第219話「これから」
「……むしろ、ここまで海賊が入り込めたのが問題じゃのう」
「そうだねえ~何らかの悪魔の実の能力者じゃあるんだろうがあ~……ちと、警備体制の見直しをしないといけないねえ~」
「……面倒だけど、やるしかないね」
ラフィットが拘束されて運び出された後、三大将がぼやいた言葉だ。
全くもって同感だ。
「……この後で絶対にやらねばならんな。だが、まずは元の話の続きだ。あのエース達がそもそも何故天竜人を殺さねばならんような、いや、違うな。天竜人に関わらねばならんような状況に追い込まれたのだ?」
「……残念ながら、まだそこ等辺りの詳しい事情は……」
問題はそこだ。
幼い頃よりマリンフォードで育ったエース達は重々天竜人の厄介さは知っているはずだ。仮にエースが甘く見ていたとしても参謀役を自他共に認めるサボがきっちりと学んでいたはずだ。そのサボが、天竜人の前に何故飛び出さねばならなかったのだろうか?そこが分からない。
とはいえ、何しろ、天竜人とその護衛達は軒並みエースに片付けられている。
海軍の人間を派遣して現場にいた人間、村人に話を聞くにしても時間がかかる。
おまけに、近場の海軍の人間は田舎すぎて捜査活動なんてろくにやった事ないから、まともな情報が入ってこない。
彼らはあくまで現代風に言うならば町のお回りさん、普段はそこに海軍がいるという事で周囲の海賊を牽制し、通報を受けて駆けつけ、海賊を追うのが仕事だ。刑事の仕事は彼らの役割ではない。
さすがにアスラといえども、世界の全ての情報をリアルタイムで把握出来る訳ではないのだ。あくまでアスラは他の人間より少しばかり、いや遥かに情報を得やすい立場にあるにすぎない。
「……続報待ち、か……」
ポツリ、とセンゴクがそれを聞いて呟いた。
一方その頃。
海上を進む一隻の船があった。
無論、エース達だ。
その船上は実に重苦しい空気に包まれていた。正確には「俺は怒ってる上に不機嫌だぞ!」という空気を全身から発している包帯だらけで横になっているサボと、気まずそうではあるが間違った事はしていないとばかりにデンと座っているエースにゾロ、何も言わずに腕組みをして脇で目を閉じているサンジに、おろおろと皆を見回すたしぎ、といった所だ。
「……何で見捨てなかった」
「出来る訳ねえだろう」
互いの主張を言ってしまえば、こうなる。
そもそも、あの瞬間、エースとサボの二人は仲間を止めようとした。天竜人の行動を実際に見るのは始めてだったが、アスラから彼らの異常性はよく聞かされていたし、その危険性も理解していた。如何なる形にせよ自分達が手を出せば、こちらは海軍の敵となってしまう。
そう、アスラやガープ、ルフィ。センゴクにおつるさん、サカズキやボルサリーノ、クザン。エースにせよサボにせよ二人には海軍には大勢の友人がおり、恩義のある相手がおり、子供の頃から可愛がってもらった人達がいる。小さい頃から一緒に遊んでいた同年代の友人の一部は実際に海軍に入っている。そんな彼らと敵対せざるをえなくなる。
そして、そうなった時どうなるか。はっきりとそれが分かった。おそらく待っているのはガープとアスラによる責任を取っての彼らの討伐任務だ。そして、それは増える事はあっても減る事はないだろうし、あの二人がエース達にしてやれる事は、「せめて楽に」殺してやる事だけだろう。
だからこそ、内心に色々抱えつつも二人は仲間を止めようとした。
ただ、エースとサボは二人、咄嗟に動こうとした仲間は三人。
それ故に、動きを必死に抑えるのが精一杯で、結果的にゾロが怒鳴り声を上げるのを防ぎ損ねてしまった。
『何してやがんだ、そこの金魚鉢被ったクソ野郎!!』
聞こえなけりゃ良かったのに。
自分の事だと認識してくれなければ良かったのに、悪口というものは何故か理解出来てしまうものらしい。天竜人はすぐ怒り出した。
こうなると、放置しておく訳にはいかない。
最悪、関係ない島の住人まで巻き添えにしてしまう。そうなれば、殺される人間は今、目の前で死に掛けている一人ではすまなくなるだろう。
最悪バスターコールが発動し、島ごと吹き飛ばされる。
だからこそ、サボが全てを引き受ける覚悟で飛び出した。
実の所、最初防御したのも思惑通り。
権力はあれど、その精神は幼稚。
そんな人間をサボは生まれた頃から、自身の親という形で見てきた。ちょっと怒らせれば、それだけでもう他の事を忘れて自分を殺す事だけに意識を集中させ、死ねば機嫌が戻るだろう、と……。
それならば、自分と女性一人、そしてその旦那。
それだけの犠牲で他の全ては助かる。子供達は既に周囲の村人が押さえ込む形でどこかに連れて行った。
けれども、それを我慢出来なかった男が一人。
先程まで、三人を二人で何とか止めていた状況だったのだ。それが一人になればどうなるか。もちろん、サボは行きがけの駄賃とばかりに三人、特にゾロを気絶させていったつもりだったのだが、残念ながらゾロの成長速度を見誤っていたようで、早々に回復したゾロはサボの一撃を受けた故に他の二人に意識が行っていたエースの隙をつく形で現場に飛び込み……天竜人を斬るその直前に、エースが全てを被る覚悟で天竜人を殺した。
「……言いたい事が山ほどあるし、手も出してえけど、今はとにかくこれからどうするかだ」
一度目をつぶって、怒りを封じた上でサボがそう呟いた。
そう、彼らは早急にこれからどうするかを決めなくてはならない。
サンジとたしぎには、今ならお前達だけなら逃げれるはずと船を降りる事を勧めたが、あっさりと断られた。
強引に気絶させて放り出す事も考えたが、二人して「放り出したら、あの事件に関わったって言いふらす」と言われてはどうしようもない。どう考えても関わったというだけで、最低でもインペルダウンに送られるのは確実だからだ。
「………そして、一つだけだし確実とは言えないが全員が助かる方法がある」
ただし、それは今後の自分達の未来を確定する行動でもある、と。
それを選べば、全員助かったとしても、これまでのような自由気ままな行動は出来なくなるだろう、とサボは告げた。
「今更だな。どうせ、多額の賞金首は確定だ」
平然とした様子でゾロがそう応え、エースも頷いた。
そう、エースもサボもゾロも……そう遠くない内に賞金が賭けられるだろう。天竜人殺害となれば重罪だ。その額は最初から億を超える事も容易に想像がつき、そして、海軍は二人の手の内をよーーーく知っているのだ。
周囲を見回して、サボはその口を開いた。
「……分かった。革命軍を頼る、それしかない」
告げられたのは、世界政府と裏で敵対し、世界の何分の一かを世界政府から奪った組織の名だった。
いやあ、暑いですね
しかし、仕事が忙しい……休みが欲しい
ええ、お盆休みなんて私には全然関係ありませんでしたとも……
最新話をお送りします
新天地にて改めてよろしくお願いします