第71話−海楼石
さて、今日は少し海楼石について語ろうと思う。
何故、この石の事を言い出すのか、と言えば、先だってのバスターコールが原因だ。
あの事件は現段階でも、クロコダイルが関与したという明確な証拠が掴めてはいない。
あの事件の経緯はこうだ。
CP9、それも上手く内部に潜入したカクからブルーノを通じて連絡が入った。
『新たに入手された正体不明の情報が奪われたらしい』
首を傾げつつも、この奪われた情報を追跡した所、例の反世界政府組織へと繋がり、彼らがその入手した情報を元に、危険な兵器を世界政府に対抗する為に開発中、という所まで順当に掴んだ。
更に、深く探る内に、その兵器が歴史の本文(ポーネグリフ)に基づくものである事も判明し、さすがに捨て置く訳にはいかないと世界政府に報告する事になってしまった。
が、ここで首を傾げてしまった。
クロコダイルは何故、情報を奪われながら、それを取り戻す手筈をつけなかったのか?
あの馬鹿にされたら、相手を確実に殺す性格の男が、今回の件に関しては一切追撃の手を出した様子はない。こんな時こそ、殺し屋であるMr.1の出番だろうに……。
更に、歴史の本文(ポーネグリフ)の情報。
……誰が翻訳したのか?
あれは世界全体を探しても、解読が可能な人間は少ない。それなのに、反世界政府組織は情報を入手するなり、兵器の製造を開始した。つまり連中が手に入れた時点で解読が終わっていた事を意味している……あの杜撰な組織に、歴史の本文(ポーネグリフ)の古代文字を解読出来る人材がいない事は判明済だ。
その他諸々を全部合わせ、アスラは『クロコダイルが裏で手を回している』と判断せざるをえなかった訳だが……。
カクでさえ、『正体不明の情報』までしか分からなかった。つまり、現段階で確定可能な最高のものがコレだ。これで、しかも未だ『これぞ』という証拠を掴んだ悪事を行なっていないクロコダイルを追求するのは無理がある。
(ロビンは余りに杜撰な内容だから、危険性を示す為に解読したのかね……)
全ては灰となってしまったから、その情報がどれだけ杜撰だったのかは最早知る由もないが、そのまま翻訳した所で危険すぎて使い物にならないと判断した、という事だろうか。それなら、生兵法で解読して大事件になるよりは……ニコ・ロビンの考えはそんな所か、とこればかりは推測するしかない。
さて、話を戻すが、クロコダイルは自然系悪魔の実、スナスナの実の能力者だ。
そして、一方現段階でこちらのCP9は悪魔の実の能力者は獣人系が2名と超人系が1名。
如何にスナスナの実が液体に弱いとわかっていても、厳しい。
そこで、アスラは、クロコダイルに問答無用でダメージを与えられる武器を確保しようと……とはいえ、覇気なんて教えたから覚えられるものでもないし、今からではルッチらもアスラも厳しい。
そこで代わりに選んだのが、海楼石で武器が作れないか、という事だった。
海楼石。
海の化石とも呼ばれる、原作でもよく訳の分からんかった石だ。
その性質は悪魔の実の能力者の能力を封じる力を持ち、力ずくで壊せないというかダイヤモンドより硬く、その癖手錠やら建物やらの建築素材にも使われるなど加工しやすい(?)という何とも矛盾した代物だ。
こんなアイテムなのに、武器として使用される光景はろくに見た覚えがない。
当初こそ、スモーカーが能力者を捕らえる網や、自身の十手などに組み込んでいたが……かの白ひげとの戦争でさえ、海楼石の出番は一番隊隊長マルコの手に、オニグモ中将が嵌めた手錠だけだった。
だが、クロコダイルと戦う可能性があるなら、海楼石製の武器があれば非常に有効だ……と思って、アスラは海楼石の武器を探してみたのだが……調べれば調べる程。
「……武器に使われてない筈だよ」
そうぼやかざるをえなかった。
海楼石の武器が必要な程の相手は限られてくる。
超人系は基本不要だ。
ゴムならば斬撃主体で戦えばいい、バラバラになるなら打撃で戦えばいい。
白ひげの例だと、グラグラの実は確かに広域破壊の能力を持つ悪魔の実だったが、白ひげ自身への攻撃は普通の武器で十分通っていた。スクアードの一撃然り、最後の最後、黒ひげとその配下による一斉攻撃然り、だ。
獣人系も、その基本は言うに及ばず。
どちらも例えば、アスラ自身のメタメタの実モデル:水銀のような、白ひげ海賊団一番隊隊長マルコの獣人系幻想種トリトリの実モデル:不死鳥のような例外はあるが……。
となると、海楼石の武器が必要なのは基本自然系(ロギア)だ。
さて、ここで問題となるのが……自然系の属している組織だ。
原作に出てきた自然系の悪魔の実の能力者は……。
煙:スモーカー、火:エース、雷:エネル、砂:クロコダイル、氷:青キジ、光:黄猿、マグマ:赤犬、闇:黒ひげの全部で8種類が確定している。ドラゴンが何とも風くさいが、確定している訳ではないので、ひとまず置いておく。
さて、この上で見た時、気付く事はないだろうか?
現段階で、『火』と『闇』はまだ能力者そのものが出てきていない。
『雷』は空島なので、青海には全く関与していないし、知られてもいない。
『砂』は現段階では王下七武海。
残る『煙』『氷』『光』『マグマ』は全て海軍所属。
あれ?と思った人は正しい。
そう、現段階では、はっきり存在している自然系悪魔の実の能力者は、全て世界政府の側なのである。
原作の段階でも、はっきりとした敵側の自然系は『火』のみだった。そして、あの時、世界政府側には能力で上位にある『マグマ』が既にいた。
……こんな状況下で、自然系(ロギア)に有効な海楼石製の武器を量産しようとするだろうか?
いや、する訳がない。というか、表立ってする奴がいたら、海賊と結びついてるんじゃないかと疑う。下手に作った海楼石製の銃弾一発で海軍最高戦力が亡き者にされでもしたら、もう泣くしかない。
「……ルッチらの為に製作するにしても……」
その為には、何に使うのか、海軍上層部と世界政府を納得させる必要がある。
現段階では十分な証拠の揃っていないクロコダイルの危険性を説明し、説得を成功させ、クロコダイルという所詮はたった1人の自然系悪魔の実の能力者の為に、下手すれば海軍大将すら危険に晒される海楼石製武器の複数生産を承認させる……。
「……無理だな」
それをやるぐらいなら、白ひげ戦でやったように、海楼石製の手錠を貸し与える方がよほど認められる可能性が高い。
そこまで考えてやっと、『ああ、だからあの時、オニグモ中将、海楼石の手錠を使ってたのか』と納得した。
そう考えると、スモーカーの十手や網は、おそらく試作品だったのだろうか、と思った。……あれらの性質からして、悪魔の実の能力者も取り押さえられるように、と作られたはいいが、すぐ危険性に気付いて、量産される事なく終わったのがどういう伝手を使ったか、スモーカーに流れた、という所だろうか?
「……どちらにせよ、海楼石を使う案は使えないな。何か別の方法を考えるしかないか」
ふう、と溜息をついて、アスラは休憩中の考え事をやめ、仕事へと戻った。
……如何に役職が減ったとはいえ、まだまだ仕事はあるのだからして。