第220話「火と闇」
幸い、というべきだろうか。
エース達の電伝虫を通じての接触に、革命軍は即座に反応してくれた。
理由が理由故に受け入れを拒否される可能性も考慮に入れていたのだが、どのみち今更というのが革命軍の本音のようだ。別に彼らは天竜人を危険視しているのではない。革命軍の事など天竜人自身は知るまい。革命軍が戦う敵とはその背後にいる世界政府であり、海軍なのだ。
そして、世界政府とも海軍とも今更エースを受け入れた程度で関係は変わりはしない。
ただ、さすがに「はい、じゃあ受け入れました」で終わりにはならない。合流場所を指定された。
そこまではエース達は自力で向かわねばならなかった。
まあ、全部が全部という訳ではなく、指示された港町で気づけばエースのポケットに合流の詳しい手順や補給可能な場所が記された指示書が突っ込まれていたのだが……。
『……黒電伝虫による傍受に一部成功しました』
『よし、ただちに長官に報告を』
そうした補給の為の場所の一つである島。
エース達はそこで久々に落ち着いて休んでいた。
このグランドラインの一角に位置する島は革命軍サイドについた国の勢力範囲であり、世界政府もむやみやたらと入り込んでは来ない。そう、四皇の勢力下にある村や町を臨検したりしないように……力があるからこそ、世界政府も正面衝突を可能なら避けたいのだ。
「……ここまでは順調だったんだけどなあ」
「ここから先は厳しいだろうな」
全員が或いは獣を狩って肉を調達し、或いは果物を採取したりして水も補給し終えた後、今後について頭をつき合わせてどの航路を取るかを考えていた。
ここから先は革命軍の拠点、というより勢力圏から離れる。
グランドラインの入り口付近ならばともかく、グランドラインの奥へと進むという事は赤い大陸……ひいては世界政府の首都、海軍の本拠地に近づくという事でもあるし、さらに言うならばコースも今回のような例外を除き、定められたコースを通らざるをえないから、余計に道程は把握されていく。
だが。
「まあ、ぼちぼちやってくしかないんだよなあ」
「そんな事悩む必要なくしてやろうかあ?ゼハハハハ」
第三者の声が響いた。
即座に一同が反応する。
声が聞こえたのは海側。それに気づいて、鋭く一同は舌打ちする。それはつまり、船への逃げ道を塞がれたという事であり、ここまで自分達に気づかれずに接近してきた時点で相当な手練れだという事だ。
そこにいた人影は四つ。
いずれも大柄だ。最低でも2mは超えているだろう。まあ、一人はラクダに乗っているせいで正確な所は不明なのだが。
「ラフィットの奴がいりゃあ、ちょうど五対五だったんだがなあ。まあ、いい。厄介そうなのは……三人か。わりいがヴァージェス。二人受けもて」
その中の一人。
どうやら首領格に当たると思われる男がくい、と顎でゾロとたしぎを示す。
「了解だあ!船長!!ウィーハハハハハ!!」、と示された男は腕を胸の前で叩きつけるように幾度も交差させながら怒鳴る。
「……誰だ、お前ら」
サボが視線を逸らさず告げる。
感じ取ったのだ。
サボ達は未だグランドライン後半の海を知らない。だが、その海へと赴ける猛者の事をよく知っている。そして、その強さを持つ者達の気配を……目の前の男達からもそれと同種の匂いを感じ取ったのだ。だとすれば……彼らの言う、一人で二人を受けもつ、という言葉も根拠のない事とは思えない。
だが、考える時間は与えられなかった。
「さあ、始めようぜえ……俺の計画の為の糧になれ。『解放(リベレイション)!!』
その直前。
船長……黒ひげティーチの体から闇が吹き上がった事によって、彼らはティーチが何らかの悪魔の実の能力者であると推測はしていた、が……誰が想像するだろうか。吹き上がった闇から巨大な岩山がバラバラになりながら飛び出すとは。
「……ッ!?逃げろ!!」
エースはいい。
自然系『火』の能力者であるエースはあれが物理的なものである以上、直撃を食らった所で痛くも痒くもない。
だが、他の者は別だ。
例え、サボが『鉄塊』で直撃した際のダメージ自体は防げたとしても、あれだけの大質量が上に乗っかってくれば、身動きなど出来るはずもない。後はゆっくりと押し潰されるだけだ。他はもっと悪い。直撃を食らえば真っ赤な花が咲いて終わるだろう。最善でも大怪我を負う可能性は高い。
そう叫んで、エース自身も飛び離れようとした瞬間、もう一つの声が響いた。
「『黒渦』!!!」
引き寄せられる。
顔を嘲笑の形に歪め、右手を前に突き出した黒ひげティーチに。
その右手の掌に闇が渦巻いているのを見て、あれが種かと推測は出来る。
だが、それ以前に拳を固めて振り上げられた左腕がこの後何が起きるかを明確に物語っている。
「!『鉄塊』!!」
だから、エースは身を守る。
直感で「あれに自らの能力は通用しない」と悟って。兄達から感じる時と同じ寒気を感じ取って、その身についた武術で防ぐ。
衝撃!
咄嗟に防御の姿勢を取って尚、ダメージが来た。
だが、ティーチも想像以上にこちらが硬かったのかやや顔をしかめている、が、手を傷めた様子はない。
「ちッ、そういやお前は海軍の島で育ったんだったな……」
ティーチは己の白ひげの下で積んだ長い経験から答えを割り出す。
一方、エースは相手の正体がわからない故に思わず、といった風情で呟く。
最も、内心は仲間達と引き離された事に舌打ちしたい気持ちで一杯だ。
「お前は……なんだ?」
その言葉にティーチはニヤリと笑う。
そこにあるのは子供じみた愉悦。
長年我慢に我慢を重ねて、ようやっと掴み取った悪魔の実の力。
この広い世界で、悪魔の実図鑑に記されたそれを己が入手する可能性を少しでも高める為に白ひげの下につき、隊長の一人にすらなれるだけの力を身につけながら、目立たぬ事を選んだが故にひたすら忍従し、気のいい欲のない男を演じ続けてきた。その抑圧からようやと解放された事への歓喜故か。
嬉々として、ティーチは語る。爆発的な闇をその全身から噴き上げさせながら。
「エースだったな。お前は……『火』だろう?見ろ!最も強いとされる自然系の中でも更に凶悪……俺は『闇』だ!!」
己の力に酔いしれた男は嗤う。
だが、そんな男を見つめるエースの目は冷静だ。
闇、すなわちボルサリーノ大将の『光』の反対。ボルサリーノ大将のそれがどれだけ凶悪な力なのかを考えれば、相手のそれも恐ろしい力を持つのだろう。だが……。
それだけではない。
悪魔の実が如何に強かろうが、それを上回る力はある。
事実、己の義祖父であるガープは悪魔の実を持たぬ身で老いながら現在も尚海軍三大将と真っ向やりあえる力を誇る。
サボの師でもある王下七武海の一人、最強の剣士とされるミホークの強さは自分とサボが一緒になって戦っても勝てる気がしない。
超人系とされる悪魔の実を食ったアスラにだって自分達は到底勝てず、アスラもまた海軍三大将と真っ向やりあうだけの力を持つ。
結局、差があるのだ。
如何に優秀な悪魔の実を手に入れようとも素の力と悪魔の実の力の習熟度。
それらが合わさって始めて本当の強さと言える。問題は、今の自分が目の前の男の力に勝てるかどうかが不明という事。
けれども……。
「来いよ……お前の悪魔の実がどんだけ凶悪か知らないが、そいつが絶対じゃないって事を教えてやる」
そう告げ、エースは構えを取った。
ティーチもまたニヤリと嗤い、自然体ながらも拳を固める。そして、次の瞬間、両者の体から闇と炎が噴き上がった。
パソコンがお亡くなりになりました
うどんの汁の直撃を喰らいまして、水没扱いで全く反応しなくなりました……
お陰で新しいパソコン買う事になりました……財布的にもデータ的にも痛恨の一撃な気分です