第二十歩
side なのは
今私はほっとする気持ちと、異様なまでに体を包み込む疲労にぐったりしている。
今何がほしいと聞かれれば私はまず間違いなく甘いものがほしいといえる。
それぐらいにぐったりなのだ。
そしてはやてちゃんもそうでいるようで、机に突っ伏していた。
そしてうわごとのようにこちらに声をかけた。
「なのはちゃん、フェイトちゃん。
私はいったいこの二日間何をしてたんやろ・・・。」
「はやてちゃん。
私もわからないの。
それになぜか体もだるいし・・・。
翠屋に何か甘いものでも食べに行こうよ。」
「なのは、はやて大丈夫?」
フェイトちゃんが心配そうに声をかけてくれる。
やはり昨日のあれを体験していないフェイトちゃんはまだ余裕がありそうだ。
そして私はこの二日間を振り返った。
土曜日。
私にとってこの日が一番いろいろな意味でつらかった。
最初、はやてちゃんから連絡が来たときは本当にびっくりした。
バットケースほどの大きさのものを持って移動。
もしそのケースは、ロストロギアの反応を隠すタイプのもので、それが隠したロストロギアを取引するためだったなら、もう裕也君を弁護することはできない。
それどころか、すぐに乗り込んで現行犯で逮捕しなくてはいけなくなる。
実のところ今日まで私の中で裕也君についてある仮説が立っていた。
もしこれが取引とかならば、その仮説は完全に崩壊してしまう。
そしてその内容とは
『裕也君はたまたまレアスキルとして幻術を保有し、私に怯えている理由は町で発動したジュエルシードの事件に巻き込まれたからではないか。』
そう考えれば状況証拠という観点だけなら、つじつまが合う。
あのジュエルシードが発動した事件で、もし裕也君が私のことを目撃したなら、突然出現したあの木の原因が私、そうでなくてもそれを対処できるだけの能力がある存在として怖がってもある意味不思議ではない。
いやむしろ、あの事件に巻き込まれてトラウマになっているなら、私に向けるあの恐怖に染まった眼もうなずけるのではないだろうか。
そして第2候補としては
『裕也君は闇の書事件の初代リィンフォースさんとの戦闘の時、その魔力が原因で結界に引き込まれ、戦闘を目撃した。
そして私たちが気付くことができなかったのは幻術で姿を隠して身を守っていたから。』
この仮説においても結果は同じだ。
いや、むしろジュエルシードのときよりずっと戦闘も派手であったし、放たれた魔法の威力も何も知らない人間が見たら恐怖に染まってしまうようなレベルだろう。
裕也君が魔力を保有しているのはこの前のシャマルさんの報告で分かっている。
そういう意味ではこの仮説もまかり通ってしまう。
この海鳴で起きた事件ははっきり言ってしまうと、規模が大きすぎた。
どちらの事件も、歴史に名を残すような大事件であるし、知っている人間にも下手したらトラウマが残るレベルだったかもしれない。
そんな事件に、何も知らない一般人の裕也君が巻き込まれたらどうだ?
やはりそういう意味ではこの2つの仮説はつじつまが合う。
そして、この2つの仮説を念頭に置いて、はやてちゃんが幻術をかけられた屋上での日を思い出してみる。
すると一つの答えが生まれてくる。
『裕也君は、自分が目撃者だとばれ、それが原因で私に消されてしまうのではないかと勘違いした。
そして、最悪の場合を想定して周りを巻き込まないために私以外の生徒に幻術を使用した。』
これに、私に幻術をかけなかったことに、私が攻撃してきたら、より効果の大きい幻術で私を無力化するためというのを加えると綺麗にまとまるのだ。
自分で言っていてなんだが、私と裕也君にとって都合のいい解釈で塗り固められているのもわかっている。
第一、リィンフォースさんとのときのことなんか、私たちだけじゃなく、レイジングハートや、他の機械までだましたことになる。
人間にならともかく、機械に幻術なんて不可能だろう。
それでも、この仮説通りであってほしいと願ってします。
もしそうなら、誰もけがをすることなく、ひどい勘違いだったと、みんなで謝って、みんなで笑いあうことができるから。
そんなことを考えながらはやてちゃんの家に行くと、はやてちゃんから今の現状についてホッとした。
ケースの中身は釣竿だったのだ。
しかし、私たちはそのあとある種の地獄を見た。
映像は全く動くことがない。
そう全く釣れていない。
その時思った。
もうこれは私達が行って、お話した方が効率がいいのではないか。
もし悪いことをしているなら、私たちが全力全開でその行動を阻止して、そのあとでお話すればいいではないか。
そんな考えが頭を支配し始める。
体が動きだしそうになるのを必死で抑える。
どちらにしろ、今の現状を打開するには何か、無実の証拠を手に入れなければいけないのだと。
私はその時思った。
絶対に私は監視とか向いてない。
日曜日。
やはり裕也君に動きがあり、はやてちゃんから連絡があった。
この日は昨日お仕事から帰ってきたフェイトちゃんもやってきた。
そして裕也君はと言えば、映像を見ると林の中に入っていき、ダーツをしていた。
なんだか昨日のことと言い、今日のことと言い、私は自分を抑えるのに一番体力と、精神力を使った気がする。
そして現在に至るである。
私たちはすぐに翠屋に移動し、ケーキを頼んだ。
その後しばらして、タイミングがあったのか零君もやってきた。
しかし、そのときの零君ははっきり言って少し鬱陶しく感じてしまった。
その時の私たちは、疲労困憊で、もはやボロボロだったのだ。
そこに現れ、仲間の素晴らしさについてひたすら語っているのだ。
ここまで疲れていなかったら、きっとこんなにも鬱陶しく感じなかったことだろう。
言っていることは納得できるのだ、しかし、奈何せんタイミングが悪い。
それに急にこんな話をするなんて、もしやどこかで頭でもぶつけたのだろうか?
それに加え、何かを悟ったように話すそぶりは、少々気味が悪く感じてしまった。
その後、零君の話が終わると自動解散となり帰路に就いた。
なんだか、休めない休日になってしまった。