第53話−世界会議
「だからこそ!我々は早急に革命家ドラゴンに対して、何らかの対策を取らねばならんのだ!」
西の海に位置するイルシア王国タラッサ・ルーカスが世界会議で吼えていた。
……原作より切羽詰ってるっぽいな。
こりゃあれか、CP(サイファーポール)が開店休業状態なのも影響してるのかね。
……そんな事を世界会議の一角で、アスラはぼんやりと見ながら考えていた。
世界会議。
それは世界政府に加盟する世界中の国の代表で構成される議員によって行なわれる会議だ。
当然、その重要性は高い。だからこそ、各国とも切れ物、或いは自国の利権の代弁者をこぞって送り込む。いや、送り込むというのは正しくない。ここで認められる事はそのまま、各国に自分を認められるという事に等しい為、むしろ最高権力者が自ら足を運ぶ。
こうなった背景には1つの噂話がある。
ここに送られた、とある王国の大使が天竜人に気に入られ……。
『気に入ったえ!お前をお前の国の王にしてやるえ!』
と宣言し、最高権力者になりあがった、という伝説染みた話だ。
ある意味上手い話だと思う。この話には本当にそんな事が起きたかどうかは関係ない。この話に必要なものは、『ありえる話』である事、それだけだ。そうすれば、まさかと思った人間でも、万が一を恐れ、下っ端を派遣など出来まい。かくして、世界会議には最高権力者が確実に集う、って訳だ。
従って、今、ここにいる面々がそのまま、その国の実質的な最高権力者であると見ていい。
(それにしても……)
ふと周囲を目だけを動かして見る。
原作ではドラム王国国王ワポルがバカにした訳だが、会場全体の雰囲気はといえば、ワポルと同じような雰囲気がおよそ半分、タラッサー・ルーカスに賛意を示しているのがおよそ半分に、極少数の泰然としている雰囲気の連中、という所だ。
ちなみに最後の連中は例外なく、国で慕われている連中だ。
革命なんぞ起きる心配もない、或いは起きればそれは自分の責任ときっちり割り切れる連中だな。
しかし、予想以上に賛意を示している連中が多いな……これはあれか、最近革命軍による革命が頻発した事が影響しているとみるべきか……。
あ、今、ワポルがバカにした発言をしてるな。
あいつに賛同してる連中は……まあ、殆どは実感出来てないのだろう。革命ってものの恐ろしさを、自分達が民からどう思われているかを……。
「まっはっはっは。な〜にを馬鹿な事を。たかだか1人の犯罪者をそこまで恐れるとは情けない」
……はて、原作ではこういう言い方だっけ?
駄目だ、覚えてないや。まあ、状況によって発言内容なんて変わるだろうしな。
嘲笑するワポルだが、お陰で会場の雰囲気は最悪だ。確かにワポルに賛同して笑ってる奴もいるが、半数と言ったように残り半数はワポルの発言と態度に不快感を示している。
尚も同じ1国の国王を馬鹿にした発言を繰り返すワポルだったが、そこに冷静極まりない声が、冷や水をかける事になった。
「黙ってはどうかね?」
腕組みをし、腰を降ろしたまま。決して声を荒げた訳でも、大声を出した訳でもない。
けれど、その声は会場全体に響いた。
アラバスタ王国国王ネフェルタリ・コブラ。
彼の一言で、会場の雰囲気は一変した。さすがというべきか……。
ワポルも会場の空気が変わった事を感じ取ったのだろう。コブラ国王を睨みながら、どっかと椅子に腰を下ろした。
さて、会議は白熱した。
革命によって国王が倒された、この事自体には不快感を示す王らは多かった。ドラゴンの脅威に関しては、所詮1人の犯罪者と看做し、その上でその一介の犯罪者風情に王が殺されたのが(直接ではないにせよ)腹を立てる者が多かった。
そうして、案の定こちらにもとばっちりが回ってきた。
「海軍は何をしているのだ!」
そんな声が会場に響き、アスラに視線が集中する。
アスラがここに出席しているのは、海軍の代表者を出す際に、世界政府の外交官という立場まで持っている彼以外に誰がいる、とあっさり決められてしまったからだ。
まあ、CP長官という立場とかその辺も大きいのだが……。
とぼけた様子で、アスラは返事を返した。
「何を、とは?」
「何故、海軍は革命を起こした連中を取り締まらないのだ!」
そうだ、そうだ、と一部の連中が騒ぎ立てるが、殆どの連中はそういった騒ぎ立てている連中を苦々しい顔で睨んでいる。確かに、海軍が本気で動けば、革命を起こした国の1つや2つ、楽に潰せる。それなのに、海軍が革命を起こした国に対して、全く何も対応を起こそうとしない事に不満を言う連中、まあ、予想はしていた。
海軍が動かないのには、きちんとした理由がある。それを理解しているからこそ、大部分の連中は海軍が海軍がと騒ぐ連中を睨んでいるという訳だ。
「よろしいので?」
「何?」
「海軍が各国内部に干渉して本当によろしいのかとお聞きしている」
その言葉に、騒いでいた連中は一斉に押し黙った。
そう、世界政府には決まりがある。それは『各国家内部へは基本不干渉』、という事だ。
それが原則だ。
そりゃあ誰だって、自分の国の内部に世界政府が相手だからとて、好きに手を伸ばされたくはない。世界政府としても、だからってどの国も世界政府に加盟を渋るようじゃ困る、結果としてこんな基本原則が成立した訳だ。
ちなみに『基本』とあるのは、天竜人に手を出されたり、或いは世界政府に多大な影響が出るような事件を起こしたり、或いは重大な犯罪者の追跡などが起きたら、世界政府が動くのは変わらないからだ。二番目の場合は、オハラへのバスターコール発動などが実例に当たるし、三番目などは原作のアラバスタ王国への麦わらの一味の問い合わせなどが実例に当たる。三番目も海軍があっさり引き下がったのは、この案件があったからだ。
この原則があるからこそ、海軍は革命が起きた国への物理的な干渉が行なえない。
王達も下手な干渉を行なう事が出来ない。
『革命軍が関わっていると思われる事態においてのみ』という例外を設けた所で同じ事だ。それは前例となり、『革命軍が動いている可能性がある』、それだけで世界政府や海軍が各国へ直接介入する口実となりうる。
結局、この後は海軍の責任を追及される事もなく、この一件は、終わった。
……そう、この一件は、だ。世界会議が一件だけで終わる訳がない。各国の王だって暇じゃない身をわざわざこの地まで足を運んでいるんだ。まだまだ案件は残っている。他もこう楽だといいんだが……。
ちなみに、事件が起きた際の連絡性を速める為、また救援の手筈を迅速に行なう為に海軍の出張所を各国の都に置かせてもらうという案件、赤十字もどきの提案は今回も否決された。……有効性は理解してもらってるんだが、これが世界政府が干渉してくる氷山の一角になるのを恐れられているんだよな……。
会議も今日は一旦終わり……アスラは会場の外へと出た。
あれから、CP長官として責められる場面も多かった。スパンダインの野郎、本来裏方の筈なのに、あの野郎は自分の出世と権力、金の為に表に結構出て、名前と顔を売り込んでいた。
そのお陰で、彼の失脚と後任がアスラ中将だ、って事もばれていたのだ。
まあ、各国の内情に関しては、前述の理由でアスラが責められる事はなかったのだが……いや、各国ともCPが自国に潜り込んでいるのは知っているが、そこは黙っているのがお約束って奴だ。とはいえ、あれこれ責め立てられる中で、『1度全部吹っ飛ばしてやりたくなるな……』と思いつつ、顔は神妙に受け答えをしていた。
……嘗てのサラリーマン時代なら、殴り倒しても最悪会社を首になるだけだったのに……こっちに来て、出世はしたが、それ以上に面倒も物凄く増えたよなあ……。
何だか、前世と言っておくが、その当時の上司に内心で悪口を言っていたのを少し悪かったな、と思ったアスラだった。
まあ、まだ世界会議は続くが、今日はこれで終わりだ。
周囲を見回したアスラはふと、小さな女の子を見つけた。……はて、どこかであの子見たような……そう思った時、1人の少女と一致した。
少女の傍に歩み寄ると、アスラは。
「こんにちわ、ビビ王女」
そう呼びかけた。
そう、この少女こそアラバスタ王国王女ネフェルタリ・ビビ。原作の、あの少女だった。
「ええっと、おじちゃん誰?」
おじさん、という言葉に内心ぐさっと来つつも、まあ、よく考えれば『俺も2人の子供がいるお父さんだしな』……と思い返したアスラは自身が以前に会っている事などを伝えた。
嘘ではない。
コブラ国王とは以前に面識があったが、あの親馬鹿国王が娘と延々離れていられる訳がない。だから、もっと小さい頃にも会った事があったし、今回もこうして連れて来ていた訳だが……何しろ、ここはクソ真面目な会議の場だ。こんな所でこんな年の子が楽しめる場所がある筈もない。
まあ、聡明な子だ。話している内に思い出してくれたらしく、逆に遊ぼうと誘われた。
……まあ、いいか。正直、腹に一物抱えた奴や、能天気に傲慢な奴らばかり相手にしていて精神的に疲れた……うちの子と遊んでやってるつもりで相手にしていると、コブラ国王がやって来た。
顔見知り故、挨拶して、折角だから食事でも一緒にどうかね、とのお誘いに、ビビ王女も一緒に食べようと手を引っ張ってくるのにコブラ国王と顔を見合わせて笑って、了承した。お互い子供がいる者同士、先に立ってはしゃぎながら歩くビビ王女の後について歩きながら、コブラ国王と子供の事で色々と話しながら彼らは歩いていった。
……ちなみに、アスラは気付いていなかったし、原作で忘れていたエピソードだったが、ビビの姿を見かけたワポルが先程彼女の父親に恥をかかされた、とちょっかい出そうとして、アスラ中将の姿に気付き、しばらく眺めていたが、やがて舌打ちして諦めて去っていった事を彼は知らなかった。さすがに、ワポルとて海軍本部中将の前で子供を苛める度胸はなかったようだ。
気付かない所で、原作をまた一箇所変えてしまっていたアスラだった。