第44話−日常編1
これは今より少し前の話。数年前の事。
海軍の町マリンフォード。
グランドラインでも要衝に位置するが故に、海軍の要塞が築かれたこの本部は空飛ぶ海賊、海賊艦隊提督シキとの戦いを含め、これまで1度ならず激しい戦いで要塞が損壊しつつも、地理的要因故に再建され続けてきた。
その一角で。
激しい睨み合いが続いていた。
片方は海軍の『英雄』ガープ中将。
もう片方は海軍最高戦力の一角、海軍大将赤犬。
どちらも苛立った様子だが、どちらかと言えば、ガープに常になく怒りがあり、赤犬大将にはガープにはない余裕があるように見える。尚、この場にはセンゴク元帥もいたが、どこか頭痛を堪えているような様子だった。
そうしてガープが吼える。
「なぜ、なぜじゃ……!」
「ふん……これまでの行動を省みてみるがいい……!」
赤犬ことサカズキ大将も、どこか挑発染みた様子で返す。
しかし、ガープが怒れば怒る程、むしろサカズキ自身には余裕が生まれているかのようだった。
「何故……何故貴様がエスメラルダに……!」
一瞬言葉を区切り、ガープは吼えた。
「『じーじ』って呼ばれとるんじゃああああああ!」
その言葉にサカズキ大将は優越感に満ちた笑みで返し。
センゴク元帥は深い深い溜息をつき。
そうして、センゴク元帥の隣に控えていたアスラは呆れた様子で、見ていた。
そもそもの発端は、アスラの子供、エスメラルダが大きくなってきた事がある種の元だった。
そうして、『まーま』の言葉が発せられた事から、残る面々の内から『誰が一番に名前を呼ばれるか』という、そこはかとない駆け引きが生まれるようになった。
『ぱーぱ』は仕方ない。
それはアスラだけに許された呼称だ。
だが、それ以外は……。
そうして、最初に『にーちゃ』と呼ばれたサボが喜び、【ガーン】とでもいう擬音でもつきそうな様子でエースとルフィが愕然として、落ち込んだり。
或いは先に『ねーちゃ』と呼ばれたサンダーソニアにマリーゴールドが羨ましそうな様子を見せたりする光景が見られた。
そうして。
今日は偶々であったが、最初に何時ものようにガープ中将が仕事をサボってやってきた。
続けて、仕事帰りにアスラに誘われてセンゴク元帥とサカズキ大将がやって来た。
元々は仕事が一緒に終わったサカズキ大将にアスラが『よければ、ご飯食べて行きませんか?』と誘ったのがきっかけだった。
現在ではサカズキ大将が男やもめな事を知っているアスラはこうして、サカズキ大将を誘う事がある。元より現在のアスラの家は大家族だ。
妻であるハンコックとその妹2人に、エースにルフィ、サボもいる。これに今は娘も加わり、時折他の大将や中将まで寄っていく。
ぶっちゃけると、年を喰った人物や長年戦ってきた為に家庭を顧みなかったが故に一人身となった者、或いは純粋に若い頃から仕事に熱中してきて気付けば家庭を築いて来なかった者などが案外多かったりする。
例外はモモンガ中将など一部の者だけだ。
結果として、家に帰っても寂しいのか、アスラの家が賑やかな事もあり、何かと寄っていく者は多い。更に、部下らが挨拶に寄ったり、場合によっては仕事が追っかけてきたりと海軍の上層部の中ではアスラの家は相当に賑やかだった。
それでまあ、そこへ通りかかったセンゴク元帥も誘い、久方ぶりに3人で酒でも呑むかとやって来て、まあそこで自分の家の如く、(仕事がある筈なのに何故か)くつろいでいたガープ中将にセンゴク元帥が雷を落としたりと色々あった訳だが……そこで事件が起きた。
寝ていたエスメラルダが、眼を起こし、ぐずった。
それに気付いたサカズキ大将が一番近くにいた事もあり、恐る恐るながらあやしていた所、サカズキ大将の指を握り、笑顔でこう呼んだのだった。
「じーじ」
と……。
さあ、ここから大変だった。
実は女の子の孫にそう呼ばれるのを楽しみにしていたガープ中将(中将の孫じゃありません、ってツッコミはスルーされていた)が、サカズキ大将に怒りをあらわにした。
これで、ふええ…と泣き出したエスメラルダをあやしながら、サカズキ大将が『ふふん』と少し優越感の混じった笑みを浮かべた事が原因となり……遂には庭で2人が対峙する状況を生んだのだった。
「……センゴク元帥」
「……なんだ」
「……うちの庭っていうか、この近辺の家、あの2人の喧嘩の後無事に終わってるんでしょうか?」
「……終わったら、あの2人の給料から修理代は差し引く」
まあ、彼らの名誉から言えば、少なくとも彼らは抑えようとはした。
拳骨流星群やら大噴火のような大規模破壊攻撃は双方とも抑え、主に接近戦での勝負と短距離での能力使用に留めた。
が、それでも。結果から言えば、この2人の喧嘩はアスラの家の庭を滅茶苦茶にしただけでは飽き足らず、塀を倒壊させ、周辺の家屋数軒を粉砕するに至った。
尚、この喧嘩を止めたのは、大勢来たので、それならご馳走を作ろうと買い物に出かけていたハンコックが帰ってきて、この余りな惨状を見た彼女が……。
『何をしとるのじゃー!』
という怒声と共に投げつけ、サカズキ大将とガープ中将2人の頭に直撃した鍋2つ(覇気つき)であった事を追記しておこう。
「……のう、サカズキ」
「……なんだ」
「これはないと思うんじゃがどうじゃろう?」
「文句を言うな、確かに喧嘩したワシらが悪い」
そのまま怒ったハンコックに叩き出された2人の姿が、その晩屋台で見られたそうな。
追伸ながら、再建されたアスラの家の庭だが……。
「……何故一部が公園化してるんだろうね」
アスラが何気に気に入っていた日本庭園の一角に私設公園というか、遊具が設置されていたそうである。
ちなみに、全額某2人が出したそうだ。
……相手が相手な上に、好意からなのも分かっていたので何も言えなかったが、物凄いミスマッチにアスラは複雑な表情をしていた。
ただまあ、周辺のお宅の子供達にも解放して、役には立ったそうだ。