第十三歩
side はやて
私は現在なのはちゃんとの合流を待ちながらこれまでの流れについて考えていた。
最初は面白半分だった。
なのはちゃんを恐れるような眼で見る。
これを聞いたときは、どうせその子はなのはちゃん惚れてる男の子で周りの嫉妬を気にしてそんな顔をしたのだろうと思っていた。
しかし、今日なのはちゃんが声をかけたときの顔を見て違うということはすぐにわかった。
そう、確かにあの顔はなのはちゃんを恐れる顔。
それも圧倒的な化け物を目の前にしているような顔をしていた。
そして、今の張り紙とコーンの消失。
それが起きたのはなのはちゃんと話を終えたであろう裕也君が屋上から出てくる直前。
今落ち着いてみればさっきのは幻術だったのかもしれない。
だが、あまりにも強力だ。
私も管理局の嘱託魔導師としての活動を通じて、いろいろな魔導師に出会った。
もちろんその中には幻術を使う人間も少ないながら存在した。
しかし、ここまで強力な幻術を使う人間はいなかった。
だってそうだろう。
私は目の前のものを見たときに気を抜いていたとはいえ、5分近く見ていたのに気づくことができなかった。
いやそれどころか本物だ、と疑わなかった。
それに触っている感覚もあったのだ。
そんなもの幻術だとわかるわけがない。
そして、それを操るときに魔力反応がなかったのだ。
おそらくはレアスキル。
それも極めて強力なものだ。
触覚をも偽装する幻術。
これははっきり言って悪用されれば多くの人が危険にさらされる可能性がある。
だってそうだろう。
それこそビルから落下するような情景をあの幻術で再現でもされてみろ、自分の肉体に異常がなくてもショック死してしまう。
だから調べる必要がある。
≪シャマル。
実は一つ頼みたいことがあるんや。≫
≪はやてちゃん?
何ですか?≫
≪今私がサ−チャ—である少年を追ってるんや。
シャマルもその少年について追跡してくれるか?
けど接近し過ぎてはだめや。
何か強力なレアスキルを保有している可能性があるんよ。≫
≪わかりました。
そのレアスキルに心当たりはありますか?≫
≪おそらく幻術。
それも触覚を偽装するレベルや。≫
≪わかりました。
何かわかり次第報告しますね。≫
そういって念話が切れる。
今海鳴にいる魔導師は私となのはちゃんとシャマルだけ。
フェイトちゃんやシグナム達はいまミッドチルダにいっていていない。
もしかしたらこれはあの事件に関係しているかもしれない。
焦っても仕方がないのはわかっている。
こじつけもかなり無理やりなのも自覚している。
けど、この能力と、今の状況なら私の予測はつじつまが合ってしまう。
それなら、
≪クロノ君今ちょっと大丈夫?≫
≪どうかしたのか?
今学校中だろう。
遊びのお誘いなら今は無理だぞ。≫
≪クロノ君今はちょっと冗談言ってる場合じゃないかもしれへん。
幻術系の極めて強力なレアスキル保有者を見つけたんや。
そして、なぜだかその子はなのはちゃんに怯えている。≫
≪それは本当か!?
もしそうならあの事件と関係があるかもしれないな。
連絡をしてきたということはそれをみこしてだろう。
ならこっちもそっちにいけるように時間を調整するから2日ぐらい待ってくれ。≫
これでおそらく戦力は十分。
あたりなら一攫千金。
はずれてもこちらはほぼ無傷。
謝罪すればいい。
ローリスクハイリターン。
この博打かならずものにしたる。