第42話−業火の中で
エースとルフィ。
2人が捕まったのは、ブルージャム海賊団の話を偶然聞いてしまったからだった。
とはいえ、最初は偶然の盗み聞きだった。
このゴミ山を、そこに暮らす人々ごと燃やそうとしている彼らの話を聞いて、エースとルフィの反応は異なった。
既に海軍で訓練を受けていたエースはこれは拙い、と考えると同時に自分達だけではどうにもならない、という事も理解していた。同い年の子供達に負けない自信はあるが、相手は仮にも海賊の一味。自分達だけで勝てるような相手じゃない。
ここは戻って、アスラに連絡するなり、海兵に来てもらうなりした方がいい、と考えたエースは気付かれないように、じりじりと下がったが、そこでルフィが問いかけてきた。
ルフィは、というとはどうやらよく聞き取れなかったらしく……。
「エース、あいつら何話してたんだ?」
そう尋ねてきた。
ここでエースが失敗した!と後で思った事だが、つい。
「あいつら、ここに火をつけるって話をしてやがる」
……そう答えてしまった。
本当は、エースとしては続けて、『だから、アスラ達に伝えに行くぞ』、そう言うつもりだった訳だが、そこはルフィというか……思わず叫んでいた。
「えっ!火をつけるって、あいつら悪い奴なのか!?」
思わず天を仰ぎたくなったエースだったが、その時間さえも惜しいとばかりにルフィの襟首を引っ掴むと全速で走り出した。
が、さすがにそこは所詮子供の足、その上に咄嗟に反応出来なかったルフィを引きずっているのだ。しばらく後には、捕まって杭に縛られた2人がいた。
計画を知られた、という事で殺すか、と剣を突きつけられた2人だったが、破れかぶれでエースが怒鳴った、『俺達の保護者は海軍の中将だぞ!』という叫びが状況を変えた。
無論、エースからすればアスラの名を借りる事も、自分の力ではなく親に言いつけるような真似をした自分にも腹を立てていたが、今は少しでも生き残る確率を上げるべきだと、考えていた。
海賊がびびって自分達を殺すのに少しでも迷えば、それだけチャンスが生まれるかもしれないからだ。
そうして、普段ならば余りよろしくない結果を招いた可能性も高かったこの言葉は、現在のブルージャム海賊団だからこそ、有効的に働いた。
何しろ、彼らは今の仕事が終わったら、貴族となれるのだ。単なるゴミ山のガキならともかく、本当にそうだったら……下手したら、それが元で貴族となれる話がなかった事になるかもしれない。
海賊だけに、海軍本部の戦艦が訪問しているという情報は逸早く掴んでいただけに、『ひょっとしたら……』と疑う気持ちは拭えなかった。
「そうか……お前ら、海軍中将が保護者か」
ブルージャムは最終的に結論を下すと、ニヤリと笑みを浮かべながら、言った。
「なら教えてやろう……いいか、今回の俺達の仕事は、この国の王様の命令なんだよ。いいか?俺達は自分達の悪さの為にやってんじゃない。王様からここを燃やせ、って言われたから、やってるのさ」
だから、俺達は悪いんじゃない。この国じゃ、ここを燃やすって事が正義なんだぜ?
そう告げるブルージャムにエースやルフィは嘘だ!と叫んだが、まあ、その辺は予想していた事だ。
騒がれると面倒なので、焼却作業が終わるまでとばかりに猿轡をして、杭に拘束されていた。
「仕事が終わったら、迎えに来てやるよ。大門で待ってる軍隊通じて海軍に帰してやるから、それまで大人しくしてな」
そう言ってブルージャム海賊団の一味は立ち去ったが、それで大人しくしている程、エースもルフィも諦めが良い子供達ではない。
必死にもがき、道具を使い、ようやくロープが切れた時には、しかし、周囲は既に火に包まれていた。
脱出を図った2人だったが、火に行く手を阻まれ、逃げ惑う中……ブルージャム達と再び遭遇した。
「誰が逃げていいと言った、悪ガキ共がァ!」
ブルージャムの怒鳴り声。
その方向を見れば、ブルージャム海賊団の一味……とうに逃げているだろう、と考えていただけに、エースとルフィも驚いた。加えて、あれだけ昼過ぎには機嫌が良かったように見えた彼らは一様に追い詰められた者特有の雰囲気と表情をしていた。
まあ、彼らの気持ちも事情を知っていれば分からないでもないだろう。
好き好んで隠れ住まねばならない立場を選んだ訳ではない。そんな彼らに投げかけられた王からの『お前達を貴族にしてやろう』、という言葉につい伸ばしてしまった手……。
自業自得とはいえ、その結果として、彼らは手酷く裏切られた。
まあ、そうは言ってもこの頃、貴族の屋敷で交わされていた子供からの。
「何故、ゴミ山の人間は燃やされてしまうのか?」
という問いに対して親である貴族が答えた……。
「彼らが貴族に生まれてこなかったのがいけないんだよ、こういうのを自業自得というんだ」
という会話を聞いていれば、誰だって怒るだろうが……まあ、だからこそ、こういうメンタリティを持つ相手と、けれどにこやかな笑顔で会談せねばならない事にアスラは疲れ、他の中将らが代わりの出席を嫌がって逃げ出す訳だが。
はめられた、その事を自嘲気味に語ったブルージャムは、逃げようとしたエースとルフィを捕まえさせた。
無論、エースとルフィが本当に海軍本部中将が保護者なのかは知らないが、可能性があるのならば、何だって使ってやろうという考えによるものだ。
この炎さえ抜け出せば、言っていた事が本当ならば何かの交渉の種に使える可能性は、ある。
「こうなりゃ、何が何でも生き延びて、俺は貴族共に復讐してやる……!」
そうブルージャムが呟いた時。
エースとルフィ、2人を捕まえていた海賊の腕が吹き飛んだ。結果として、抑えられていた腕が突如消えた事によってエースとルフィの2人は地面へと転がる。
一瞬、誰もが何も考えられなかった。
「はァ?」
一拍置いて、訳が分からない、といった風情でブルージャムが呟いた次の瞬間、2人の海賊はそのまま豪快に吹き飛ばされて、炎の海へと飛び込んでいった。無論、好き好んで自分から突っ込んだ訳でない事ぐらいは誰にでも分かる。
断末魔の悲鳴が一瞬の硬直を生み。
そうして、エースとルフィ、2人の背後に空から舞い降りた人影1つ。
「大丈夫だったか?」
「「アスラ!」」「手前は……!」
エースとルフィが歓喜の、ブルージャムが苦々しげな呻きを洩らす。
そこにいたのは、海軍本部中将アスラだった。
原作ではメラメラの実は出なかったか……
けど、2人はどうなったんでしょうねえ?
しかし、まさかあの場面であの人が来るとは……
そして、ドラゴンの後ろにいる人って……矢張りあの人ですよね?