第64話−休暇そして
さて、センゴク元帥、赤犬大将、おつるさん、アスラ中将。
いずれも責任感のある人達だ。まあ、だからこそ、他と比べて大量の書類を処理するハメに陥った訳だが。
そうした人達が、いざ休暇となったからとて、即放り出して、『後は任せた!』とやれるものだろうか?
当たり前だが、そんな事が出来るくらいなら、ここまで苦労していない。
それに、当面彼らにしか処理出来ないような案件だって、多数ある。という訳で、一時的に担当となる中将に引継ぎを行い、副司令官や副官に後事を頼み、それでも処理出来ない場合の対処を決めた。
この内、一番厄介だったのは、アスラだった。
理由は単純で、実質3つ以上の役職を兼任しているのと同じだったからだ。
後にアスラ自身が回顧録で述べている通り、過渡期における一時的なものではあったからこそだった。
1つは緊急即応部隊。
これは既に何度か語られているが、海賊の襲撃や災害による救助を行なう部隊だ。病院船やレスキュー部隊に相当する部隊を載せたり各種の工作道具を載せたりしている工作船、物資を運ぶ輸送船などで構成される部隊だ。
2つめは護衛艦隊。
前述の部隊は所属している船の種類から想像がつくだろうが、戦闘力には欠ける、というかほぼ皆無だ。せいぜい乗ってる操船の為の海兵らぐらいなので、当然護衛を行なう艦隊が必要になる。これはそうした部隊だ。
ちなみに、この艦隊の旗艦がアスラの正式な旗艦である戦艦『マーキュリー』だったりする。
3つめは造船総監。
これは何故かというと、最初の部隊を構築する際、これまでにない艦種も含まれていた。
結果、最初は相談しながら、造船担当技官らと交渉して、あーでもないこーでもない、と場合によっては、W7のトムやアイスバーグの助言も受けつつ造船を行なっていた訳だが、『それならいっそ、造船の責任者もやった方が手続きが楽だろう』と任された仕事だった。
それなら、艦の設計が終わった後、戻せばよかったのだが、そのまま任されてしまった仕事だった。
4つめはCP長官。
これは完全に世界政府に所属する仕事だ。
なので、普通は海軍の人間が就任する事はないのだが……まあ、諸事情という奴だ。
とにかく、ただ単純に海軍内部の報告書と作戦案を練っている他3人に比べて、ややこしい仕事なのは確かだ。
まあ、あちらはあちらで、世界中の各支部から情報が集まってくるので、量が大変なのだが……。
ちなみに、後の話だが、アスラ以後、上記の4つを兼任する人間は現れなかった。緊急即応部隊と護衛艦隊もそれぞれに責任者たる中将が置かれ、救援活動に入った後は緊急即応部隊担当の中将が、戦闘時は護衛艦隊担当の中将が優先指揮権を得る、という形に変わった。
ただ、アスラの苦労が無駄だった訳ではなく、CP(サイファーポール)から迅速に緊急即応部隊に非常事態の連絡が入るようになったのは、間違いなくアスラの功績だった。
さて、この内、最後のCP長官は他に任せる事は出来ない。
何しろ、これは本来世界政府の文官の仕事だ。海軍本部中将が行なう仕事ではない。ので、これだけは休暇中もアスラが担当しなければならない……が、センゴク元帥が午前中以後は緊急時以外仕事禁止と通達してしまったので、こちらも一時的に各CP1〜8の責任者に任せる形になる。
ただ、他の仕事は大丈夫だろう、と任せ……センゴク元帥も赤犬大将もおつるさんも自分でないと駄目な仕事を片付け、やっと当初予定したとおりの休暇に入った時には当初の会議から二週間以上が過ぎていた。
「ふう……」
午前中に、書類を片付け、午前11時には帰宅。
……何時以来だろうか、とアスラは遠い目をした。最近はずっと午前様だったからだ……といっても、夜が更けて日が変わっての午前だった訳だが……。
既に休暇に入って4日目。
一日目は落ち着かなかったが、疲れているだろうから、とハンコックが気を使ってゆっくりさせてもらった。
翌日は家族サービスでお店を回った。
ハンコックや娘の服、息子の服や子供の為の玩具を買ったり……まあ、役職が増えれば、給与も増える。
酒や煙草に使うアスラでもない為、金ばかり溜まっていたりする。
まあ、何か趣味を探したらどうだ、とは言われているのだが……。
さて、ワーカホリック化していただけに、3日目からはする事がなくなってしまった。
子供の相手をしたり、家の庭の手入れをしたり……まあ、してみたのだが。
何しろ、木の上を刈るにした所で、当人は縁側に座ったまま、カットする事が可能だ。予想以上に早く終わってしまった。
「……暇だ」
掃除なんかの手伝いもしてみたし、別に問題もなかったのだが、ハンコックはきちんと掃除整頓をしてるものだから、すぐ終わってしまった……。
で、当人はというと、子供を連れて、ご飯の買い物に出かけた。
エースとサボとルフィは本日も海軍の訓練所で鍛錬の真っ最中。
アリスは、ハンコックらについてった。
……お陰で、今家にはアスラしかいない。
「……センゴク元帥らも同じようになってるのかなあ……」
ちなみに、センゴク元帥は家で奥さんとノンビリしたり、アスラの元の世界で言う所の詰め将棋をやったりしていた。
赤犬大将は、特に何をするでもなく、のんびりとしていた分、アスラと同じような事を呟いていた。
おつるさんも、既に旦那と死に別れていたが、そこは女性の強さという事か、盆栽を手入れしたり、あれこれと少なくとも時間のつぶし方に四苦八苦している事はなかった。
まあ、そんな風に彼らがゆったりしていた時、他の大将や中将達は大騒動になっていた訳だが……。
と、そんな時、呼び鈴が鳴った。
はて、誰か尋ねてきたのか、案外サカズキ大将あたりが暇をもてあまして、やって来たのだろうか?
……そう思っていただけに、玄関で出会った相手の顔は予想外だった。
「よう、あんたに会うのは初めてだな。上がらせてもらっていいか?」
「……構わんよ、ただ、葉巻は遠慮してもらいたいね。今出かけてはいるが、小さい子供がいるんでね」
そうかい、と笑って葉巻を玄関に置いてある灰皿(吸う人がいるんだ)に押し付けて、入ってきた。
……まさか、こうして出会うとはね。サー・クロコダイル。
何時か出会う事は予想していたが、その時は戦場かとも思ってたんだが……。