おまけ
「九尾」
その一言で。
巨大な銀色に輝く尾がアスラの背後に出現する。
その内の一本が急速に伸びるとそこから伸びた多数の槍がアーロン一味の船を穴だらけとし、沈めてゆく。
その内の一本が上空で巨大な槌となり、アーロンパークそのものを叩き潰す。
更に左右へと伸びた2本から放たれる銀の槍はアーロン一味の魚人を悉く刺し貫いていった。
「て、手前……っ!」
アーロンが瞬時にして、壊滅状態へと追い込まれた自分の帝国の惨状に呻き声を上げる。
僅かな間の内に、それこそ1分足らずで海賊船も、彼らの家も、そして一味もその全てが或いは骸を曝し、或いは廃墟と化し、或いは残骸と化した。
「悪いな、いちいち相手にしてる時間がもったいなくてね」
アーロンの脳裏にこの光景は1つの名をもたらすのに十分だった。
「そうか、手前が……『銀虎』!」
海軍本部中将、『銀虎』のアスラ。
銀の尾を生やす彼の名は海賊達の間に響きつつあった。
最近、というか自分がグランドラインを離れる前ぐらいから後方勤務が増えていたようだったが、一度前線に出てくれば、彼のもたらす光景は海軍大将のもたらすそれと大差なかったからだ。
「まあ、そうだな。そして、君もこれで終わりだ」
「くそっ…」
気付けば、新たな尾がアーロンを包囲していた。
そして、アーロンが何かを為す前に、絡み付いてくる。
無論、アーロンとてすんなりと捕まってやる気はない。
だが、彼の自慢の怪力も、液体の力の前には無力だった。幾等腕を振るっても、打ち砕けず、次第に自身は包まれてゆく。かといって、水銀という重金属の中では魚人の能力なぞ意味がない。
普通の人間と同じく、アーロンが嫌っている人間と同じく溺れるだけの話。
魚人の彼が、まるで泳げぬ人間のように、もがき。
そうして、その抵抗すら何の意味も成す事なく、アーロンもまた銀の球体にどぷり、と呑みこまれた。
直後、球体がぎゅるり、と捻り上げるように回転して、解かれた時、そこに転がったものは最早人の形をとどめていなかった。
「悪いな……」
五分と経たずして1人の億越えの海賊が作り上げた全てを砕き、けれどアスラの瞳には何の感慨も込められていなかった。
そう。
この程度など特筆するまでもない、当たり前の事に過ぎないのだと、それを実感させるのには十分すぎるほどに。