第85話−会話の末
「ゾロ?」
サボが記憶を漁る。こうした事にはエースがあてにならないのは長い付き合いで学習済みだ。
「……確か、最近賞金稼ぎで名前が売れ出した奴、だったか?」
「ああ?別にんなつもりはねえんだけどな……なあ」
と、ゾロはある島の名前を上げる。
何でも、その島に帰りたいのだが、なかなか帰れず、その旅費として海賊を狩っていたという事らしい。
そういう事ならば、と島を海図で探すエースとサボ。どうでもいい事だが、この会話と調べ物は全て血塗れの死体が転がる海賊船の甲板で為されている辺り、エースとサボも大分感覚が麻痺している。
「ああ、あった……」
「そうだな、あっちになるな」
そう言って、サボは右を向いた。
「あっちか」
そう言って、ゾロも右を向いた。
互いに向かい合っているので、サボから見ればゾロは左、完全に反対方向を向いている事になる。
「「って反対方向だ、アホンダラ!」」
そう、この後幾度も教え直した結果、彼ら2人は結論を下さざるをえなかった。こいつは救いようのない方向音痴だと。
事実、ゾロの方向音痴は既に病気だ。
何しろ、彼は目の前を飛んでいる相手がついてくるように言っているのに、それに了承しているのに、一本道で、当たり前のようにはぐれる事が出来る程だからだ。
「……分かった、もう一緒に船に乗れ。すぐって訳にはいかないが、お前が彷徨い続けるより早いだろ」
遂に呆れたというか、疲れた様子のエースがそう結論を下した。
「いいのか?悪いな」
((こいつに任せてたら、絶対奇跡でも起きない限り、辿り着けねえだろ))
まあ、無論航海の間は(舵取り以外)はやってもらう予定だ。
ゾロとしても小船よりは、小さいとはいえちゃんとした船で航海出来るのならば、それに越した事はない。エースとサボに航海予定を見せてもらい、一応予定としては2ヶ月後に到達予定なのを確認して、納得したのもある。
とりあえず、彼らはローグタウンへと向かう予定だった。
そうして、その日は近くの島に停泊した。
そして翌朝。
何気なしに、彼らは腕試しの場を砂浜に作っていた。
まあ、あれだ。
彼らなりに、やはり思う所があったからだ。互いに刀を下げる者同士、腕試しをしてみたいとサボもゾロも思ったのも大きい。これが単なる雑魚なら、そんな気も起こらない所だった訳だが。
ちなみに、エースは今回は見学だ。
昨晩試してみた所、彼が食った悪魔の実は自然系、火を象徴するメラメラの実だった。
無論、この事にはエースもサボも喜んだが、同時にエースには不満も生じてしまった。理由は単純、温度が低いのだ。いや、無論、相手を焼き払えるか、という意味では十分高いのだが、何しろエースは幼少時よりサカズキ大将のマグマグの実の力を見てきている。
それに比べるとどうしても……という事で、今はアレコレと温度を上げる事は出来ないかと、力の使い方の試しと共に修練を重ねている所だ。これが終わるまでは下手に手合わせも出来ない。
何しろ、昨晩はつい浮かれて火を出した結果、危うく船に引火しかけた。
とりあえず、ある程度の制御が出来ないと出航も安心して出来ない。今日のこの手合わせは、その時間的余裕という面もあった。
「そんじゃ、やるか」
「ああ」
言いつつ、ふと腰の刀を見てサボが聞く。
「しかし、何で3本も刀を持ってるんだ?」
「……ああ、俺は3刀流だからな」
……一瞬サボは何を聞いたか分からなかった。
3刀流?
複数の刀を持つというのは古来より工夫はされてきたが、ものになった例は殆どない。
理由は単純、両手で握った方が威力が出るからだ。
刀という武器は決して軽いものではない。まあ、それ自体はアスラの元の世界はともかく、筋力が馬鹿げたものに成長するこの世界でならば構わないだろうが、そうなると今度は相手が両手で持つ刀に対して、複数の刀を持つ相手は片手の力で対抗しなければならない。
力と技術双方でもって鍛えねばならないから、数を増やせばいいってものではない。
「……役に立つのか?」
だから、思わず聞いてしまった。
世界最強の大剣豪たる師匠も使う刀は最上大業物「夜」1本だ。
「そいつは……あんた自身の目で確かめな」
両手に数打ちの2本の刀。
更に口に大業物「和道一文字」を咥え、ゾロは立つ。
「……ああ、そうしよう」
言いつつ、サボもまた刀を抜き放つ。その刀を見て、ゾロも『おっ?』と言わんばかりに目を見開く。
「そいつは……」
「黒刀『美髯切長船』だ。お前さんが咥えてるのと同じ大業物だよ」
成る程、とばかりに頷くとゾロは構えを取った。
サボもまた、自然体ながら両手で刀を握る。
「それじゃあ……」
「いざ尋常に……」
「「勝負!」」