第222話「戦いの事情」
「何故だ!なんであんたがここにいる!?何で俺の場所が分かった!?」
「ああ?俺の船の絶対の掟を破って俺が何もせず見逃すとでも思ってたのか?アホンダラ」
後半については答えていないが、元よりティーチとて白ひげが全てベラベラと喋ってくれるとははなから思っていない。
ズルリ、と一番隊隊長マルコ、二番隊隊長ジョズがここから見えなかった位置から引きずり出した影を見て、歯噛みする。
ヴァン・オーガー、ジーザス・バージェス、ドクQ。
現在引き連れている自分の仲間達。
気づけば隊長クラスの姿が他にも見える。
もし、隊長クラス複数に襲撃されたとしたら……さすがに仲間達とて大して持ちこたえられはしないだろう。当然の結果だ。
逃げようとした所で無駄だ。
島である以上、ここから逃げるにはどうしたって船が必要だが……さすがの黒ひげも自分一人で白ひげの船モービーディックとそれを操る腕利きの船乗り達から逃れられるとは思えない。そもそも下手に海に出れば海上で津波に襲われかねない。
普通はそんな事は起きないが……津波同士が正面衝突したらどうなるか。かといってさすがに自分の闇の力とて、海の水を飲み込んでどうこう出来るとは思えない。悪魔の実の最大の弱点は海水だ。それをどうこう出来るとしたら極一部、例えば海軍大将青キジのヒエヒエの実等極少数の例外ぐらいだろう。
実の所、ここに白ひげが現れたのは別に詐術でも何でもない。ただ単に四皇と一介の裏切り者の海賊という互いの立場、そして白ひげがこれまで築いてきた信頼の結果に過ぎない。
どういう事かと言えば、当然の話なのだがティーチはエース達の足取りを追うのに情報屋を利用した。彼らだけで広い世界全ての情報を掴んで、エース達の場所を割り出せるはずがない。
だが、情報屋というのは情報を得て、それを売るのが仕事だ。
当り前の話だが、彼らは既に「黒ひげ」マーシャル・D・ティーチが「四皇」の一人「白ひげ」の怒りを買った事も当の昔に把握していた。と、なれば後は簡単だ。彼らは積極的に白ひげに情報を売り込みにかかった。
中には白ひげの為ならば、と損益抜きで自ら積極的に情報を収集した者も少なからずいた。
そこにあるのは信頼であり、信用であり、恩義だ。
白ひげならば値切ったりしない、白ひげならば正確な情報ならば金に糸目はつけない、白ひげならば情報を手に入れたら用済みだと処分したりしない……。
或いは若い時分にヘマをやらかした折に「誰にだってミスはあるさ」と殺されても文句を言えない所を白ひげに笑って許された男がいた。
或いは暴虐な海賊に苦しんでいた所を、村を守ろうとして死んだ老村長に若い時分に遭難仕掛けた時に水を与えて助けてもらったから、と白ひげがその海賊を叩き潰し、加護を与えてもらった男がいた。
或いは天竜人に勝手に見初められ、夫を殺され、子供も殺されそうになった所を白ひげに救われた女がいた。
情報屋の業界でそれと知られた彼らはその全力を持って情報を集め、白ひげに提供した。
結果、早々にエース達をティーチ達が追っている情報が掴まれ、肝心のエース達の居場所はティーチ達よりも早く掴まれた。ここら辺は放って置いても情報が集まってくる四皇と、自分が動いて集めなければ手に入らない者の差であり、後はコーティングによって海底からエース達の船をずっと追跡し続けていたのだ。
本来ならば助ける義理はない。
ティーチの三人の部下を倒したのも、余計な所で茶々を入れられたり、ティーチに知らされたりしたら面倒だと判断したからに過ぎない。
後はエースとの戦いが終わってからでいいと判断していた訳だが……。
エースの一言が白ひげを動かした。
無論、部下達とて文句はない。隊長格には苦笑している者はいるが、あれを聞いて親父が動かない訳がない、と思っての事だ。
追い詰められたのはティーチの側だ。
脱出を図るにしても、圧倒的な戦力差のこの状況でどうにかなるとは思えない。
そんじょそこらの雑魚海賊程度なら何匹集まった所で恐れはしないが、相手が悪すぎる。
そもそも逃げた所で無駄だ。
ここから逃げるとなればどうやっても船がいる。仲間達もいない一人で操る船でモビーディックとそれを駆る腕利きの船乗り達から逃れられるとは思えない。長い付き合いだった連中だ。その腕がどれだけ優れているのか、超一流の腕を持っているかは他ならぬ自分がよく知っている。
そもそも海上でグラグラの実の力を使われたらどうなるか……。
巨大な大波に襲撃され、或いは両側から津波が襲ってきたらどうなるか……余り考えたくはない事になる可能性が高い。島などに押し寄せる沿岸部よりはマシだが、彼とてグラグラの実の全てを知っている訳ではない。
かといって、幾ら闇でも海の水を飲み込めるとも思えない。
悪魔の実の最大の弱点は海水。それを何とか出来るのはほんのごく僅かな例外。海軍大将青キジのヒエヒエの実のような極一部だけだ。
ならば……ここを切り抜ける手段はただ一つ。
例えそれがどんなに絶望的な、ゼロに等しい確率しかない事だとしてもそれしか道がないのならばやるしかない。
ぐっと拳を握り、白ひげに視線を向ける。
もう、エース等目に入っていない。そんな相手に意識を向けていて勝てる程甘い相手ではない。
「……いいだろう、やってやるぜ、白ひげぇ!!!!」
覚悟を決め、吼えた。
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エースは……動けなかった。
そこにいたのは先程とは違う怪物。
世界に名だたる大海賊、大物の中の大物。それと比べては義父たる海軍中将アスラですら遠く及ばない世界最強最大の大海賊白ひげ。
抑えに抑えてきた彼の怒気が崖の下からでもわかる。
そして、それに立ち向かわんと追い詰められながらも、だからこそ不敵に笑う黒ひげティーチに気圧されて。
それでも仲間の為ならばエースは立ち向かっただろう。
けれども、先程姿が見えたが、どうやらサボ達は既に白ひげに保護されたようだ。話に聞く白ひげの性格からして、無体な事をする事もないだろう。ならば、元より戦う必要もなかった戦い。
エースは詳しい事情を知る由もないが、白ひげが黒ひげに多大な怒りを抱いている事は理解出来た。既に戦闘状態に突入している彼の邪魔をしては……諸共に吹き飛ばされかねない。自然系だからといって、勝てない相手などゴロゴロいる事ぐらいよく理解している。
その眼前で遂に戦いが始まろうとしていた。
最新版で新しい七武海の面子とか、新大将と思しき面々が出てきましたよね
七武海の新メンバーは「あいつかよ!?」と思う者がいたり……新大将は今回は自然系ではなく超人系でしょうか?
まあ、別に自然系でなくてはならないという訳ではないですし、前の三大将では自然系の強さばっかが目だってましたからね……まあ、センゴク元帥が動物系ヒトヒトの実幻想種モデル大仏な訳ですから、自然系ばっかじゃないってのは分かってる訳ですけど、矢張りイメージがね