第61話−BWの黒幕達
「クソが……!」
バサリ!と机に報告書を叩きつける。
その音で少し頭が冷えた気がして、しばらく右手で顔面を覆って気持ちを落ち着ける。
「あら、どうかしたの?ご機嫌斜めのようだけど」
「……ロビンか」
顔面を覆ったまま、左手のフックで書類を示す。
読んでみろ、という様子にニコ・ロビンは書類をめくった。
「……あら」
成る程、これはクロコダイルの機嫌が悪くなるのも納得がいく。
報告書は2冊あった。
片方はMr.2ボン・クレーによるもの、もう片方は港湾に潜んでいたビリオンズによるものだった。
Mr.2の報告書は、彼の見た目と異なり、きちんと丁寧に書かれていた。
が、内容的には問題満載だ。
1つは交戦相手、CPがこれ程早く出てくるとは予想外だった。
1つは、これはもう1つの報告書にも関係しているが、ダンスパウダー作戦の失敗。
1つは、Mr.2自身の行動だ。
「CP2、ね……確か、ここアラバスタ王国を含む海域を担当する支部だったかしら」
「ああ……そうだ。あのスパンダインの奴め、つくづく祟りやがる」
最初の交戦相手に関して、ロビンが呟くと、ようやく落ち着いたのか、クロコダイルが何時もの調子で応える。
CP(サイファーポール)が現在再編を行なっている事は既にその筋では知られている話だが、どのように変わるかはまだ知られていない話だ。
ただ、以前の通りだとすれば、今回彼らが名乗ったCP2というのは、このアラバスタ王国を含む領域を担当していた支部であり、ダンスパウダーという話を調査していて、ここに辿り着いたというのであれば、一番可能性がありえる支部だ。
そうした意味では、スパンダインが世界政府にダンスパウダーの事を洩らす事になった結果が、今の状況を招いたとも言える。そういう意味では、クロコダイルのぼやきも当然だ。
だが、CP2が動いたという事は、クロコダイルの反乱の事を悟ってではなく、あくまでダンスパウダーの調査の結果である、と見る事も出来た。
「でも、気になるわね……」
「何がだ?」
「……このやりあった相手の強さ、よ」
ニコ・ロビンが気になったのは、Mr.2とやり合った相手の強さだった。
Mr.2は2という数字が示すように、オフィサー・エージェントの中でも相当に強い部類に入る、見た目はアレだが。
そのMr.2と相手は一対一で渡り合ったという。
「そんなに強い相手がCP2にいるものなのかしら?」
「……可能性としては幾つかあるな」
1つは偶々、今回派遣されてきた相手が強かったという可能性。
1つは再編されているという新生CP(サイファーポール)では、そうした強さが戦闘要員としては求められているという可能性。
そして、最後が……CP2ではないという可能性。
「偶々、という話なら何ら問題はないが……」
「純粋に実力が上がったか、もっと危険な所からの派遣だったら厄介ね」
「……とはいえ、現状ではこれ以上は何も分からん。警戒するしかなかろう」
確かに、この点に関してはこれ以上のやりようがない。
スパンダインが生きていれば、確認のしようもあったかもしれないが……生憎、死人にこれ以上何かを聞くのは不可能だ。もっとも、だからといって、生かしておくという選択はあの時はありえなかったから、仕方ないのだが。
「しかし、ダンスパウダーの失敗は痛いな……」
「そうね、しかも、噂すら絶たれたみたいだし」
こちらに関しては、港湾の作業員として潜り込んでいたビリオンズから、上げられた話だった。
折角の船とダンスパウダーが見事なまでに、普通の火災にされて、綺麗に処分されてしまった。
「……だが、この砂漠の国では、ダンスパウダー以上に効率的なものはそうそうない」
それもまた、事実だ。
「……やむをえん。作戦を一時凍結する。少しほとぼりを冷ました上で、戦力を整える」
「それが妥当かしらね……」
焦っても、いい事はない。
そもそも、現状を見るに、明らかにCPはダンスパウダーを狙って動いている。元々、ダンスパウダーは製造・所持双方とも禁止とされている品物であり、そんな情報を得た以上、世界政府が動くのはむしろ当然だ。それ自体は予想していたのだが、ただ1つ予想外だったのは、動き、突き止めるまでの速さだった。
「しかし、Mr.2の奴も余計な手間をかけさせてくれる……当面は顔を変えさせると共に、服も変えさせるしかあるまい」
普通の相手ならば、もっと激昂する所だが、Mr.2はマネマネの実の能力者だ。
確かに、変身している間は戦闘力は相当落ちるが、今は、正体を隠すのが優先だ。
あの場での正解を言うならば、ボン・クレーはMr.メロウなど見捨てて、自分はさっさと誰にも気付かれる事なく脱出すべきだった。だが、ボン・クレーには仲間を見捨てて逃げる、という事が出来なかっただけだ。とはいえ、クロコダイルからの命令はあくまで『ダンスパウダーの使用をコブラ王の仕業と思わせろ』というものであり、市民以外にばれた時どうしろ、という指示は下していなかった。
オフィサー・エージェントはその辺りの行動に関しては、結構な自由度が与えられている、そうした意味ではMr.2の行動は望ましいものではないにせよ、間違った行動ではない。
「いずれにせよ、しばらくは大人しくして、戦力の建て直しと戦略の練り直し、だな……」
「そうね……ねえ、1つ聞いていいかしら」
「なんだ」
「……貴方、この計画が成功して、王になったとしてどうするつもりなの?」
それはロビンが聞いてみたい事ではあった。
クロコダイルの計画が、この国の乗っ取りである事は分かっている。だが、その先はどうなのか?
これがお話なら、『あらたなるえいゆうは、とうとうおうさまにそくいしました、めでたしめでたし』で終わる事も出来るだろうが、現実はそう簡単には終わらない。手に入れたとて、物語は終わらない。
むしろ、現実とは手に入れたそこから、全ては始まる。
だからこそ、ロビンは聞きたかった。もし、順調に全てが進み、国を手に入れた時、その国を守る力として古代兵器を使おうとクロコダイルが考えている事を知っていたからだ。
「そうだな……」
断っても良かったが、何の気なしにクロコダイルは、ロビンの疑念に応えてやる事にした。