第59話−任務遂行と遭遇
「案外あ〜っさり〜見つかった〜のぅ?よよいっ」
「チャパパパ、長官の言った事がまた1つ信憑性を帯びたチャパ」
ダンスパウダー搭載船。
首都アルバーナに停泊する船の1つが、ダンスパウダーを使用している船である事は容易に突き止められた。
元より、疑念を持った市民が動いて、偶然ダンスパウダーを発見するように情報が流されている。逆に言えば、わざと知られるようにしている訳で、専門の捜査官がそのつもりで動けば、場所を突き止めるのは容易かった。
本来、厳重に秘匿されてしかるべき情報がこうもあっさり手に入る事自体が、情報操作の存在をCP(サイファーポール)の情報分析官は見出していた。
CP(サイファーポール)はこれまでと比べて、再建の過程で大幅に体制が変わった。
これまではCP1〜9に分けられているだけで、内部でその支部ごとに分業体制が敷かれていた訳だが、これをまずCP9が裏専門部隊である事は変わりないし、唯一問題がなかった部隊なので、ここはそのままだが、CP1〜8を情報分析、情報収集、情報工作、事務その他一般(調理・会計部門なども含む)、工作支援(拠点設置や各種調達)、教育・育成(スカウト含む)、内部査察、戦闘の8つに分け、これを必要数に応じて、各拠点に配置するという体制を取った。
例えば、教育・育成ならば本部に置き、一括して行い、工作支援も一定数を置くと共に必要に応じて増派されるという具合だ。
これらを統括する為に、新たにCP0を設け、いわばここが長官直轄の総司令部となる。
これによって、これまでCP1で手に入れた重要情報が他のCPに伝わっていない、という事態も起きていたのだが、それらを回避すると共に、各部署が自分の担当範囲で好きに行なっていた情報工作も本部からの支持で世界全体の情勢を見て行なわれるようになった。
これによって、これまでCP1〜8の数字が割り振られていた世界の8つの拠点は、東の海支部、西の海支部、北の海支部、南の海支部、グランドライン第1〜第4支部という具合に呼称も変更された。
……まあ、お陰で長官たるアスラの責任が更に重くなって、やらないといけない改革だったとはいえ、アスラは重い溜息をついたりしているのだが。
まあ、とはいえ、そこはお役所仕事。
既に長官のアスラが承認を与え、五老星からの承認も得ているとはいえ、今年の改定には間に合わなかった為に、正式な変更は来年からで、現段階では内部で仮証明発行で代用している状態で、外からは旧来以前の状態だ。
だからこそ、今回クマドリらに渡された身分証明が、アラバスタ王国を含む領域を担当していたCP2のものだったりする訳だが……。
今回の改訂で、CP4(事務系)が1つにまとめられたのは、とにかく書類の提出は食堂以外のCP4の窓口に提出しておけばいい、という体制をアスラが作りたかったからであり、『たらい回しは許さん』と元の世界のお役所仕事の最たる部分を避けたかった為だったり、或いはCP9への配属を希望する場合は、まずCP8で実戦経験を積むと同時に六式を修得し、その上でCP6(教育部門)で3ヶ月〜半年の研修を受け、その上でCP2(情報収集)とCP3(情報工作)両部門で各半年〜1年の実地研修を積む事と定められた。
最大で期間に倍近い差があるのは、やはり天才というものはいるから、なのだが……もっとも、天才と思って配属してCP9から苦情が発生するような事態になればボーナス査定にも関わってくるので、まず滅多に早期卒業はないだろうとアスラは判断してたりする。
なお、原作組はワンゼは悩んだ末、CP4(調理部門)へ、ジェリー、ネロはCP8へ配属されている。
ちなみに、監獄に収監された元CPの面々の素行は逐一監視されており、出所後の行動如何で再雇用される態勢も準備されている。
甘いと思う者もいるだろうが、そうでもない。これはあくまで、『仕事がないからと海賊なりに転向されるよりはマシ』という判断から決定された事であり、反省の余地なし、と看做された者で、危険人物と看做された場合は闇から闇へと葬る準備すらされている。
さて、話を戻そう。
今回、発見された当初は、CP8(戦闘部隊)によって襲撃をかけるという案も検討された。
だが、その場合当然だが、アラバスタ王国に了承を得てから、という事になる。逆に言えば、今の時点で『世界政府はアラバスタ王国に内偵かけてましたよ〜』と堂々と宣言する事になる。それは今の時点では拙い。クロコダイルとの戦闘はまだまだ、これからだからだ。
最終的なアスラの決断は『消せ、世界政府が関与した証拠を気取られる事ないよう跡形もなく』だ。
容赦ないように思えるが、アスラの基本的な正義の源は『より多数の、より平和な世界をもたらす正義』だ。その方がより多くの人間が平和に過ごせると看做せば、嘗て東の海でシャンクスとの戦闘を回避したように、海賊を見逃しもする。
その一方で、こちらの世界に来て海軍に入って早々にサカズキ中将こと現赤犬大将に預けられたからだろう。容赦のない部分もまた本人が意識していない内にあったりする。
結局、こうした判断の結果として、最終的に『極少数による殲滅』が決定された。
ゆえに、彼らがここにいる。
「それじゃ行くチャパ」
「りょう〜かい〜だあ〜ぁ」
双方余計な会話はそれ以上必要ない。
こうした裏仕事こそCP9の本分。クマドリ・フクロウ共に静かに動き出した。
アラバスタ王国にダンスパウダーの密輸を行なうのは、オフィサー・エージェントの部下となるビリオンズの1人、Mr.メロウと呼ばれる男が責任者だ。
マスクメロンのような帽子を被り、『半熟』と書かれたシャツを着ている彼は、だがその日、大いなる災厄に見舞われていた。
「一体どこのどいつだ、襲撃かましてきたのは!?」
「「「分かりません!」」」
少数なのは間違いない。
だが、その少数によって、彼の部下は次々と消されていく。そう、消されていく、だ。倒されるのではない、殺されている。
この世界に入った時から、ある程度の覚悟はしていた。
組織での昇進狙いとはいえ、こうした発覚すれば怨まれる仕事をしていれば、とどこかで覚悟はしていた。
だが、それはこんな暗殺のようなやり方ではない。
彼が想像していたのは、計画通りに物事が推移し、押し寄せる市民に詰め寄られる状況だった。その際に国王が黒幕だと思わせる事が彼の任務であり、逆上した市民にリンチに合う危険はあったものの、十分生還を狙えると考えていた。
だが、今回の襲撃者は自分達に姿を見せようとしない。
まず、見張りが消されたが、これとて争ったような音さえしなかった。これは見張りが相互に気付く余裕すらなく、瞬殺された事を意味している。声をあげる余裕すらなく、悲鳴すら上げさせる事なく、一撃で命を狩る。これらは明らかに相手もまた、プロである事を意味している。
本来ならば、さっさと逃げたい。
だが、逃げてどうなるのか。
何ら任務を果たせないままに逃亡した所でやって来るのは、Mr.13アンラッキーズによる爆弾の配達だろう。せめて、相手が何者なのかぐらいは把握してからでないと逃げるに逃げれない。それはおそらく、他の者も同じだろう。
だが……。
このままでは……。
「くそ、どうすりゃいいんだ……」
つい出るぼやき、だが、それに答えが返ってくるとは思っていなかった。
だが。
「チャパパパ、大人しく死んでおけばいいチャパ」
「……!?」
いきなり聞こえた声に、慌てて振り向くと、そこには大柄で口にチャックのようなものがついている男がいた。
その足元には先程まで語っていた部下達……だったものが、転がっている。
「……お、おい、そいつら……は」
「ああ?ああ、こいつらはもう死んでるチャパ。お前らは皆殺し決定してるチャパ」
倒れる音すらしなかった。
フクロウはこう見えて、『音無し』と呼ばれる程の「剃」の達人だ。こうした無音暗殺術こそがフクロウの持ち味であり、今も瞬時に間合いを詰めた上で、背後から眉間と喉に親指で「指銃」を撃ち込み、声を上げる事さえ許さずにその場にいた3人全員を殺したのだった。
「い、一体手前らは何者なんだ……っ!」
答えが返ってくるとは思えなかったが、それでもMr.メロウはそう問わずにいられなかった。
「チャパパパ、それは」
だが、あっさりとつい癖というべきか、フクロウがばらしかけた瞬間。
(ゴン)
「何でもかんでもペラペラ喋るんじゃね〜よよいっ」
新たにクマドリが姿を現し、手にしたキューでフクロウの頭部を一撃して黙らせた。
最も、常人ならばそれだけで頭が陥没しそうな一撃を喰らっても、フクロウ自身は「痛いチャパ」と、しかし平然とした様子で頭をさすっているだけだ。
しかし、実際もし、情報をばらしたが最後、処分されるのは決定済みだ。
そのあたりの処罰規定もきっちり厳しく設定されており、これまで以上にフクロウの口の軽さは文字通りの意味で当人にとっての命取りとなりかねないのだった。
というか、ばらしていい事と悪い事がはっきり区分されており、そういう意味ではフクロウの口の軽さが怖いクマドリだった。
「そうだったチャパ。でも、俺らの所属ぐらいは言っても大丈夫チャパ」
「まあ〜のう。我らはCP2、冥土の土産によ〜く覚えておく、よよいっ」
そうクマドリが答えた次の瞬間、フクロウの姿が音も無く消え。
「蹴爪先(ケリ・ポアント)!」
「チャパ!?」
迎撃された。
さすがにクマドリも驚く。が、同時にそちらを見て、2人して思わず呟いた。
「んが〜はっはっは〜よく突き止めたわねい、と言いたいけれど、あんた達はお邪魔虫よ〜う!」
「……オカマじゃの〜う」
「オカマチャパ」
そこにいたのは……両肩から白鳥の首が伸びた服、マントをまとい、服もまた何とも言い難い。
顔立ちはとにかく濃く、化粧までしている。笑いながら、くるくると舞うその姿は何とも言い難い光景だった。
「Mr(ミスター)……!」
2、と言いかけて、かろうじて口を閉じるMr.メロウだった。さすがに、そこまで言ったら、口封じ確定だ。
「お前誰チャパ」
「あちしは用心棒よ〜う!さあ、ここはあちしに任せて、とっととあんた達は脱出しなさ〜い!」
くるりと舞うのを止めて、びしりと決めるその姿に隙はない。
その言葉に察した生き残り達もまた、『先生!それじゃ頼みます!』と用心棒にお願いするような事を口にしつつ、その場から走り去ってゆく。
本来ならば、Mr.2ボン・クレーはここでコブラ王が黒幕であると思わせる為に待機していた。
それが潰れた以上は、これが機を見るに敏な奴ならば、例えばMr.1や3ならば、とっとと見捨てて脱出していただろうが、そこは人情に厚いこの男。特に、このような状況での指示を受けていない事をいい事に、立ちはだかったのだった。
だが。
「付き合う必要は感じられんの〜う、よよいっ」
「同感チャパ。ここは任せるチャパ」
そう言うなり、フクロウの姿が音も無く消える。当然だ、CP9である彼らは陽気な面があれども同時に冷徹な人殺しでもある。この場での必要事項は確かにCP2が動いてると教えてやれるならそれで構わないが、本来は皆殺し。CP2が動いていると思わせるのは、あくまでついでに過ぎない。故に、本来の任務を遂行すべく、フクロウが剃で動いた。
それに反応しようとした、ボン・クレーだったが。
「指銃(シガン)Q!」
「アン・ドゥ、クラァーーーー!」
即座に動いたクマドリの一撃にフクロウを見逃さざるをえなかった。
「生憎、お前さんにゃ〜ここで死んでもらうよよいっ」
「んん〜ぅ、あんたを放置しとくのは危険そうね〜い」
互いに相手を容易ならざる人物とみて、戦闘態勢に入る。
ここに、史実では存在しなかった戦いが始まろうとしていた。