第27話−最近の出来事
さて、まず語っておこう。
マリージョア襲撃事件以後、海軍の体制が変わった。
形としては襲撃事件の責任を取って、という形でコング元帥が引責辞任という事になった。まあ、実態としては、コング元帥自身がもう年も年なので、引退間近だったのが多少早まっただけの話だ。
そうして、あいた所にセンゴク元帥が入った訳だが、そうなると3大将の内の一席があく事になる。
いや、それだけでなく、これを機に他の2大将らまで引退を決めてしまったのだ。
結果、大騒動になった。
海軍最高戦力たる3大将がそっくり空になってしまったのだから当然だが。
とはいえ、既にある程度予測はされていた為、上層部自体は慌てる事なく、間もなく正式に3大将の新任が決まった。
黄猿大将ことボルサリーノ大将。
青雉大将ことクザン大将。
そして……赤犬大将ことサカズキ大将、の3人だ。
サカズキ大将の名前に驚く人は多いのではないか、と思うが、実はあの人、何時の間にやら復帰していたのだ。とはいえ、戦闘スタイルは以前とは大分異なるものとなった。
前は最前線に自身も出て、自らの手で殴り倒す、という戦法を好んでいたのだが、残念ながら、完治とまではいかなかったらしく、今のサカズキ大将は杖をついている状態だ。
まあ、だからといって向こうから近づいて白兵戦闘になれば、まだまだ大将に相応しい強さを見せるのだが、基本は不動。激しい動きを行なうより、極力動きを減らし、悪魔の実の能力を用いた戦闘を行う。
原作キャラの中では、インペルダウンのマゼラン所長の戦い方が比較的近いだろう。あれよりもう少し能力を使った戦闘寄りだが。
ちなみに杖を手放していない事から、俺が申し訳なさそうな顔になっていたら、殴られた。曰く。
『見当違いの同情なんぞするでないわい!これも儂の選択の結果じゃあ!そんな態度は儂への侮辱じゃと気付かんかい!!』
という訳で、最近は以前同様に接するようにしている。
まあ、それに実際問題として相変わらず強いのは変わらないし、大将に就任しても誰からも文句が出なかったのも確かなのだが。ただ、以前より多少性格が丸くなった気はする。俺の結婚式の時、始終口元に僅かながら笑みを浮かべて、最後の方では目に僅かに涙が浮かんでいたし……。無論、俺は気づかない振りをしておいたが。
……まあ、逸早く出産祝いと称して、まだ生まれてない内からベビーベッドを送ってきてくれた時はさすがに驚いたが。
また、3人が大将となった為に空いた他、同じくこれを機に引退した人も含めた中将の席にオニグモ少将らが昇進して、中将となった。
俺自身もこの時、少将へと昇進し、周囲は既に『次に席があいたら昇進する可能性が高いのはアスラ少将』という空気が出来つつある。そして、大参謀たる、おつるさんとかガープ中将のような例外はいるものの、ずうっと戦い続けるのは矢張り大変な仕事で、それだけに年を取ると引退する海軍軍人も多く、引退間近な中将の中には公に『ちょうどいい中将の席を継げる奴がいなかった』から中将に残っているという話があるくらいだ。……事実なんだろうな。
……お陰で美人の嫁さんを貰ったのと合わせて、最近妬みの視線が結構混じってるような気がしてならない。
まあ、事件に巻き込まれたのを助けた女性と結婚、というのは実は海軍軍人には案外あるケースなので(というか海の上では出会いなんてないので、海軍軍人のお相手は大抵見合いか、それ。後は極少数の幼馴染とかその辺だ)、俺とハンコックの結婚自体はごく普通に見られているのは助かる。
最近の仕事事情はこんなもんだ。
私生活の方はというとこれはもう、文句なしに充実している。
……子供が出来るとまた世界が変わるものだ。いや、まだ生まれておらず、妊娠中なのだが。そりゃあ、一月程の航海から帰る度に励んでいれば、子供も出来るというものです。
この世界ではまだ、出産率などというものはないが。
ただまあ、問題があるとすれば……妊娠しても、ハンコックは綺麗だったという事か。
この間、エースとサボが『バカップル』と呟いているのが聞こえた。……そう見えるのだろうか?
まあ、前の世界と違って、生活費には十分な余裕がある。出来れば、子供もたくさん欲しいもんだよ。
SIDEサンダーソニア
最近の私達は幸せに暮らしていた。
ただ、それだけに不安が生まれる。何時か突然に何か不幸が襲ってくるのではないかと……。
無論、実際にはその危険は少ない。
私達はシャボンディ諸島には足を運ぶ事は滅多にない。行く事があるとすれば、必ずアスラ兄さんと一緒だ。大体、私達がシャボンディ諸島に行くのはレイリーさんとシャッキーさんに会いに行く時だけで、他は殆ど立ち寄らず直行で帰る……あそこには余りいい思い出がないからだ。
無論、それでも兄さんに手を出してくるような奴らはいるが……梃子摺るような相手は見た事がない。最近、億越えの賞金首と出くわした事があったが、完勝していた。……大将相手に組み手が出来るという噂は本当らしい、と実感した一コマだった。
(ちなみに私達を救ってくれた、もう1つの組織は刺青に彫り直した後は基本的に接点を持たないようにしているそうなので、むしろ行かないようにした方がいいらしい)
そして、今住んでいるマリンフォードは海軍の島だ。
この島に襲撃を掛けてくるような相手はそうはいない。いるとすれば、精々現状白ひげクラスの世界最強クラスの大海賊ぐらいだろうが、そんな相手だからこそむしろ仕掛けて来る事はない。そういう意味では世界で一番安全な場所だろう。
ただ、私達の脳裏にはあの日の事が常に残っている。
それまで通りの生活が続くと思っていた、あの日。突然人攫いに襲われ、奴隷として売り飛ばされた……全てが変わった、あの日の事を……。
特に今、姉さんは到底戦えるような状態ではない。
次第にお腹が大きくなって、幸せそうにお腹をさするハンコック姉さんの姿を見ていると、それだけにこの光景を壊したくない、そう強く思う。
だからこそ。
「……強くなりたい、って?」
アスラ兄さんは、鋭い目でそう言った。
そこには、普段の姉さんに向けるような優しい光ではなく、真摯な光が浮かんでいる。間違いなく、真剣に話をしてくれている。
「理由を聞こうか?」
と言われても、そう大した理由はない。
結局の所、何かあった時に姉さんを、妹を守れるだけの力が欲しいだけの話だ。ただ、そう言うと、『そういうシンプルな理由の方が実感が沸くな』と感心したように頷いた。
ただ、驚いたのは、既にマリーゴールドからも同じような事を頼まれていたらしい。
彼女は彼女で、『何かあった時、姉さん達を守れるようになりたい』と言っていたらしい。
「まあ、いいだろう、海軍にも女性士官はいる。エース達のついでだ、申請ぐらいは出しておいてやる。これぐらいなら、問題なく通るだろう」
そして、実際、あっさりと申請は通った。私達は形としては海兵見習い扱いになるらしい。
まあ、まだなるかどうかは分からないのだけれど、その辺を確認する、という事らしい。ここで、私達を教えてくれる女性は、姉さんより若干年上の女性で、真面目な良い女性だ。
黒のスーツを好む彼女は現在20になったばかりの中尉だという。
「貴方達、筋がいいわ。ヒナ感心。何時か私も部下がもてたら、貴方達みたいな筋のいい人が来てくれたら、ヒナ感激」
結構仲良くなって、話も弾んだ。
私達も姉がいると聞いて、その姉がアスラ少将の奥さんだと知ると、何だか羨ましそうにしていた。お相手がいるのが羨ましいと言っていたけれど、ヒナ中尉、時折見かける同期とか言われる男性、確かに葉巻を常に咥えてるとか、格好がだらしない所はあるかもしれませんが、結構話をされてる時の中尉楽しそうですよ?