと言えるだろう。
「事の発端自体は至極単純な事です。世界貴族が何時もの如く一般市民を殺害しようとした。ただそれだけです」
その言葉には全員が眉一つ動かさない。
彼らとてそれが正しい事だとは思っていないが、世界貴族が暴走すればとんでもない被害が世界にもたらされる事を理解している。理解せざるをえない立場にある人物でもある。彼らに出来るのは、世界貴族に馬鹿であり続けてもらう為に犠牲となった者達より少しでも多くの者を救う事ぐらい。
無論、被害にあった人々がそれで納得するとは思っていない訳だが。
「それで?その対象がエースだった、って事なの?」
青キジが割り込むが。
「少しは落ち着くといいよお〜?そう単純な話じゃあ〜ないだろうからねえ?
エースならシャボンディ諸島の事もよ〜く知ってる。世界貴族が難癖つける前にさっさと逃げ出すぐらいの頭は持ってるはずだろお〜?」
そう黄猿が告げた事で、ちらりとそちらに視線を向けた青キジも「すまん、確かにそうだな。続けてくれ」とアスラに告げた。
「は。黄猿大将が言われた通り、エース自身が直接狙われた訳ではありません。狙われたのは……四人程の幼い子供達です」
全員が眉をしかめる。
毎度の事であるとはいえ、世界貴族の行動は気持ちの良いものではありえないのだ。
「順を追って説明致します。まず世界貴族が視察に赴く途上、急遽気分を変え、途中の島への上陸を命じました」
我がままによって、ある島へと到着した。
これは実の所は面倒な事態を招く要因の一つであり、だからこそ宥める役やわざと周囲によれそうな適当な島のない航路を選んだりしているのだが……。
今回は突発的な大嵐を避けた結果、視認距離まで近づいた島に興味を持った世界貴族が押し切ったらしい。
「そこで世界貴族はある女性に目をつけました。その女性を世界貴族は『気に入った』と連れ帰ろうとしたのですが、女性は『夫と子供がいるので許して欲しい』と嘆願。それを聞いた世界貴族はその夫はどこにいるのかと確認したそうです……これが問題の始まりでした」
確認したら許してくれる、なまじ彼女や周囲の人間が世界貴族の事を知らなかったのが不幸だった。
女性は夫を紹介した。そして、あっさりと夫を殺された。
『これで旦那はいなくなったえ』、そう告げ、泣いて夫の遺体にすがろうとする女性を引きずっていこうとした世界貴族の前へ子供達が現れた。
そうして、お父さんを返せ。お母さんを連れて行かないでと嘆願し……。
予想はつくだろう。不快に感じた世界貴族はその子供達をも処分しようとし……。
そうして、サボがその前に立ちはだかった。
「待て、飛び出したのはサボだったのか?」
確認の為にセンゴクが口を開く。
「はい、最初に飛び出したのはサボだったようです」
【鉄塊】。
それによって、子供達を守ったサボだったが、当然世界貴族は不満だった。
苛立ち、幾度も銃を撃つが、その全てをサボは弾き、子供達を守った。
だが……それは世界貴族の不快感を高めるだけでしかなかったのだ。
『おい、お前。次にお前が銃弾を弾いたら、この島全体を吹き飛ばしてやるえ』
そう告げ、部下達にもそれを命じた。
次にこいつが弾を弾いたら、島を吹き飛ばすから準備をしろ、と……。
そうして銃が撃たれた。
結果は予想がつくだろう。サボは【鉄塊】を使わず、銃弾を受けた。
『おお、ようやく血が出たえ』
にんまりと笑顔になった天竜人はいたぶるようにサボの全身に銃弾を撃ちこみ……やがて、サボは立っていられなくなり、倒れた。
その体を容赦なく蹴飛ばした天竜人はトドメとばかりにその脳天に銃を向け……。
そして、割り込んだエースによって焼かれた。
或いはそれだけならば大火傷は負っても死にはしなかったかもしれない。だが、その天竜人は先程から述べたような理由で銃を大量に撃つ為に多数の銃や弾を持ってこさせて、体に身につけていた。……それが高熱に晒され、暴発、爆発し、ただでさえ重傷を負っていた天竜人はそれが原因で……死んだ。
そうして、助けた島の人間から禍を恐れて追い払われたエース達は……天竜人が死んだ責任を負わされる事を恐れた護衛や付き人達によって緊急報告で指名手配を受けたのだった……。
「……今の所判明している事情は以上です」
「「「「…………」」」」
全員が全員渋い表情だ。
何故、サボが飛び出したのかが全員分からない。
彼なら子供達を全員【剃】で浚って、消えたように見せかける事も不可能ではないはずだが……。
など、幾つも疑問点が浮かぶ。
「……いずれにせよ、捕縛はせねばなるまい」
捕縛で済む問題とは思っていない。
世界貴族を殺した、という事実はそれだけ重い。それでも、彼らは海軍の最上層部であり、やらねばならない。
そう考えた時だった。
「ならば、そのお役目、私共にやらせていただけませんでしょうか?」
そんな第三者の声が響いた……。