第88話−ローグタウン2
似ている。
それがゾロの第一印象だった。単に容姿だけではない、雰囲気から何からそっくりだった。
そう……亡くなった自らの幼馴染くいな、彼女とたしぎと名乗った女性は本人ではないかと思わずゾロが思ってしまった程、瓜二つだった。
「あのっ、それでその刀って……」
思わず考え込んでしまうゾロに、たしぎはキラキラと輝く視線を向けてきた。
ん?とばかりに、顔を上げたゾロに彼女は彼の腰にある刀に熱い視線を注ぎながら言った。
「ああっ、それはやはり大業物21工の一振り!和道一文字!」
「そちらは良業物50工の一角!雪走!」
「って!そちらは業物80工から三代鬼徹!」
さすがにゾロが、いやエースやサボも呆気に取られる程、熱意が篭った声だった。
更に、彼女はサボの腰の刀にも目をやると……。
「うわあ……そちらも大業物21工の一振りですか!美髯切長船ですね!」
「っていうか、拵えを見ただけで分かるのかよ……」
思わずゾロが呟いた。
刀本体を見たのは、先程の……彼女にとっては一瞬だっただろう。
今は4本の刀全てが鞘に入っているが、彼女は見間違えたりはしなかった。その様子に、エースに遊んでもらっていた子供達が口々に、『あ〜たしぎ姉ちゃんの刀好きが始まった〜』と笑いながら言っている。
「はいっ!私、海賊に、犯罪者に奪われた刀を取り戻すのが目標なんです!」
言いつつ、刀剣一覧や刀ガイドブックなどを取り出してみせる。
一発で、3人にもこの女性がどういう趣味なのか理解する効果はあったが。
まあ、しばらく堪能すると我に返ったらしく、慌てて謝っている。
「す、すいません!私、貴重な刀を見るとつい……」
「あ〜いや、気にすんな」
ゾロとしても、幼馴染そっくりな容姿と声の女性にぺこぺこと謝られてはどうにも違和感がある。
結果として、ぶっきらぼうに受け答えする、という事になってしまう。
「ええと……それであの、確認ですが、貴方達は海賊じゃないですよね?」
おそるおそる、という様子で確認するたしぎに、『賞金稼ぎ』という事を伝えると、ほっとした様子だった。
「しっかし……この町、治安悪いよな。海軍は何やってるんだ?」
話が落ち着いたとみて、エースが呟くと、たしぎが唇を噛んで俯いた。
そうして、ぽつぽつと、彼女はこの町の現状を話してゆく。
海軍本部大佐が駐留はしている事、けれど、ヨウゴーク大佐は海賊と結託して私腹を肥やし、金で裁判結果を歪める為、真っ当に働いている人間は苦しんでいる事など、だ。
「もちろん、真面目に頑張ってる海兵さんがいるのも確かです。でも、命令には従わないといけないとかで……」
上は大体そんな感じなのだという。
あくまで、未だ真面目に頑張っているのは下っ端のレベルだという。
そうして、下っ端というものは実力が足りない。応援を呼んでも、応じてくれないので、現在は町の有志と協力して自警団を結成するのが精一杯な状況だという。
「……この状況を変えられるとしたら、海軍のもっと上の……ちゃんと正義を守ってくれるような人に訴えるぐらいしか変える方法が思いつかないけれど……でも、私達じゃ訴える方法がない……っ」
「あ〜……俺もねえなあ」
涙を流して俯くたしぎに、ゾロも困ったように呟く。
一方、エースとサボは互いに顔を見合わせて、言った。
「「あるぞ」」
「そうですよね、やっぱりないですよね……ってあるんですか!?」
「はあっ!?」
ちょっと待ってくれ、とりあえず連絡を取ってみる。
そうエースが断ると懐から取り出した電伝虫で連絡を取り出した。
【SIDE:アスラ】
アスラが部屋を出ようとした時だった。
『ぷるるるる……ぷるるるるる』
電伝虫が声を上げた。
はて、誰だと思いつつ、この電伝虫に直接かけてくるような相手は限られている、と思い直し、通話を取る。
「はい、どなたでしょう?」
『あ、アスラか?俺だよ、エースだ!』
聞こえてきたのは懐かしい声。
ここ最近は聞く事がなかったとはいえ、もう、10年以上も耳にしてきた声だ。聞き間違えるはずもない。
「おお、エースか!久しぶりだな。もう少し連絡を寄越せ。ルフィもナミもエスメラルダもカルラも寂しがっているぞ」
そう言うと、どこか慌てたように言い訳をしている。
とはいえ、何か用事があってかけてきたのだろう。それに俺もこれから会議とあって、早々に話を切り上げ、エースの話を聞く。……どうにも抽象的なので、途中からサボに変わったが。何で、あの一家はガープさん含めて、ああなんだろう……。
話を聞いて、眉をしかめざるをえなかった。
……まさか、ローグタウンが原作と違い、スモーカーがいないだけでそんな事になっているとは……。
そういう事なら、協力したい所だ。海軍本部大佐がそんな事をしているのならば、我々が責任をもって処罰するべき事柄だが……。
「証拠はあるか?」
とはいえ、状況証拠だけで相手を処罰する訳にもいかない。仮にも相手は本部大佐なのだ。幾等中将だからとて……いや、中将だからこそ、公正であらねばならない。息子同然の相手から聞いたというだけで、処罰する訳にはいかない。
そこで、サボが幾つか傍らにいる誰かに確認していたようだが……その上で、作戦を提案してきた。
「ふむ……」
まあ、かなり強引だし、無理を押せば道理が引っ込むような作戦だが、とりあえず法を犯している訳ではない。
「……いいだろう、それに……」
と、アスラもまたこちらの状況を伝え、準備しておく事を伝えた。
……上手くいけば、全部片がつくだろう。