久々の投稿です
第223話「対峙」
敬意は払おう。
だが、所詮は既に全盛期を過ぎたロートルでもある。
黒ひげの頭のどこかにはそんな思いが何時しかあった事は否めなかった。
「がッはッ!?」
黒渦で白ひげを引き寄せた、そこまでは良かった。
最早この状況で相手からの攻撃を待つなど愚の骨頂。先手先手を取っていかなければ黒ひげに生き残れる道はない。
だが、しかし!
ズン!!
と、轟音を立てて黒ひげに白ひげの拳の一撃がめり込む。
「!!??」
腹へのグラグラの実による振動と覇気双方を纏った一撃は黒ひげとて防ぎきれない。
黒ひげとて長年新世界で生き抜いてきた猛者だが、覇気の制御は白ひげのそれには及ばず、能力のコントロールという面に至っては黒ひげは事前に「これを!」と狙っていた能力ではあっても、手に入れたのは極最近の話であり、到底完全に己のものにした、とは言えない。
そもそもヤミヤミの実は他の自然系の悪魔の実とは少々異なり、その身に何でも呑み込んでしまう。
……そう好き嫌いの問題ではなく苦痛でさえも、だ。
「!!?☆※♪……!!」
その一撃はそれまで喰らったどの一撃よりも重く……そしてその一撃を余す事なく呑み込んだ黒ひげの身にはこれまで味わった事のない、表現しようのない苦痛が襲っていた。
「ぐっ……がはっ、ごほっ…」
下手な者が味わえば、それこそ精神が崩壊しかねない程のそれに耐えて、それでも立ち上がった黒ひげは確かに強者の一人だったのだろう。
だが……。
「何故だ……」
「あん?」
「何で、対処出来る……!」
そう、黒ひげが分からなかったのはそれだ。
ヤミヤミの実は全てを吸う。
すなわち、悪魔の実の力すら呑み込み、自然系の物理攻撃無効化能力でさえ吸い取り、物理的な打撃を相手に与える事も可能となる。
だが、本来それは初見殺しのはずなのだ。
誰が想像するだろうか、全てを呑み込む闇の力を……。
いきなり引き寄せられてはまともな防御も困難。
だが、たった今。白ひげは完璧に対応してみせた。引き寄せても全く慌てず、それどころか完璧にタイミングを合わせての渾身の一撃。体重の乗り具合といい、完璧な一撃であり、だからこそ黒ひげもたった一発であそこまで苦しむ羽目になった。
「あん?そんなのはしっかり見せてもらったからに決まってんだろうが、アホンダラ」
「……見せて、もらった?」
一瞬考えてすぐに気付いた。
「まさか……!さっきあいつと戦ってるのをじっくり見てやがったのか……!」
火拳のエースと先程まで黒ひげは戦っていた。
みっちりと海軍本部中将や七武海に鍛えられた彼はその地力が優れていた事もあり、当人達は知らずとも新世界に赴ける程にまでその力は向上していた。
だからこそ、黒ひげも早々手加減などしている訳にはいかなかった。これは手を抜いているとかそういう話ではない。戦闘で相手を甘く見て手を抜くのは馬鹿のする事であるが、同時に全ての手をさらけ出すのも馬鹿のする事だ。相手にそう簡単に己の手の内を曝け出さず、曝け出すならば更なる奥の手を持つ事は重要だ。
けれども、そこまで手加減する事は出来なかった、という事なのだが……。
その戦い振りを白ひげはきっちりと見ていた、という事なのだろう、後はそこに長年白ひげの船にいた彼の戦い方を加えれば白ひげには大体彼の力が見切れているに違いない。
ずるい、とは言わない。
気付かず、自らの手をさらけ出した己が間抜けだっただけの話だ。
いたぶられているのを黙って見ていたのかよ、という挑発もしない。
そもそもエースは白ひげの船の一員どころか、それを狩る賞金稼ぎの一人であり、どこにも白ひげが相手を庇う義務も必要性もない。本来ならば、エースが勝ったとしても精々が見逃して立ち去る程度の話であり、殺し合いに発展しても何らおかしくない関係。こうして白ひげがエースを助けたのも本当に気紛れの類なのだろう。
言った所で鼻で笑われるだけだろうし、それに関しては自分でも確信がある。
自分達は正義の味方ではない。海賊なのだ。
海軍の正義バカならそこを突く手もあるだろうが、そんな事をこの場で抜かした所で鼻で笑われるだけだろう。
今も、白ひげは悠然と歩み寄り、掴んだエースを軽々と部下達の方へと放り投げたが、あれも「邪魔だ」という程度。もし、巻き込まれたとしても「手前の命ぐらい自分で守れ」といった所か。啖呵が気に入ったとして、トドメを刺される前に乗り出してきたとしてもそこまでしてやる程慈善行為に溢れてはいまい。
そもそも、白ひげに大きな隙をさらけ出さずしてエースを仕留め切れると考えられる程能天気な真似は黒ひげには出来ないし、今も彼がエースを放り投げる白ひげに手を出さなかったのは下手に手を出した瞬間マルコ辺りが介入してくる可能性もあったからだ。そう、この場は既に白ひげ海賊団に包囲されているのだ。
今は白ひげが前に出ているから、他は動かない。
……逆に言えば、そこがつけ込む隙になるはずだ。
仲間達の事は惜しいが、今は拘っている余裕はない。拘れば間違いなく自分も死ぬ。
「さあて……」
愛用の武器を片手に白ひげが改めてゆっくりと黒ひげに視線を向ける。
「それじゃあ終わらせるとするか」
「はッ……親父、あんたの伝説…俺がここで終わらせてやるぜ!!」
自らの船の絶対的な掟を破った者への冷たい視線を向ける白ひげことエドワード・ニューゲート。
老いて、病に犯され、けれど尚世界最強と呼ばれる存在、その実力を改めて認識し冷たい汗をかきつつも、それでも強がってみせる黒ひげマーシャル・D・ティーチ。
……銀虎の知る本来の歴史ではここでエースは黒ひげに破れ、白ひげと黒ひげは戦う事はなかった。
白ひげと黒ひげの戦いは白ひげが海軍大将らと戦い大きく負傷した後、息子を娘達を逃がす為にただ一人海軍の前に立ちはだかった彼に、トドメを刺した時、その能力を奪う為に現れた戦いともいえぬ戦い。
インペルダウンの中でも特に凶悪なLEVEL6の囚人達と共に行われた一斉銃撃。
しかし、今は違う。
白ひげは現在の彼としてはまず万全であり、一方黒ひげはエースとの戦いで消耗し、その手の内は暴かれている。
そんな中、それでも戦いは——始まる。
久々に投稿しました……
疲れるとなかなか手が進みませんね
今月は休みがそれなりにあるので頑張って進めたいと思います