第24話−マリージョア襲撃(後編)
燃え盛る街の中、2つの人影が対峙していた。
無論、片方は俺だ。
何故、こうなったのか……それは少し前に遡る。
あの女性を船着場に送った後、俺は街を駆けていた。
そうした中、少女らを引っ張る男を発見した。
……問題は、その男が海賊ではなかったからだ。おそらくは天竜人の護衛か下働き。そうすると、あの少女達は……。
「……天竜人の奴隷か」
助けるのは簡単だが、奴の口から天竜人に海軍が奴隷を逃がしたと伝わっても拙い。
となれば、口封じしかあるまい。
そう思った時。
陰から動いた巨漢が、正に瞬殺、といった風情でその男をぶちのめした。……頭が爆ぜている。即死だな。
とはいえ、これであの少女らも助かるか?と思ったのだが……。
「そこの男、出て来い」
……気付かれていたか。
すう、と陰から姿を現す。隠れていても、この場合相手からの不信を煽るだけだろう。
「……海軍か」
炎に照らされたその姿を改めて見てみれば……魚人だった。
何か妙に嫌な予感がするのだが……。
「俺はアスラ、海軍本部准将……お前は?」
「ワシはフィッシャー・タイガー……冒険家だ!」
そう言って構えを取った。
こちらも彼の戦意に体が反応する。
くそ!矢張りそうか、こいつがフィッシャー・タイガー……このマリージョア襲撃の張本人か!
……とはいえ、彼が俺に対して戦意を示す理由は分かる。
彼らからすれば、俺達海軍は天竜人の奴隷みたいなもんだろう……完全に否定出来ないのが悲しいが。
そして、普通の意味での奴隷と違い、奴らの手足となって力を振るう……ある意味連中のような相手からは一番に嫌われる相手だ。
だが、俺としてはこいつらを逃がしてやりたいが……。
くそ、フィッシャー・タイガーの気配が……強い。これは……そんな手加減なんかしてたら……死ぬな。
この体になって以来、死とは随分遠い感覚になっていたが、久方ぶりに感じる死の気配。
しかし、妙なもんだ……この世界に初めて落ちて、怪物みたいな奴に追い回された時は、もう生きる事に必死で、何も考えられなかったものだが……今は、笑みが浮かんでくる。
互いに踏み込み。渾身の一撃を見舞う。
「拳砲!」
「鮫瓦正拳!」
っ!矢張り、この漢も覇気使いか……っ!
そして、この圧力。
双方の渾身の正拳突き同士が激突し、双方が弾かれるように距離を取る。
「銀槍!」
「魚人柔術、空気投げ!」
くお、俺の水銀の槍が投げつけられた空気の砲弾に軌道を逸らされる……!
原作でジンベエが海流を掴んで投げていたが、空気まで投げるかよ……!
互いの最大の武器は格闘。どちらともなく、互いに距離を詰める。
「指銃・黄蓮!」
指銃を連射するも。
「魚人空手、鮫肌掌底!」
それもまた弾かれる。
「魚人空手、五千枚瓦正拳!」
!しまった、この位置からだと避けきれない……っ!
「鉄塊・剛!」
ぐお!?最強の鉄塊で尚衝撃が来た……っ!
頭がグラグラする……くそ、これでも拳割れてないのか。
とはいえ、向こうも自分と互角に遣り合ってるせいで、警戒してるみたいだな……実際には若干こちらが押されてるぐらいなんだが、こっちが増援が来る可能性があるのに対して、向こうは1人だ……なら、話し合いの余地はある、か?
「待て!お前海賊じゃないと言ったな?」
「……そうだ」
一瞬迷ったらしい。
確かに、彼は、フィッシャー・タイガーは今は海賊ではないが、この後タイヨウの海賊団を旗揚げする。……マリージョアを襲撃した彼では、それしか道はなかっただろうが……。
「我々が受けた命令は、天竜人の保護と、暴れている海賊の討伐のみ、だ。奴隷とされていた人々やそれ以外の人達を捕らえろという命令は一切受けていない」
「…………」
さあ、どうする?
時間は俺にとっては味方だが、お前にとってはそうじゃあるまい?
「……よかろう。ならば」
とフィッシャー・タイガーが応えかけた所で、俺は手を上げ、彼の言葉を遮る。
……電伝虫だ。一体何が?
「はい、アスラです」
『アスラ准将か、センゴクだ』
何事かと思いきや、センゴク大将の命令は、本隊の到着、展開が始まった連絡と共に、俺にマリンフォードに戻っての出撃を命令するものだった。無論、俺1人ではなく、既に幾人かに連絡が行っているらしい。
理由は簡単で、既に逃げ出した奴隷達の内、一定以上の大物達は小物をカモフラージュに既に脱出したらしい。そいつらを追撃しなければならない。
出撃命令が下った名前を聞けば、ボルサリーノ中将、クザン中将、オニグモ少将、モモンガ少将、ストロベリー少将……逆に残留の面々を聞けば、引退間近の大将や中将の名前がズラリ……成る程。バリバリの現役を前線に回して、後方と化しつつあるこの場所には名前のある、つまりは天竜人に手を抜いていませんよ、と思わせる面々を置いておく、と……。
如何に老いたりとはいえ、残ってる小物程度どうにでもなる、という所か……。センゴク大将とガープ中将はこちらに残るみたいだが、これは2人の名声ともし厄介な奴が残っていた時に対応する為だろう。
「了解しました」
『頼んだぞ、既にボルサリーノは向った』
さて……。
「という訳だ、どうする、フィッシャー・タイガー。もう、海軍は本隊が到着したぞ」
「……成る程な、そろそろタイムアップという訳か。まあ、俺はどうとでもなるが……」
あ、さっきの少女達か。
俺達の戦闘の余波で動けずにいたらしい。というか、長女と思しき女の子、物凄い美少女だな……って三人組?まさか……。
「……ボア・ハンコック?」
「っ!何故、私の名前を……!」
ああ、まだこの頃は、私なんだ……と、ふと思った。
何で、こうも原作の人物達と遭遇するかな……。
「……すまない、フィッシャー・タイガー。シャボンディ諸島まででいい。彼女らを送っていってやってくれないだろうか」
言いつつ、彼女らの首輪に水銀を伸ばし、鍵を外す。
足元に転がった首輪に彼女らは驚いたように、そして首を撫で……姉妹同士で抱き合って泣き出した。
「……人間は嫌いなのだがな……だが、よかろう。これも何かの縁という奴だろう」
急いで簡単に手紙を書き、13番GRに彼女らを届けてくれるよう頼む。
……13番GR、そう『シャッキーSぼったくりBAR』だ。レイリーがいれば問題ないが、いなくてもシャッキーだけでも何とか……匿ってくれるぐらいはしてくれる、と思う。思いたい。
そうして、俺はそのまま出撃し……それから一月。
ハンコックら三姉妹はマリンフォードの俺の屋敷にいる。
………あれ?