第31話−因果応報
「な……なん、なん……」
余りの驚きのせいか、スパンダムは声が出ないらしく、口をぱくぱくと開け閉めしながら、海兵らが向ける銃口を見るばかりだった。その様子を横目に、アスラは種明かしをしてゆく。
「実は、少し前……といっても昨日今日の話ではないが、に司法船を襲撃する計画がある、という話があってな……」
話し始めた海軍中将の言葉に、スパンダムは少し冷静に頭を働かせる。
自分が決めたのは司法船が来ると聞いたのと、フランキーの船からの攻撃を受けた後偶然の話、となると自分が考え付くより、明らかに前の話だ。
「それで、可能性が最も高いのがここだ、という事で網を張っていたのだよ」
そう、ここは既にアスラの仕掛けた罠で一杯になっていた。
フランキーの戦艦は4隻を除いて全て工作し、すぐには使えなくしていた。そうした上で、廃船島には見張りを立て、その戦艦を狙う連中の監視と盗聴を行い、更に4隻にも運転する映像や発言を記録する専用の電伝虫を配置してあった。
あの場にスモーカーとヒナがいたのは、他の海兵らは、他に怪しい艦船が入港なり、隠れていないか、或いはそうした怪しい組織がいないかの確認に走り回っていたからだった。
そうして、そこにまんまと入り込み、映像から計画から額縁つきで証拠をばっちり押さえられたのが……スパンダムらCP5だった。
既に言い逃れも何も不可能なぐらいに証拠を押さえられてると知り、スパンダムの顔色もCP5の面々の顔色も段々と青くなっていく。
「まあ、結局罠に入り込んだのは貴様らだった訳だが……分かったら、大人しく捕まってもらおうか」
そう言って、拘束するよう指示を出しかけたアスラ中将を遮って、スパンダムは懸命に声を上げた。
「ま、待て!待ってくれ!い、いいのか!?俺達は世界政府の五老星からの命令を受けて動いてるんだぞ!」
実際は命令を受けているのではない。許可を得ただけなのだが。
とはいえ、スパンダムの頭の中ではそのように書き換わっていた。
「ほう?どのような命令だ?」
「そ、それは……秘密だ!」
問いかけるアスラの言葉に、スパンダムは口ごもって、結局そう言った。
無論、スパンダムからすれば、機密というか極秘情報をべらべらと喋れる筈がなかっただけなのだが、周囲の者、それはスモーカーやヒナら海兵、裁判長にトムズワーカーの面々、更には周囲の一般人、要は真実を知っているアスラとスパンダム以外からすれば、『あ、こいつ適当な事言って誤魔化そうとしてやがる』としか思えなかった。
無論、アスラもその事を理解しており……。
「話にならんな。連れて行け」
そう命令を下す。
当然のように、海兵らもまた動き——。
「ま、待て!本当だ!そこのトムの奴が持っている筈の古代兵器プルトンの設計図の回収が任務なんだ!」
その時のスパンダムの後ろにいたCP5の面々の気持ちは1つになった。
『ばらしやがった、こいつー(呆然』
当たり前の事だが、そもそもそのようなものが存在する事自体が重要機密だ。
例え殺されようが、洩らしてはならない。秘密工作に関わる人員には、そうした覚悟が求められ、今回のそれは間違いなく、それに関わる重要問題な筈だった。
「……古代兵器プルトン?」
「そ、そうだ!けれど、トムの奴がしらばっくれるから、奴を犯罪者に仕立て上げて、追い詰めれば、交換条件として設計図を入手出来ると……そう思って、司法船に奴の弟子の作った船で襲撃かけようとしたんだ!」
頼むから、もう黙ってくれ!
CP5の面々からすれば、そう心の中で叫んでいた。重要機密を口にしただけでなく、トムへ仕掛けた罠を海兵やら司法船の裁判長以下司法船の面々やら一般人多数の眼前で自白している現状はド壷に自ら飛び込むようにしか見えなかった。
いや、実際にそうなのだろうが。
「こう言っているが……どうなんだ?トムさん、でいいかな?」
「ああ。しかし、プルトンのう…………はて……おお!」
「何か思い当たる事が?」
「ああ、ずうっと昔に見た覚えがあるわい。もうとっくに燃やしたが」
アスラとトムの言葉にスパンダムが『嘘をつくな!』と喚いたが、トムの答えはあっさりしたものだった。
『だって、ワシ船大工で、兵器なんぞ関係ないからの』。
むしろ、あんな危ないもの、さっさと燃やした方がいいと思った、と語るトムにスパンダムはただ、喚いていた。
「まあ、疑うんなら、会社でもどこでも調べてくれてもいいが……」
どうする?とアスラ中将と裁判長に交互に視線をやるトムの様子に、スパンダムも不安になってきたらしい。
プルトンの設計図は彼にとっての起死回生の一手、というか正に蜘蛛の糸だ。それがないとなれば……彼の首がどうなるか。スパンダムからすれば考えたくもなかった。
「まあ、とにかく、センゴク元帥を通じて確認を取ってみるが……ああ、すいません、センゴク元帥ですか?実は……」
…………
五老星曰く『そんな設計図の事なぞ、聞いた事もなければ、そんな事を命じた覚えもない』
極秘情報を洩らした奴を庇う程、五老星はお人好しでもなんでもなく、いともあっさりと切り捨てられた。
更に、CP長官たるスパンダインへも確認の連絡は飛んだのだが……スパンダインからすれば、五老星からさえ見捨てられた息子を庇うのは自らにも危険が及ぶと判断し……。
『息子がそんな愚かな行動を取るとは……本当に情けない話です。かくなる上は、罪を償い、少しでも早く真人間となって戻ってくる事を親としては望むばかりです……!』
いともあっさりと涙の演技と共に切り捨てた。
完全に見捨てられたスパンダムはこの後、懸命に訴え、トムの会社の設計図を確認する事を求めるが、探しても結局、古代兵器プルトンの設計図と思われるものは見つからなかった。
どこかに隠したのだろう!と尚も喚くスパンダムだったが……当たり前の話だが、彼のそんな妄言に付き合うつもりは、最早裁判長以下誰もいなかった。
更にこれ以上巻き添えを食うのは御免だと逸早く悟った部下達は、アスラの持ちかけた司法取引に即座に応じた。
……スパンダムの事を全く信用していなかった彼らは万が一に備え、これまでスパンダムが犯してきた犯罪行為の証拠をそれぞれが隠し持っていたのだ。
これら全ての証拠は取り調べに当たっていた司法船の一同を呆れ返させるに十分過ぎる程のもので……。
「元CP5主官スパンダム、その犯罪行為は明確。よってインペルダウンへの投獄を命ず」
泣き喚き暴れるスパンダムは、けれどそれを許される筈もなく、インペルダウンへと運ばれ、収監される事になる。
そして……改めて、本来、司法船がやって来た目的が果たされる事になった。いや、正確には追加の事柄が増えたのだが。
……そう、トムズ・ワーカー社長であるトムへの海賊王の船建造に関する罪の判決。そして……今回の事態の原因の一端を担う事となったフランキーへの判決である。