第十八歩
本日は日曜日。
今日もある場所を訪れている。
昨日の失敗は私から多くのものを奪っていった。
時間と気力。
もっとも甚大な影響を受けたのは気力だった。
今日、朝目覚めたときのあの気だるさは、今まで体感した中でもおそらく一番だっただろう。
布団から出るどころか、体を動かす気力すら湧いてこないなんて生まれて初めての体験だった。
しかし、脅威が身近に迫っているのもまた事実。
その事実が布団から私が出ることの助けとなったのだ。
そして今日することは決まった。
最悪戦闘になったとき、切り札は幻術だが、通常装備はナイフなのだ。
さらに、私の最後の転生特典は、ナイフを飛ばす才能。
やはりするのならばこれの強化。
そしてここで訪れた場所である。
そこは、ある意味今の自分を生み出す結果となった場所。
そして、自分が逃げたために救えなかった人間を生み出してしまった場所。
そう、臨海公園。
そこの近くの林の奥だ。
ここにはあまり人が来ないのもわかっている。
なんていったって普段ナイフ投げの練習をする場所もそこなのだから知っていて当然だ。
しかし、全く来ないかと言われたらうなずけないのもまた事実。
だからいつも通りひと工夫をする。
召喚するナイフのデザインをダーツに極限まで近付け、ダーツ盤に向かって投げ続ける。
こうすれば、まさかナイフを投げているなんて思う人間はいないのだ。
そして、ここを選んだ理由はもう一つある。
それは自分の罪を忘れないためだ。
いうなればここは罪の象徴。
そこで鍛えることにより、常に張り詰めた精神で練習に臨むことができる。
もしかしたら、ここで鍛えるのもあの犠牲になった敵さんに見ていてほしいからかもしれない。
いつか、同じような状況になった別の人に出会ったとき、今度は救えるように。
さあ練習だ!
side 零
俺は久々に海鳴に帰ってきた。
思い出されるのは、あの地獄のような書類の山。
同僚の職員とともに励ましあい、ときには助け、ときには助けられ、あの地獄を超えてきた。
あの仲間との一体感は、創作小説に出てくる勘違い系のやつらでは決して手に入れることのできない素晴らしいものだ。
そして、今この喜びをなのは達と猛烈に分かち合いたい。
俺は、そう思って海鳴に帰ってきた。
現在、場所は臨海公園の近くの林の奥。
ここは普段俺が転送ポートで転送してもらう場所なのだ。
理由は、一応一般人に見つからないためだ。
それに、ここは、なのはとフェイトの友達になった場所から割と近い。
仕事が終わった後はそこを訪れるのはすごくすがすがしい気分がして、いつもここに転送してもらっている。
しかし、今日は先客がいるようだった。
普段であれば相手側はこっちに気付いた様子もないので無視しようと思うところだろう。
だが、その時の俺は何を思ったのか、その人がいる方向に向かって歩みを進めた。
俺はそこで繰り広げられている光景を見てかなり驚いた。
そこには、ただ一心不乱にダーツを投げる少年の姿があった。
10本投げ、回収。
それをひたすらに繰り返す姿は、鬼気迫るものがあり、なぜだかは分からないが心打たれるものがあった。
そして、それを行っているのは『鈴木裕也』。
あのファンクラブによってひどい目にあわされたであろう少年だ。
俺は思った。
きっとこの少年は将来、周りから認められる人間に成長する。
俺は仕事柄、悪意などを若干だが表情から読み取れるようになった。
しかし、この少年はどうだろう。
ひどい目にあわされただろうに、腐ることなく、ただひたすらに、自分を高める努力に打ち込む。
そこに悪意の一つも込められている様子はないのだ。
人間はいやなことがあったときに心の防衛機能として、現実逃避したり、八つ当たりしたりする場合がある。
しかし、この少年はどうだ。
確かに小さいことであるが、嫌がらせにあっていやな気持ちを能力を昇華させることに向けているのだ。
俺はこういう人間は、将来的に人の信用を勝ち取ることができるようになると思う。
それを見た俺は、なんだか嬉しくなった。
あの書類の山のせいで、努力する人間を見ると、無性にうれしくなるように感じる気分なのだろうか?
この少年が困っていたら少しでも力になってあげよう。
そう俺は心に誓い、より増えた喜びをなのは達と分かち合うために翠屋に向かうことにした。
その後、仲間の素晴らしさについて語りだした零に対して、なのは達は、納得はしながらも突然語りだした零を気味悪がってしまったとか。
零君は精神的に大きく成長しましたとさ。
読者のみなさんに聞きたいのですが、この作品のタグにアンチを加えるべきという声があったのですが、この作品ってアンチっぽいでしょうか?