第62話−BWの黒幕達2と…
【SIDE:クロコダイル】
「まあ、簡潔に言ってしまえばな、考えていない」
あまりといえばあまりな答えにロビンは思わず眉根を寄せた。
ふざけているのだろうか、或いははぐらかしているのか、そう思ったからだ。
「別にふざけている訳でもない。大体そんなものだろう」
クロコダイルは問う。
お前は何故、歴史の本文(ポーネグリフ)を、追われてまで追い続けるのかと。
ニコ・ロビンの懸賞金額は7900万ベリーに達する。
だが、所詮7900万ベリーでもある。
この金額は確かに西の海で見たならば、大金だ。だが、グランドラインの基準で見れば、決してずば抜けた高額とは言えない。
そして、この金額はニコ・ロビンがオハラ壊滅後懸賞金をかけられてから、今日までざっと16年余り、全く上昇していない。つまり、ロビンがこれまで生きる為にやって来た事は懸賞金を上げる程の事ではなく……逆に言えば、世界政府から見た、ニコ・ロビンの脅威度とは『歴史の本文を解読出来る事』、このただ一点につきるという事でもある。
……おそらく、交渉と彼女が歴史の本文(ポーネグリフ)を諦めれば、彼女の懸賞金額を外す事も可能だろう。
「そもそも世間一般の海賊連中も同じ事だ。海賊王になりたいとほざく連中は大勢いる。だがな、奴らにもないだろうさ、海賊王となって、何がしたいのか、という事はな」
俺は海賊王になる!
いいだろう、目的があるのはいい事だ。
俺は尊敬する人を海賊王にしたい。
気にしない、したければ勝手にすればいいだろう。
では、そんな彼らに問おう。
『海賊王となった後、或いは海賊王にした後、それからどうする?』
おそらく、答えられる者はいないだろう。
あまりに巨大な目標が目の前に聳え立っている為に、それを踏破する事にばかり頭が行き、それを踏破した後の事、その向こうには何があるのか、踏破した後はどうしたいのか、その辺を考えている者などどれ程いるというのだろうか。
……クロコダイルから見ても、そんな海賊がいるとしたら、白ひげぐらいのものだろう、と思う。
これはどの世界でも同じだろう。
例えば、アスラの元の世界で例えるならば、有名大学に入りたいと思っている人がいても、入った後、何を学び、何を研究して、それを活かして、どんな仕事で何をしたいかまで決めている人はそういるものじゃない、という所だろうか。
「……ふう、分かったわ。けれど、BW(バロックワークス)で貴方についてきてる面々はそうじゃない人もいるんじゃない?」
そういう連中はどうするのか、と言外に問う。
Mr.1はいい。彼はクロコダイルに心酔しているし、己を律する事の出来る人物だ。
Mr.2もいい。見た目はアレだが、きちんと誠意を持って対応すれば、恨みを残さない相手だ。望みの相手をインペルダウンから解放できずとも、こちらが騙したりせず毅然とした対応を取れば、こちらを怨んだりもしないだろう。
問題はそこから下だ。
そこから下は一気に品性が低下する気がする。
ビリオンズなどは、エリート候補と称してはいるが、その実海賊連中と大差ない、そうした連中をどう扱うつもりなのか?
「別に問題なかろう?BW(バロックワークス)での貢献度に応じた地位をやるとは約束しているが、その地位にそのまま最後までいられるとは誰も言ってはいない」
「……そういう事、ね」
それでロビンも悟らざるをえなかった。
確かに、初期に措いては以前に王国で務めていた者を排して、貢献した者達が新たに役職を得るのかもしれない。
だが、クロコダイルはその中から、本当に役立つ者はそのまま引き立てる事はあっても、大部分の荒事にしか使えない、引いては統治に役に立たない連中は何かと理由をつけて処理していくのだろう。
「まったく……その上、貴方の性格からして、傲慢で理不尽な統治っていうのもやらないでしょうし……案外、普通にビビ王女でも娶って、王族の一員になった方が安全確実なんじゃない?」
「俺に、あんな小便臭い小娘を抱けってか?」
「あら、あと何年かすれば、綺麗になるわよ、あの子」
「はっ、どうせ抱くなら今、綺麗な女を抱きたいもんだな。頭の悪くない女なら尚いい」
言ってなさい、そうロビンは笑うと、仕事へと戻っていった。
クロコダイルも改めて、策を練り直さねばならない。
ダンスパウダーの新たな手配もしなければならないし、加えて、新たなCP(サイファーポール)に関する情報も集めねばならない。特に新しい長官だ。前職のスパンダインはある意味御しやすい相手だったが……16名しかいない海軍本部中将でありながら、CP長官などどんな奴だ、と思う。
1度、王下七武海の権限を活かして、マリンフォードに会いに行ってみるか、と決める。
書類を片付けながら、先程の事をふと思い出した。
「……そういえば、ニコ・ロビンも今、綺麗な女だったな。頭もいい」
クロコダイルとて、男だ。女に興味がない訳ではないし、抱く事もある。ただ、大抵の相手はそんな気の効いた会話を互いに出来る程の教養はなかった。
だが、生涯に渡ってなどと考えるのはアホらしいが、単純に楽しむだけなら、ああいう女を征服するのも悪くないかもしれん。
ニヤリ、と笑ったその笑みは、明らかに肉食動物が獲物を見つけたかのような笑みだった。
【SIDE:アスラ】
報告書は読んだ。
仕方ないというものの、Mr.2ボン・クレーを逃したのは痛い。
原作で人気のあるキャラクターなのはどうでもいい。今、重要なのは、彼がその悪魔の実の関係上、極力早くしとめる必要のある相手だという事、それだけだ。
「……どうにも、この仕事をしていると、考える事が殺伐としていていかんな」
書類から視線を外して、苦笑する。
その上で、改めて考えてみる。
マネマネの実の能力者であるMr.2ボン・クレーことベンサムは、クマドリとフクロウが判断したように特徴ある姿と容姿だけに泳がせておいて……という手法が使えない。
まだ、CP9クラスなら気配なりで追跡という事が出来るかもしれないが、そんな事が出来るのはごく一部だ。
通常の隊員ではまず不可能だし、気付かれて逆に攻撃を仕掛けるなり撒こうと行動するなりされれば、あっさり倒されるか、撒かれてしまうだろう。
とはいえ、これは彼らが悪い訳ではない。知らなかった以上、仕方がない事だ。
そして、未だボン・クレーの情報が入ってきていない以上、これ以上アスラが直接、誰それの能力がどういう能力か、などと言えない。そもそもクロコダイルが今回の件の黒幕だという事も、相当危険を犯しているのだ。
(Mr.1ならある程度情報が入ってくれば、見当がついたとも言えるんだがな……)
有名な殺し屋なだけに、そういう手も打てる。
まあ、今回はこれで満足するしかあるまい。100点満点ではないが、まず及第点だ。ダンスパウダーを潰し、CP(サイファーポール)が動いている、ただし、ダンスパウダーを追ってのもので、BW(バロックワークス)に感づいたものかは分からない、という状態で、だ。
どうやら、クマドリにせよフクロウにせよ、あそこでMr.2が出てこなければ、メロウにメッセンジャーをやってもらう予定だったらしいが、彼程度の実力で振り切られる、というのは怪しまれる可能性があるので、出てきてくれて助かった、という所か。
「……しかし、今回の件でクロコダイルも警戒はするだろうしな……どういう風に動くか……」
黒幕こそ分かっていても、結局BW(バロックワークス)との戦いは手探り状態が続く。
こちらが優位に立っていると、油断していれば、あっさりひっくり返される危険もある。
これが数年は続くのかと思うと、本当に頭が痛くなりそうだった。
そう思っていると、ドアがノックされる音が響いた。
「入れ」
そう声を掛けると、入ってきた伝令が、センゴク元帥が呼んでいる旨を伝えてきた。
何かしら、今回の件でやばい事でもばれたか、とも思ったが、どうやらアスラだけではなく、大将中将全員召集らしい。センゴク元帥の性格からして、CPの件で何か言ってくるならば、まず警告ぐらいは一対一で言ってくるであろうし……。
はて、一体何事だろうか?
そう思いながら、アスラはただちに向かった。
まさか、向かった先で、ある意味ありがたく、ある意味迷惑な、あんな事が待っているとは考えもしなかった。
次回は、少し陰謀とは無縁のお休み風のお話を…
ずっと駆け引き続きでは、緊張しますしね!
とりあえず、私なりの理由はこうなりました
〜になりたい、と思っても、案外そっから先は考えてないと思うので
まず、成し遂げて、そっからまた改めて、次はこうする、と……
弁護士になりたい!と思って、きちんと計画立てて大学入って、勉強して見事になったとしても、何を得意な分野とするか実際にやってみないと分からない事もあるでしょうからねえ