第74話−出航予定
「来年?」
原作開始を四年後に控え、しかし、まあ原作通りなんてもう欠片も進まんだろうな、という思いの元、今日はアスラは家族で食事をしていた。
以前の役職だけで4職という状況が半減した事から、それ以前の量の仕事に慣れていたアスラは割と余裕が出来ていた。
お陰で、こうして晩御飯を家族と共に取る事も出来る。そんな中、エースとサボが来年いよいよ航海に出る、と宣言したのだった。
「ほう、そうか!しかし、エース、お前海軍に入ればええもんを」
「そうじゃのう。お前さんじゃったら、はなっからそれなりの役職に就けるっちゅうもんじゃろうに」
……家族?
いや、ガープ中将とサカズキ大将が当たり前のように食卓にいて、メシを喰らっているのはまあいいとしておこう。誰も違和感感じていないし。
そう思い、アスラは2人がいる事に関しては考える事を止めた。
「そうだぜーエースもサボも一緒に海軍に入ろうぜ」
ルフィが文句を言っている。
実は、エースとサボが来年出航する、と宣言した事から対抗意識を燃やしたのか、ルフィも『じゃあ、俺も来年海軍に正式に入る!』と言い出したのだ。
そして、海兵としてならば、14歳であっても問題はない。
何しろ、周囲には経験豊富な大人が大勢いる。
子供にした所で、見習いや従卒といった形でもっと小さい頃から海軍に関わっている者もいる。まあ、さすがにそこまで小さい子供らがいるのは、孤児対策としての面もある訳だが……。
そして、ルフィはもっと幼い頃から海兵の訓練施設で鍛錬を大人に混じって続けてきた。
ゴムゴムの実を食ったゴム人間になってからは、同じ能力者である中佐大佐場合によってはそれ以上が(具体的には中将大将が)混じって、色々とコツを教えてきた。誰しも、最初から能力を上手く使いこなせた訳ではない。
結果として、初期こそ上手く能力を扱えず、ルフィは地面にパンチを打ちつけたりしていたが、現在では様々な派生技をも併せ持ち、大佐クラスとでも真っ向やり合うだけの力を持っている。英雄ガープの孫、という事もあり、海軍でも期待されていた。
……もっとも、センゴク元帥などはどう見ても、小さなガープとでも呼ぶべきルフィの姿に少々不安を抱えていたのも事実だったりする訳だが……。
まあ、ルフィからすれば、これまでずっと一緒に頑張ってきた、目標としてきた相手が突然いなくなってしまう、その事を寂しく感じていた。
当然といえば、当然だが。
「悪い、ルフィ。それも考えたんだが、俺はやっぱり世界を回ってみたいんだ。海軍とか海賊とかそういう視点抜きでさ」
「ま、折角だし、エース1人で行かせるのも不安だしな。俺も付き合うつもりなんだ。それに、俺も世界を見て回りたいってのは同じだし」
が、それぞれにエースもサボもそれを断った。
それを聞いて、ルフィ自身は残念そうに、けれど、『なら、俺も』とルフィが言わないだけ、成長したとも言える。
「ふむ……」
アスラからすれば、もうそんな時期か……と思う。
何時かは原作同様エースが旅立つだろう、とは思っていた。
以前の晩以来、エースは少し吹っ切れた。
海賊王ゴールド・ロジャーの息子、その事を吹聴しない限り、普通に海軍に入る道もある、と実感出来た事もあるし、アスラにせよガープにせよ、エースの素性を知りながら、これまで知らん振りをして、エースがどの道を選ぶか見守っていてくれた、という事もある。
まあ、エースがどの道を選ぶにせよ、今しばらくは見守ってやりたい所だったが……。
「いいだろう、なら祝いだ。その時は2人で使える船を一隻プレゼントしてやろう」
どうせ、自分もハンコックも無駄に贅沢する性質ではない。というか、未だ周囲の人間曰く『あいつらはお互いがいれば、それで幸せなのは変わっておらん』、な状態なので、余計な事に使う必要がない、とも言う。
そして、アスラは高給取りだ。
役職がつくと、大変な分給与は増える。ただでさえ、中将という階級は責任は重いし、最前線で命を張るが、その分基本となる給与は高いのに、そこに上乗せされた役職分で一時は凄い事になっていた。その頃に比べれば減ったとはいえ、小型の船を一隻与えるぐらいは何の問題もない。
ハンコックも『そうじゃな、それはいい事だ』と賛成してくれたのだが、その後が別の意味で大変だった。
ガープが『儂も船を贈る!』と言い出したのだ。
当然、エースとサボが『爺!船二隻あったってしょうがないだろ!』と怒鳴る事になり、それを受けて今度はガープがアスラに、譲れ!と言い出して……。
呆れて見ていたサカズキがここでボソリと『アスラが建造しないと言い出したら、それで終わりじゃな』と言ったせいで更にヒートアップする事になった。確かに、造船総監であるアスラが建造許可を出さなければ、ガープが発注した所で成立しない。
まあ、最終的にアスラとガープの喧嘩……になりかけた所で、勢いよく立ち上がったガープが食卓をひっくり返した事で、ハンコックにたたき出された事から、決着はアスラの不戦勝となった……。
さて、その翌日の事。
アスラは電伝虫で連絡を取っていた。
『……ンマー、はい、こちらガレーラカンパニー』
「ああ、アイスバーグさんかい?こんにちわ、アスラです」
『ああ、これはどうも。何か御用ですか?』
アスラは今回、海軍の設備を使うつもりはなかった。
元々、海軍の造船所は大型船を造るのに最適な状態になっているし、今回必要なのは軍艦ではなく、むしろ海賊の船のような単艦で長期間快適に過ごせる類の船だ。
その為に、アスラが選んだのが、ここだった。
「……という訳で、トムさんにお願いしたかったんだが」
『たっはっは!いいじゃろう、そういう事なら引き受けたるぞい』
『……トムさん、そんな簡単に』
『なあに!男が夢を追い求め、航海に出ようというんじゃ!男ならドンと自分の夢に胸を張れ!』
「……その様子だと了承していただけるようですね」
トムの部屋に電伝虫を繋いだ筈が、と思ったが、どうやらアイスバーグがトムの部屋に来ていただけだったらしく、電伝虫からはトムとアイスバーグの声が代わる代わる聞こえてくる。
トムは、現在は少し暇だ。
海列車はその後、エニエスロビーと海軍本部をも繋いだ。
ただ、そこからどこに伸ばすかが大きな問題となっている。
グランドラインの始まり、リヴァースマウンテンからは先へと進むにあたって、7本のルートがあるが、当然ながらその内どれかを選んで海列車を引く事になる。
だが、一旦引いてしまえば、そのルートは比較的安全になり、裏を返せばそここそがグランドラインの新たなメインルートとして沿線は発達する事になる。反面、他の6つのルートは主流から外れるだけでなく、海賊がメインを避けて流れ込む事が予想される為に、うちのルートこそ!と熾烈極まりない駆け引きと脅迫と買収が飛び交っている状態だ。
世界政府としては、下手にこれに巻き込まれたら厄介な事が目に見えているので、この件に関しては、世界会議の各国協議に丸投げした、のだが……お陰で、あっちにふらふら、こっちにふらふらと迷走を続けている有様だ。
そのお陰で、トムは後進を育てるのに専念出来、海列車に関しては数を増やして、本数を増やすぐらいなので、放っておかざるをえなかった研究含めて、結構したい事が出来ているらしい。
エースとサボが利用する事や、どういう用途に使う予定なのか、などを伝えた後、アスラは後は任せる事にした。
こういう事は専門家に任せた方がいい。腕は、オーロジャクソン号を建造したトムだ、海列車を建造した事もあり、腕は世界最高峰の1人と言われている。
(……ある意味贅沢な船だよな)
どのような船が完成するのだろうか。
楽しそうに、ふと口元に笑みが浮かんだ。