東の海の革命軍4
【革命前日】
たしぎが、その日夕方早めに赴いた所、騒ぎになっていた。
どうかしたのかと確認した所、革命軍の噂を流し、実は自分達が革命を起こそうとしていた若手将校のグループが、その計画を事前に察知され、逆に上層部の命令によって、その会合の場に突入が行なわれたのだという。
たしぎも、一応警備に当たっている人間だ。
その場にいた他の雇われ警備と共に走り出し、現場に駆けつけたが、どうやら終わった後のようだった。
「う……」
実の所、たしぎが人の死を見た回数はそう多くない、というか皆無に等しい。
確かに乱暴された、怪我をさせられた、という事はローグタウンでは頻繁に起こっていたが、ローグタウン内で騒動起こされると後の書類が面倒とばかりにヨウゴークが睨んでいた為に、案外ローグタウン内部での事件は限られていた。まあ、その分町の外で騒動が起きていた訳だが。
結果として、たしぎも海賊とやりあっても、命を奪うまでの戦いは殆ど経験がなかった。
それだけに反乱を起こそうとした将校らの死体が乱暴に運び出されて行くのを見ると、引いてしまったのだ。
とはいえ、既に終わった事だ。
何かしら違和感を感じたが、その時は分からなかった為に、立ち去り……後になってふと思い出した。
(……そういえば、何故あの死んだ人達って笑ってたんだろう……)
ふと思い出した違和感の正体。
あの将校達の口元に浮かんでいたのは悔しさでも、苦痛でもなく……笑みだった。
【革命前日某所】
「……彼らは?」
「……全員亡くなりました」
「そうか……」
「覚悟の上です。警戒が緩まない連中を油断させる為の囮となる事を全員が志願して行なった事です」
「……そうだな、彼らの遺志を継がねば。そういえば、例の件はどうなった?」
「国に雇われなかった賞金稼ぎ達ですね?大部分は、仕事があるから、というのが理由だったようですが……先だってはヒヤリとしました」
「ほう?」
「いきなりでしたからね。『後ろにいる奴出て来い』と……エースと名乗った賞金稼ぎですが、まあ、お願いをした上で、どんな人間か分らなかったから、後をつけてしまった、申し訳ないです、と謝ったら、特に何も」
「ふむ……まだ、見込みはある、か?」
「分りません。少なくとも勧誘はまだ時期尚早かと……とりあえず、町にいる間だけでも構わないのでという条件で子供達が巻き込まれたら助けてもらえないだろうか、というお願いに了承を返してくれた所を見ると、悪い人間ではないようではありますが……」
「……善人が我々に味方してくれるとは限らんからな……まあ、いい。彼らが命を賭けて用意してくれた舞台だ。皆に改めて気を引き締めるよう伝えてくれ」
「はい」
【革命当日】
その日が雇われ警備の最後の日だった。
革命軍がやって来る、そういう噂が流れたが故の警備の増強だったから契約も、それが噂と確認された場合か、革命軍を撃退した場合は契約終了と明記されていたし、元々日給だ。一日辺りの給金が良かった事もあり、何も危険な事をしないで稼げた額としては悪くない、と小金を稼げた事を喜ぶ者が大多数だった。
まあ、戦闘なしで終わってしまった事を残念がる者もまたいたのだが、そういう人間も戦闘手当てを稼ぎ損ねた、といった風情であり、精々が『儲け損ねたぜ』と笑っているぐらいだった。
それでも、ねぎらいと称して、簡単ながら酒も食い物も出た。
貴族が食う物らしく、簡単といえど味が良かったので、皆喜んで口にしていたが……たしぎだけは、どうも周囲の雰囲気になじめず、見回りと称して外へ出た。
「ふう……」
結局、革命軍という話は偽りだったのか、そう思うとどこか残念ではある。
彼女の場合は、革命軍という存在自体に興味があったからだ。
何故、平和な国に乱を起こすのか、聞いてみたかった。
(きっと自分達が国を支配したいとか、そういう理由なんでしょうけれど)
そう思いつつ、歩いていると、ふと兵士の姿が見えた。
そういえば、とふと思う。
昨日の捕り物のお陰で、兵士達にも褒美の酒が振舞われていると聞いている。
『今日の見回りの連中は運が悪いよな』
そう兵士達や将校も笑っていたのを思い出した。
そうすると、彼らは酒にありつけなかった面々なのだろうが……彼女はここで再び違和感を感じた。
何故だろう?
そう思った時、彼らの表情にあるのだと気がついた。
当たり前だが、堂々と仕事中に酒が呑め、美味い物を食える時に自分達は仕事をしなければならない、そうなれば普通はくさる。真面目な人間だって1人や2人いて、彼らは真剣だとしても、人が複数集まれば全員が仕事に真剣で真面目である事などありえない。
だが、今の集団はいずれも真剣な表情だった。
何故だろうか……ふと気になり、たしぎは、彼らの後を密かにつけた。
彼女が尾行している事など気付いていないのだろう。
1人の将校に率いられた兵士の集団はやがて門の1つに辿り着いた。
この都市は、外周部に海賊や山賊の襲撃を防ぐ壁が、庶民と貴族を隔てる所にまた別の壁が、更に王宮にもう1つ壁が、という構成になっており、夜になるとそれぞれの門は閉じられ、朝まで開く事はない。
と、下の将校が手に持った明かりを動かした。
シャッターを使って、長く3回、短く4回。
少し離れて見ていた、たしぎは気付いたが、そうすると城壁の上からも同じように光が点滅した。
それを確認すると、将校と兵士達は門の詰め所へと入って行く。
更に、城壁の上で明かりが瞬く。
短く3回、しばらく間を置いて、更に3回。首を巡らすと、離れた所からも同じく明かりが輝いている。
(……あれ?光っている辺りってどれも門がある辺りじゃ……)
城壁の上に見えていた影はそれを確認するなり、城壁から下へと降りる塔の中へと入っていく。
そして……。
(……え?)
間もなく、城門が開いていくのが、たしぎには見えた。
(ど、どういう事?確か門は朝まで開けないって……)
だが、そんな事を考えていられたのもそこまでだった。
武装した集団が次々と門から入ってきたからだ。
彼らは、門を開けたと思われる兵士らと頷き合っている。
(まさか……本当の革命軍が、来た!?)
急ぎ、たしぎは胸元のホイッスルに手を伸ばしかけて……今日で終わりだからと装備品を返却した後であった事に気がついた。
こうなれば仕方ないと、気付かれないように警備詰め所に戻った彼女は、だが酒か食い物に仕込まれていたのであろう、痺れ薬によって動けなくなっている男達を見つける事になる。
そして、革命の夜が幕を開ける。
【革命前日】
たしぎが、その日夕方早めに赴いた所、騒ぎになっていた。
どうかしたのかと確認した所、革命軍の噂を流し、実は自分達が革命を起こそうとしていた若手将校のグループが、その計画を事前に察知され、逆に上層部の命令によって、その会合の場に突入が行なわれたのだという。
たしぎも、一応警備に当たっている人間だ。
その場にいた他の雇われ警備と共に走り出し、現場に駆けつけたが、どうやら終わった後のようだった。
「う……」
実の所、たしぎが人の死を見た回数はそう多くない、というか皆無に等しい。
確かに乱暴された、怪我をさせられた、という事はローグタウンでは頻繁に起こっていたが、ローグタウン内で騒動起こされると後の書類が面倒とばかりにヨウゴークが睨んでいた為に、案外ローグタウン内部での事件は限られていた。まあ、その分町の外で騒動が起きていた訳だが。
結果として、たしぎも海賊とやりあっても、命を奪うまでの戦いは殆ど経験がなかった。
それだけに反乱を起こそうとした将校らの死体が乱暴に運び出されて行くのを見ると、引いてしまったのだ。
とはいえ、既に終わった事だ。
何かしら違和感を感じたが、その時は分からなかった為に、立ち去り……後になってふと思い出した。
(……そういえば、何故あの死んだ人達って笑ってたんだろう……)
ふと思い出した違和感の正体。
あの将校達の口元に浮かんでいたのは悔しさでも、苦痛でもなく……笑みだった。
【革命前日某所】
「……彼らは?」
「……全員亡くなりました」
「そうか……」
「覚悟の上です。警戒が緩まない連中を油断させる為の囮となる事を全員が志願して行なった事です」
「……そうだな、彼らの遺志を継がねば。そういえば、例の件はどうなった?」
「国に雇われなかった賞金稼ぎ達ですね?大部分は、仕事があるから、というのが理由だったようですが……先だってはヒヤリとしました」
「ほう?」
「いきなりでしたからね。『後ろにいる奴出て来い』と……エースと名乗った賞金稼ぎですが、まあ、お願いをした上で、どんな人間か分らなかったから、後をつけてしまった、申し訳ないです、と謝ったら、特に何も」
「ふむ……まだ、見込みはある、か?」
「分りません。少なくとも勧誘はまだ時期尚早かと……とりあえず、町にいる間だけでも構わないのでという条件で子供達が巻き込まれたら助けてもらえないだろうか、というお願いに了承を返してくれた所を見ると、悪い人間ではないようではありますが……」
「……善人が我々に味方してくれるとは限らんからな……まあ、いい。彼らが命を賭けて用意してくれた舞台だ。皆に改めて気を引き締めるよう伝えてくれ」
「はい」
【革命当日】
その日が雇われ警備の最後の日だった。
革命軍がやって来る、そういう噂が流れたが故の警備の増強だったから契約も、それが噂と確認された場合か、革命軍を撃退した場合は契約終了と明記されていたし、元々日給だ。一日辺りの給金が良かった事もあり、何も危険な事をしないで稼げた額としては悪くない、と小金を稼げた事を喜ぶ者が大多数だった。
まあ、戦闘なしで終わってしまった事を残念がる者もまたいたのだが、そういう人間も戦闘手当てを稼ぎ損ねた、といった風情であり、精々が『儲け損ねたぜ』と笑っているぐらいだった。
それでも、ねぎらいと称して、簡単ながら酒も食い物も出た。
貴族が食う物らしく、簡単といえど味が良かったので、皆喜んで口にしていたが……たしぎだけは、どうも周囲の雰囲気になじめず、見回りと称して外へ出た。
「ふう……」
結局、革命軍という話は偽りだったのか、そう思うとどこか残念ではある。
彼女の場合は、革命軍という存在自体に興味があったからだ。
何故、平和な国に乱を起こすのか、聞いてみたかった。
(きっと自分達が国を支配したいとか、そういう理由なんでしょうけれど)
そう思いつつ、歩いていると、ふと兵士の姿が見えた。
そういえば、とふと思う。
昨日の捕り物のお陰で、兵士達にも褒美の酒が振舞われていると聞いている。
『今日の見回りの連中は運が悪いよな』
そう兵士達や将校も笑っていたのを思い出した。
そうすると、彼らは酒にありつけなかった面々なのだろうが……彼女はここで再び違和感を感じた。
何故だろう?
そう思った時、彼らの表情にあるのだと気がついた。
当たり前だが、堂々と仕事中に酒が呑め、美味い物を食える時に自分達は仕事をしなければならない、そうなれば普通はくさる。真面目な人間だって1人や2人いて、彼らは真剣だとしても、人が複数集まれば全員が仕事に真剣で真面目である事などありえない。
だが、今の集団はいずれも真剣な表情だった。
何故だろうか……ふと気になり、たしぎは、彼らの後を密かにつけた。
彼女が尾行している事など気付いていないのだろう。
1人の将校に率いられた兵士の集団はやがて門の1つに辿り着いた。
この都市は、外周部に海賊や山賊の襲撃を防ぐ壁が、庶民と貴族を隔てる所にまた別の壁が、更に王宮にもう1つ壁が、という構成になっており、夜になるとそれぞれの門は閉じられ、朝まで開く事はない。
と、下の将校が手に持った明かりを動かした。
シャッターを使って、長く3回、短く4回。
少し離れて見ていた、たしぎは気付いたが、そうすると城壁の上からも同じように光が点滅した。
それを確認すると、将校と兵士達は門の詰め所へと入って行く。
更に、城壁の上で明かりが瞬く。
短く3回、しばらく間を置いて、更に3回。首を巡らすと、離れた所からも同じく明かりが輝いている。
(……あれ?光っている辺りってどれも門がある辺りじゃ……)
城壁の上に見えていた影はそれを確認するなり、城壁から下へと降りる塔の中へと入っていく。
そして……。
(……え?)
間もなく、城門が開いていくのが、たしぎには見えた。
(ど、どういう事?確か門は朝まで開けないって……)
だが、そんな事を考えていられたのもそこまでだった。
武装した集団が次々と門から入ってきたからだ。
彼らは、門を開けたと思われる兵士らと頷き合っている。
(まさか……本当の革命軍が、来た!?)
急ぎ、たしぎは胸元のホイッスルに手を伸ばしかけて……今日で終わりだからと装備品を返却した後であった事に気がついた。
こうなれば仕方ないと、気付かれないように警備詰め所に戻った彼女は、だが酒か食い物に仕込まれていたのであろう、痺れ薬によって動けなくなっている男達を見つける事になる。
そして、革命の夜が幕を開ける。