第65話−会談
マリンフォードに来る事はそんなに難しい事じゃねえ。
俺達、王下七武海にはマリンフォードの永久指針(エターナルポース)が与えられている。当然だな、なけりゃ緊急招集がかかっても、俺達は1つ1つ島を渡っていかないといけねえ。
まあ、無論、連絡はした。
ちとマリンフォードまで行きたいってな。センゴクの奴は渋い表情をしていたが、俺達はマリンフォードを訪れる権利がある。
理由を聞かれたが、とりあえず別に理由を言う必要はなかったからな、適当にはぐらかした。
まあ、お陰でかなり渋い表情をされたが、こっちとしては奇襲を仕掛けた方が、相手の本音を引き出すにはやりやすいからな、それに向こうとしても、こっちが行きたいって言ってるのに断る理由はないからな……。
ま、海賊がマリンフォードをうろつくのが気に入らんのは分かるが。
『いいだろう、だが、騒ぎを起こす事は些細なトラブルを含めて許さんぞ』
「当たり前だ、マリンフォードで騒動起こす程馬鹿じゃねえよ」
最終的に、そんな会話が交わされて、了解は得られた。
さて、そうやって許可を取って、マリンフォードへやって来た訳だが、生憎アスラ中将って奴はいなかった。
さぼってでもいやがるのかと思ったが、港で出迎えた奴に聞いてみりゃ、逆らしい。あんまりに仕事漬けになってるもんだから、強制的にお休みになったらしい。成る程、そういう性格の奴か……。
まあ、とりあえず家へと案内してもらった。何しろ、俺が今回マリンフォードに来たのは、アスラ中将に会う為、だからな。別に嘘じゃねえ訳だし、な。
途中で、拳骨のガープが、他の中将、オニグモとモモンガに追いかけられてたのを見かけたが……何だったんだろうな?
さて、そうやって着いた家にいた奴は、ガープらと違って細身の奴だった。
別に細身が悪い訳じゃねえ。黄猿大将なんかもそうだしな……だが、奴が弱弱しいなんぞと抜かす馬鹿はいねえだろう。海軍本部中将をひ弱なんて判断する奴は酷い目を見るのがオチだな。
「よう、あんたに会うのは初めてだな。上がらせてもらっていいか?」
「……構わんよ、ただ、葉巻は遠慮してもらいたいね。今出かけてはいるが、小さい子供がいるんでね」
了解了解。
それじゃ、上がらせてもらうとするか。
さて、こいつがアスラ中将。
ざっと集めてみた情報を確認する限りでは、なかなかに非常識な立場にある奴だった。
艦隊指揮官なのはいい。どうせどの中将も多かれ少なかれ、そういう立場を持ってるもんだ。
だが、そこからが普通じゃなかった。造船総監にCP長官。普通は若造が兼任するような役職じゃねえ。
……もっとも、こいつの場合は別の意味合いもあるようだな。要は海軍の次世代を担う奴、って事だ。当たり前だが、普通は海軍で若くして中将なんて階級にはあがれねえ。
仏のセンゴクや英雄ガープを筆頭に、多少それより若いとはいえ、十年もすればご老人って奴が大勢いる。しょうがねえ話だ。俺ら海賊と異なり、海軍という組織の中じゃあ実力だけ示せばいいってもんじゃねえ。
海軍に入り、実力を示し、実績を積み、その上で1つ1つ階段を昇っていく。当然、それには時間がかかるし、比較的若いモモンガ中将でも50前だ。
そんな中、唯一と言っていい、30代の本部中将。そりゃあ、期待も高まるだろう。現状の海軍は下手すりゃ、センゴクの引退の後釜がいねえ。今の大将連中だけじゃなく、中将連中も大半がセンゴクの引退と自分の引退に大きな差がないような連中だ。
だから、連中は期待してる、って訳だ。
次の次か?そこらあたりの世代でトップになる事を期待されてるから、今の内に経験をとばかりにあれこれとやらされてる訳だ。ま、今回はそれが行き過ぎって事でストップがかかった辺りかね。
「土産だ」
用意してきた酒をドン、と卓上に置く。向こうはチラリと視線を向けると、適当につまみを用意していた。
「……それで、何の用だ?」
「つれないねえ。海軍と海賊とはいえ、こっちは王下七武海って事で、お前らと仕事が重なる事もあるんだ。挨拶に来て、何か問題でもあるのかい?」
封をきった酒を注ぎながら、互いに会話を交わす。
……微妙だな。いや、酒じゃねえ。目の前のこの中将殿だ。
緊張しているようにも見える、だが、リラックスしているようにも見える。策を巡らしているようにも見えるし、何も考えていないように見える。……確か、アスラ中将は世界政府の外交官でもあったな。七面倒くさい王族貴族どもと渡り合うだけの腹と頭は持っているって事か。実力は……弱けりゃこっちは楽だが、そんな奴が本部中将にこの年でなれる訳がないな。
ただ、1つだけ確信出来る事がある。
それは、奴もまた俺を観察している、って事だ。さて、それじゃしばらく会話を楽しむとするかな。
「俺は最近は、アラバスタ王国に居を構えてるんだがな、なんか王国に困った事でもあるかい?CP長官殿」
「さすがに耳が早いな……しかし、おかしな事を聞くな。海賊のお前が王国の事を心配するなど」
「そりゃあ、気になるさ。今の俺は世界政府の直属の王下七武海、民衆の味方だぜ?」
「ああ、そうだったな。なに、今の所特に困った問題などないさ。平和なものだ」
まずは互いに小手調べ。
どうせ、互いに思ってる事は同じだろう。ぬけぬけと面の皮の厚い野郎だ、ってな。
こいつがCP長官である以上、先だってのアラバスタ王国の事など先刻承知だろう。無論、知らない、下の連中が勝手に動いてるって可能性がない訳じゃねえが、そういう馬鹿じゃねえだろう?ええ?
「そいつは良かった。何しろ、先だって港で火事があってなあ?そこで怪しい姿を見かけたって話があったんだ」
「ほう、そいつは初耳だな。さすがに、各国ごとの細かな件に関しては目が行き届かなくてな」
「そうかい、でまあ、その怪しい姿って奴が俺が調べた限りじゃ、CPのメンバーって話があってな?本当の所はどうなんだい?」
「ほう、そんな噂があるのか。生憎、うちはあくまで世界政府の下っ端だからな……各国で騒動起こすような真似はしてないさ」
敢えて直球で切り込んでみたが、本当に驚いてるように見える。
いいねえ、こういう腹芸が出来る奴は好きだぜ。
まあ、こっちはこっちで、『知ってるぜ』って告げて、牽制する事が目的だ。何故知ってるのか、Mr.2が俺と繋がってる事がばれる危険がないかって?ないねえ、最初から知ってるのでもない限り、せいぜいMr.2から情報が流れたと思う程度だろう。
そう、問題は『最初から』知ってるかどうか、だ。
こいつが知ってるのが、ダンスパウダーの一件だけならまだ何とでもなる。だが、それにしては先だってのMr.2と真っ向やりあった奴が気になる。俺の勘がビリビリと危険を訴えてきやがるんだ。そして、こんな時、勘を無視したらろくな事にならねえ。
しばらくなごやかな(に見える)雑談が続く。
「ま、CPメンバーってのは噂だがな」
「そうだろうな、こちらは誰も動かしていないというのに……」
ぬけぬけと語ってくれやがる……。
「そういやオカマがやりあった、アラバスタ周辺担当のCP2って今度の組織改訂でどうなるんだ?自分の住んでる周辺がどうなるか気になるんだが」
「その辺は企業秘密だ」
「まあ、そりゃそうだろうがな」
全く顔に動揺も何も出さない野郎だ。おっと、酒も気付けば、もう残り少ねえな。向こうも気付いたか。
「代わりを出そうか?」
「いや、ちょうどいいから、これで失礼するさ。こっちも案外忙しくてな?」
断って、立ち上がる。まあ、あちらさんも社交辞令って奴だろうな。それなりに強い酒を持って来たつもりだったが、酔った様子はねえな……。
向こうも立ち上がった所で、一言。
「ところで……」
「うん?」
「おたく、ジンベエやミホークと手合わせしてるそうじゃないか。俺ともお願い出来るかい?」
「ふむ……」
互いにニヤリと笑いあう。
ああ、そうだな。俺達海賊とお前ら海軍は、本来こんな関係が似つかわしい。
「いいだろう、暇をもてあましていた所だ」
さて、目的は果たした。
気付いてるのか、気付いてねえのか……少なくとも、CPがこいつの命で動いてるのは確信出来た。くくっ、酒が入って気が緩んだか、それとも故意か……こちらへの警告って可能性もあるな。
とりあえず、軽くこいつの力って奴を見せてもらうとするか。