第94話−ローグタウン8
エースは渋い表情で船上からローグタウンを見詰めていた。
サボは舵を取っている為、舵輪の傍にいるが、彼もまたローグタウンに複雑な目を向けていた。
それはゾロも、たしぎも、また同じだった。
別に追い出された訳ではない。
原作のモーガン大佐を倒したルフィらと異なり、今回の一件は海軍最高司令部よりの直接命令に等しい。丁寧な扱いを受け、後任となるヒナ大佐の到着をもって、ローグタウンを離れたのだった。
ヒナ大佐が到着するまでいたのは、それまでの方針とは真逆の方針となる海賊撃退の為だ。
あの時、同じ部屋にいた雑魚海賊は気絶してる所を連行されて、後で密かに処刑されたのだが、彼だけで済むはずがない。何しろ、これまでヨウゴーク大佐は複数の海賊から賄賂を受け取っていたのだから、大佐が死んだのを知らずにのこのこやって来た海賊らを次から次へととっ捕まえていた。
そんな仕事も、ヒナ海軍本部大佐が着任した事で終わった。
ヒナ大佐は後始末の決定も持ってきており、この日をもって正式にヨウゴーク大佐は事故死したと発表された。
ローグタウンの住人らは喜び、次の海軍の人間は大丈夫かと疑いの眼差しを向けたが、何しろヒナ大佐は若くて美人、真面目さが全身から漂っているような人材だ。
自然と、『これなら大丈夫だろう』という空気が醸成されていった。
「……あの大佐さん大丈夫なのかよ?」
ゾロが誰に聞くともなしに尋ねた。
彼らは全員が、結果に何とも言いがたいものを抱えていた。
戦いの結末もそうだし、その後の処理もそうだ。
「「……大丈夫だろ、あの人真面目だし、強いし」」
「知り合いなのか?」
実の所、エースとサボはヒナ大佐とはアスラを通じて縁があった。
元々は、トムさんの件で一時的に部下に入った間柄だったが、その後スモーカーが副官となった事で、エースとサボが時折彼に訓練をつけてもらう機会があった。
見た目によらず面倒見のいい彼だったので、随分とエースとサボも世話になったのだが……。
その際、よく参加したのがヒナ大佐だった。
彼女が恋愛感情かどうかはさておき、スモーカーを意識しているのは確かだったので、内心エースもサボもニヤニヤしながら2人を見ていたものだった。生憎、自分達がいる間に仲が進展する事はなかったのだが。
まあ、そんな縁で、訓練所でも1度ならず相手をしてもらった相手でもあるが故に、エースもサボも心配していなかった。
当時既に能力者だった彼女だが、2人には全く能力を使わず完勝してみせた。
性格は、やるべき事はしっかりやるが、態度は不良っぽいスモーカーに比べて、きっちりとした優等生型。その癖に、スモーカーと未だつきあいがある事から分かるように、案外柔軟な所もある。
「へえ、さすが本部大佐って所か」
ゾロもそうした話を聞いて感心したような声を上げた。
まあ、ヨウゴーク大佐とやり合って、本部大佐という相手がどれ程強いのかは肌身で実感した。
自分とて強くなったつもりだった。
だが、その実はどうか?
同じ剣士であるサボには敗退し、その後エースとも拳と刀で合わせてきたが、未だ勝てない。
けれど、ヨウゴークは自分達3人を同時に相手どってみせた。
そういう意味では、彼女が強い、それには納得が出来た。
知り合いと思われるエースとサボが口を合わせて言っているのだから、きっと真面目に治安を守ってくれる事だろう。さすがに、ヨウゴークの後釜に不真面目なのを送ってくる程海軍は馬鹿ではない、と思いたい所でもある。
とはいえ、それと今回彼女が本部からの決定として行なった発表には不満が残る。
「そうだとしても……海軍がちゃんと本当の事を公表してくれないなんて……」
たしぎが俯きながら呟いた。
そうだなあ……と3人も頷き、ぼんやりと町を眺め……。
「「「って何で当たり前のように乗ってんだよ!?」」」
ようやっと気付いて思わず突っ込んだ。
「ええええっ!?」
「いや、お前本当に何でこの船に乗ってんだよ!?」
驚きの声を上げるたしぎに、ゾロが改めてツッコミを入れる。
その言葉に、たしぎは、改めてアレコレと色々な意味で驚きつつ、語ったのだが、彼女の言い分はこうだ。
元々、以前に語った通り、悪党が所持している名刀を回収しに、海へは出るつもりだったが、生まれ育ったローグタウンがあのような状況では出るに出れなかった。
けれど、それも内容はどうあれケリがついた。
そこでいよいよ海に出ようと思ったのだけれど、海賊は論外だし、かといって海軍に入るのは以前ならともかく、今はどうにも納得がいかない。そこで、賞金稼ぎであるエース達ならどういう人間か分かっているし、という事で出航に合わせて乗り込んだという訳だった。
「それに……」
「それに?」
「乗り込んだ時、何も言われなかったから、OKなんだと思って」
それを言われると、3人も沈黙せざるをえない。
余りに自然に乗り込んできたから、とかは言い訳に過ぎない。結局の所、自分達が気付かずスルーしていた事は事実だし、何が原因かと問われたなら……心のどこかで彼女を仲間と思っていたのだろう。
「……しゃあねえなあ」
エースが頭を掻いた。
サボはにやにやと笑みを浮かべ、ゾロはどう反応したものかと妙な表情になっている。
「分かった、とはいえ、見ての通り船員が少ないからな。お客さん扱いはしないぞ?」
「もちろん!」
こうして、たしぎが仲間に加わった!
「ところで、お前さん航海術とか出来る?」
「……えーと、私がやると何故か変な方向に行ってしまうんですが、それで良ければ……」
最終的に、料理当番になりました。
あと、ゾロと一緒に雑務とか。
まあ、実際に航海してみると分かるのだが、可能ならば夜は島の傍に停泊した方がいい。
夜の海なんて好き好んで航海するものではない。
……だが、まあ、そろそろ舵取りが出来る奴があと1人ぐらい欲しいと思うエースとサボだった。