第23話−マリージョア襲撃(前編)
あのクソったれな連中との邂逅から1年程。
原作まであと13年程の日。
マリンフォードに緊急召集がかかった。
説明を聞きながら、思い返していた。
あ〜そういえば、あったねえ。冒険家フィッシャー・タイガーによる聖地(?)マリージョア襲撃事件。
無論、そういう事件があったのは覚えてはいた。
けど、誰かに言う事はなかった。
言った所で、馬鹿げてると思われるのがオチだろうし、どうして知ったのかと思われる可能性もあるが、何より。
(ざまあみろ)
天竜人へのそんな想いが最大の理由だったんだが。
とはいえ、出撃はしなければならない。
先発は光速移動が可能なボルサリーノ中将。
続いて、剃と月歩が可能な人員が続く。
更にその後に部隊を率いて海軍の本隊が続く。無論、俺は第二陣だ。指揮官じゃあない。悪魔の実の能力者ではない中将クラスには六式使いが多く(原作のモモンガ中将とか)、彼らが指揮官となる。
……けど、単なる剃と月歩の使い手ではなく、結果的に熟練の六式使いのみが第二陣に集められた理由がよく分かる。
夜の闇の中、空中を駆けるのは酷く危険で恐ろしい。剃と月歩を覚えたばかりの新人じゃ無理だろう。
下手すれば位置感覚を間違えて海にドボン、高度を上げるのを間違えればレッドライン大陸に激突する。
幸いなのは、しばらく駆けていると真っ赤に燃えるマリージョアが見えた事だ。こう言っちゃなんだが、いい目印になる。
熟練者ばかりな事もあり、何とか全員無事にマリージョアへと到着した。
ああ、怖かった。
さすがに中将クラスは顔に出さないが、結構ほっとした様子の人や疲れたような様子の人も見られる。
とはいえ、ここからが本番だ。
中将からの命令は簡単だ。
最大の一目的は天竜人の保護。
次の目的として暴れている連中……まあ、大抵は解放された元・海賊連中だが、そいつらの排除。
この事件を起こした犯人は、この時点ではまだ判明していないから、名前も何も上げられないし、俺も言うつもりはない。
問題となったのが、それ以外。
ここに連れて来られた一般人の扱いだった。
彼らの中には天竜人に無理やりに連れてこられた者も多い。そうした人々がこの事件を最後の希望として、いちかばちかの脱走にかける可能性は……十分にある。
ただまあ、運が良かったのは、ボルサリーノ中将が保護した天竜人の言葉だ。
『逃げ出したような奴隷なんぞいらんえ!』
まあ、そうした人達を救助する事自体は当初予定通りだったんだが、その言葉のお陰で大分気持ち的に楽になった。
無論、連中からすれば……。
『逃げ出した奴隷なんぞに構うぐらいなら、自分達を助けろ!』とか。
『あいつらなんぞどうなってもいいから、自分達が怪我しないようしっかり守れ!』という事だったんだろうが……。
こちらとしては、その言質を有効に活用させてもらう事にした。
まあ、中将らは保護と言っていた訳だが……。
『間違えて逃がしてしまった場合でも、特に問題とされる事はないぞい』
と、わざわざ言う辺り、本音が出ていると思うんだ。
それに他の中将らが何も言わなかったのも。
まあ、自分の勝手な判断かもしれないが、そう言ったのがガープ中将だった辺り、当人はそういうつもりで俺達に言ったんだと思うんだけどね。
実の所大部分の天竜人は自宅地下の安全な場所……要はシェルターに逃げ込んでいるらしい。
ただまあ、外に出ていたりして、街を逃げ回っている天竜人が保護対象となる。
……そういえば、この事件の折に、蛇姫達も逃げ出したんだよな。
彼女らのイベントに絡めないかとも思ったが、どこで攫われたのか、何時攫われたのかがはっきりしなかった。何しろ、ハンコックの現在の年齢が分からない。それが分かれば、まだ多少は推測も出来たんだが……。
ただ、今起きていると考えると、彼女の年齢は原作開始時点で16+14で30歳……うーむ、ルフィって17なんだよな。彼に惚れるまで男と縁がなかったとすると……やめよう、何か背中に悪寒が走った気がする。
どうせ誰が相手でも、ナミだろうとロビンだろうとルフィより年上だ。
それに出くわすかどうかは疑問だ。
このマリージョアは今は至る所で炎に包まれているが、かなり広い都市であり、それだけに海兵も分散して動いているが、尚カバーしきれない。
俺が彼女らに出くわすかどうかは疑問だな……と思っている間に、襲われている女性を発見した。
ハンコックらではない。1人だけだし。
襲っているのは海賊と思われる奴だな……。
うん、さくっと倒しました。
しかし、この女性どこかで見た覚えがある……爆弾入りの首輪もしていないし……思い出した、彼女は…1年前助けらなかった、あの連れ去られた女性だ。何という奇遇な。
話を聞けば、これが最後の機会だと決死の思いで逃げ出したのだとか。
「……確かに、食べ物も衣服も生活は贅沢なものでした……でも、私達は人とは見られていないんです。天竜人の方々にとって私達は単なる物なんです」
確かにそうかもしれない。
……人が人として見られないのは辛い。そして、物である限り、何時捨てられるか分からない。特に連中は飽きるのも早そうだし。そして、飽きたらどうなるか……考えたくはないだろう。いや、実際に飽きられた妻が捨てられるのを見た事があったらしい。
だから、見逃してくれ。夫と子供の元へ帰らせて下さい、と必死に頭を下げる女性の姿を見ては……元々助けるつもりだった俺としては、その手助けをする気になったのはしょうがないじゃないか。
「おぉ〜その人を逃がすのかい?」
!何時の間に……いや。
この人なら、こっちが気付いた時には、もういてもおかしくないか……何しろ。
「……ボルサリーノ中将……」
光の速度で動くのだから……この人は。
「逃がすのなら〜あっちに逃がすといいよぉ〜?下っ端の為の船着場があるからねえ〜今なら持って行き放題だよぉ〜?」
おや?
「構わないのですか?」
「構わないよぉ〜?わっしは天竜人様からは奴隷とかどうでもいい、って聞いたしねぇ〜。ただまあ、天竜人様を見つけた時は、そちらを優先するのと、天竜人様から引き渡せって言われた時は従うようにねぇ〜?」
「はい、それは了解致しました」
「おぉ〜それじゃ、またねぇ〜…八咫鏡」
と言うが早いか、ピカリとした輝きと共にボルサリーノ中将の姿は消えた。
……さすが、雷と並んで最速の悪魔の実の能力者。
とりあえず、彼女を抱えて即効で移動した。何しろ言われた通り、天竜人と出くわしたら、そちらを優先せざるをえない。となれば、その前に連れてゆく!
幸い、そちらへ移動すると、今しも船で脱出しようとする奴隷達がいた。
海軍の姿を見て、怯えていたが、俺が捕まえる気がない事と、彼女を頼む旨を伝えると皆割りとすんなり了承してくれた。……折角なので、彼らの首輪も外しておいたら、泣いて感謝された。
爆弾つき首輪だが、俺の能力は液体金属だから、鍵穴から流し込んで操作すれば、鍵開けも可能なのだよ。