第51話−日常編5
【SIDE:ルフィ】
「ゴムゴムのぉ〜〜〜」
腕をぐるぐると回して、加速をつけて振る。
ゴムと化した肉体はそれでびよーんと伸び、相手に向かう。
「ピストル!」
インパクトの瞬間、『鉄塊』をかける。
ガァァァァァン!と轟音を立てて、爺ちゃんが吹っ飛ぶ。とはいえ、これで倒せるようなら、苦労はしねえ。
案の定、吹っ飛びながら地面に両手をついて、反転。あっさり姿勢を立て直して地面に立つ。
「わっはっは、ようやっと使いこなせるようになったようじゃのう!」
にやりと爺ちゃんが笑う。
ゴムになったお陰で、普通のパンチは効かない筈なのに、爺ちゃんやアスラの拳は痛い。
爺ちゃん曰く『愛のある拳』は防げない、って事らしい。……なんか、アスラが呆れてたが、何でだろうな?
と、爺ちゃんがあっとういう間に接近してきて、っていうか、『剃』だ!
「ふん!」
ゴイン!と盛大な音がするが、何とか『鉄塊』が間に合った。
とはいえ痛え。
けど、立ち止まってたらすぐやられちまう!
何しろ、今回は爺ちゃんとは肉がかかってるんだ!それもアスラがお土産にくれた凄え美味い肉!海王類って奴のらしいけど、アスラ曰く『近海に群が出たんで、ストレス発散』とか言ってたな。何だっただろ。
最後の一本、それは俺が食う!!
「ゴムゴムの〜鉄槍!」
足を揃えて、発射。さすがにこの至近距離じゃ回避しきれず、再び爺ちゃんが飛ぶ。とはいえ、爺ちゃんもガッチリガードしてたせいで、姿勢を崩さないままだ。このままじゃすぐ追撃がくる!
だから追撃をかける!
「ゴムゴムの指銃乱打(シガントリング)!」
指銃(シガン)を銃乱打(ガトリング)の要領で乱射する。
さすがに、この攻撃は堪えたのか、爺ちゃんが下がる。
よし!これで距離が取れた!
今回、爺ちゃんは遠距離攻撃は使わない。
別にここが鍛錬場なら、爺ちゃんの事だからそこらの壁でも砕いて作った瓦礫(大抵鍛錬場が半壊する)で拳骨流星群もどきを仕掛けてきたり、或いは嵐脚を使ってきたりするが、ここはアスラん家の前庭だ。ここでそんな事やったら、ハンコックに怒鳴られて、爺ちゃんは肉食えずに叩き出されちまうからやんない。
爺ちゃんが不利に思えるかもしれないけど、そこはアスラ曰く『ハンデ』、だって言ってた。
「ギア2(セカンド)!」
足に力を込め、血流を加速する。
これで、一時的にだけど、剃を上回る速度が出せる。この技はどうしても、その性質上ちょっとだけど発動までに時間がかかるから、少しだけ距離が取りたかったんだ。
オレも技は殴る技だから、接近しないといけない。けど、接近したら爺ちゃんの間合いに入っちまうから、一気に勝負を決めないと!
「ゴムゴムの〜〜!」
両腕を置き去りにして、踏み込む。
これで腕が戻ってくれば、バズーカが…!
「拳骨流星乱打!」
ってやべえ!?
そう思った瞬間にはカウンターで爺ちゃんの拳骨の弾幕を喰らって、吹っ飛んでた。
駄目だ、負けた……。
「肉が〜……」
そう呻いて、体が動かないオレはがっくりと力を抜いた。
【SIDE:アスラ】
「わっはっは!ワシの勝ちじゃな、ルフィ!」
ガープ中将が勝ち誇っている。
っていうか、大人気ないですよ、中将。あんた孫に食い物譲るぐらいしなさいな……。
山のようにあった筈の海王類の肉。それも爺ちゃんにエース、ルフィが殆ど食っちまった。っていうか、アリスよりたくさん食うって何だよ、どこに入ってるんだ、あんたら。
漫画で見た事はあったが、実物を見るとまた違和感が凄い、とアスラは思う。
「やっぱ、ジジイが勝ったか」
「まあ、当然だろ」
エースとサボも、やっぱり、という顔で頷いている。
まあ、ルフィもこの年で原作に比べれば相当強くなっていると思う。ゴムの体を使った戦闘術に加えて、六式が使えるようになってるんだから、当然かもしれないが。
原作とやり方は違うが、この辺はやはりきちんとした先生に教わった方がいい。
まあ、野生児ならではの強みもあるだろうが、少なくとも技は、ね。
実際、油断するとすぐ、ガープ中将はルフィやエース、サボをどっかに連れてってしまう。というか、俺がデスクワークでなかなかルフィらの相手が出来なくなった事や、気付くのが遅れるようになった事も大きい。
何より、ガープ中将はルフィの祖父であり、父であるドラゴンがここ、マリンフォードに来れる訳がない以上、正式な保護者はガープ中将だ。彼が連れて行くとなると、俺ならともかく、他の面々じゃ止めづらい。
お陰で、最近はすっかり性格が原作のまんまだ……。幼い頃はかなりの真面目人間になってたんだけどなあ。
まあ、今の所、ルフィは未だエースやサボに勝てないでいる。
で、エースやサボはまだガープ中将に勝てないでいる。
多少のハンデをつけた所で、こうなる事はまあ、分かってはいただろう。
「よし、それじゃ……む?」
勝利したガープ中将が肉の方を見やって訝しげな声を上げる。
おや?最後に残ってた筈の肉がない。……ああ、成る程。
「って、何でエースが食っておるんじゃ!?」
「あ」
殆ど無意識に食ってたか、やはりエースも食い意地が張っている。
まんまと漁夫の利をかっさらわれたガープ中将だったが、お陰で今度は中将VSエースの勝負が勃発してしまった。
「ちょっとルフィ、大丈夫?」
「うーナミ〜いてえ……」
ルフィはと見れば、ナミに介抱されているようだ。
どうにもナミからすれば、ルフィは危なっかしくて放っておけない、らしい。
今はまだ、恋愛感情にまでは至ってないようだが……さて、どうなるかな?
こんな賑やかな光景が、ある意味アスラ邸の日常でもあった。
なお、ついでながら、ルフィは麦わら帽子を被っていない。
シャンクスとルフィはそこまで親しくならなかったからな……代わりに俺が「MARINE」の文字の入った海軍の帽子をやっている。
……こうなると、あいつの2つ名って何になるんだろうな。