第十七話
土曜日。
それは学生の愛する休日の内のひとつ。
そんな休日に私は海に来ていた。
私は散歩がてらに海に来るようなタイプではないし、ちゃんと理由も存在する。
そして、その理由を作った要員になった事項はただ一つ。
昨日のなのはとの接触。
相手側がこちらに気づき始めているのは間違いない。
なのはとの対話の節々には、こちらの反応を伺うためであろう質問もいくつもあった。
次の対話では何かこちらの情報を握った状態で来るはずだ。
昨日はごまかしきることができた。
しかし、次も昨日と同じようにごまかしきるようなことはたぶんできない。
そうなった時には、間違いなくあのビームがこちらに向け放たれるだろう。
そんな事になったなら、何度も言うが私はほぼ間違いなく助からない。
だが、私にはかすかに助かる希望がある。
『リカバリーナイフ』
神により与えられたこのナイフは生きていさえすればどんな状態からでも助かるらしい。
らしいというのは未だに使ったことがないため効果の確認がすんでないからである。
海に来た理由はこのナイフの効果確認のためだ。
効果の確認を急いだのは、もし俺の体が粉々に吹き飛ばされたり、ショック死しなければ俺はこのナイフで助かることができるはずだから。
もしくはこの能力を交渉材料に命だけでも助けてもらうという選択肢を生み出すこと。
以上のことからこのナイフの効果の確認は必須事項なのだ。
そしてこのナイフの効果の実証のために海を選んだ理由だが、別に溺れている人に刺すとかではない。
そんなことをしたら、私は警察さんにお世話になってしまうどころか、
『私立校の生徒、海で溺れていた人を救助後、ナイフで刺す!
いじめによる、精神へのダメージはこんな事まで引き起こす!』
とありもしないようなことを週刊誌で書かれたり、
『そんなことをするような子にはみえなかったんですがね。』
『あの生徒はすごく優秀な子だったのですが、もしかしたらそれが原因で周りと何かあったんでしょうかね』
『〇〇ですか?
いつも何考えているかわかんなかったです。
はい。』
とかニュースで報道されてしまう。
それだけは絶対にいやだ。
絶対にいやなのだ。
話がそれてしまった気がしないでもないが、それを避けるための策を私はちゃんと用意してきた。
そして、それを行うための用意も万全だ。
早速準備しようと思う。
『釣り』の準備を。
今になって思うことがある。
なぜ今まで私はこの方法を思いつかなかったのか不思議だ。
いままで私はこのナイフの効果実証の方法をずっと模索してきた。
あるときは傷ついた野生動物を探した。
そして、またあるときは自分を刺そうかと思った。
しかし、どちらもうまくいかなかった。
傷ついた野生動物なんて近くを歩き回ったって居るはずもなければ、自分を刺す勇気なんてなかった。
だが、この方法なら自分に刺す必要はないし、その野生動物を確保することができる。
さらに今晩のおかずとして新鮮な魚が手に入る。
一石二鳥とはまさにこのことだ!
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時は過ぎ今は夕方。
私は今猛烈に後悔している。
なぜ今までこのことに気づかなかったのだろうかと。
もしこの案を思いついて浮かれているあのときの自分に会えるなら一言こう伝えたい。
「魚が釣れなきゃ何にもならないんだぞ。」
はっきり言おう。
一匹も釣れなかった。
今日一日で得た物はなし。
そして失った物は時間と、えさ代だ。
泣きたくなってくる。
一日近くじっとしていて成果なし。
もし、他の事に費やしていたならどれだけ有意義だったことだろうか。
本も一冊は軽く読めただろうし、幻術の練習もかなりできただろう。
本当になぜ私はこんな無駄な時間をすごしてしまったのか。
よく考えたら、いそ〇さんのところのなみ○いさんだって釣れずに帰るシーンが何度もあったじゃないか。
本気で今思うのは、両親に釣って帰るなんて豪語しなくて本当に良かったということだけ。
その後、たっぷりと後悔した私は一人寂しく帰路につくのであった。