第二十二歩
今日は週初めの月曜日。
学生は学校に登校し、社会人のみなさんはお勤めに向かうだろう。
うちの両親もたまたま出張が重なり、今日は、早めに出発している。
なので今は私以外は誰もいない。
現在8時30分。
完全に遅刻である。
本来なら、私は既に学校にるはずの時間だ。
しかし、私はとある事情によりいまだ登校できないでいる。
その事情に、
『ベランダに美少女が引っかかっていた。』
とか
『家の前に空腹で倒れている見知らぬ美少女がいた。』
みたいな明らかに私を主人公としたラブコメが始まる予感のするような理由は存在しない。
ここで否定をしておくが、私に学校をさぼって家でだらだらする勇気などない。
考えたことがないわけではないが、実際にやったら多分罪悪感に負けて普通に登校してしまうだろう。
実は、私はそういうところで小心者なのだ。
ここまでの事項を整理して通常行きつく答えはただ一つ。
それは万病のもととも呼ばれるあの病気。
『風邪』
これがごく普通で、よっぽどひねくれていない人なら思いつく原因である。
だが私が登校できない原因は、そんなものではなかった。
むしろ、それはコントのようであるといったらいいのかもしれない。
しかし、普通はこんなことがこんなタイミングで起きるなどあり得ない。
ある意味、レアな体験をしたとして周りの自慢できるのでは、とさえ思えてくるぐらいだ。
だってそうだろう。
『登校しようとして部屋出ようとしたら、ドアノブが外れて自分の部屋に閉じ込められた。』
そんな体験なんて生きている間に1回経験できれば奇跡だ。
しかし、私はその奇跡体験をしてしまっている。
今現在、手元には、学校鞄と、携帯しかない。
そして私の家は一軒家で、自室は二階。
窓からの脱出も考えた。
しかし、窓の下には、母さんの趣味でやっている家庭菜園。
トマトの添え木が、今の私には落とし穴のなかの竹やりに見えた。
タウ○ページがあったなら、業者に連絡することができただろうに。
だが、そんなものはここにはない。
学校に連絡しようとも思ったが、番号がわからない。
あえて言おう詰んだ。
とりあえず、先生にこの事態を伝える策はもう考えてある。
制限時間は朝のホームルームの時間内。
条件は、クラスで私がアドレスを知っている人間の誰かが、携帯をマナーモードにし忘れているか、電源を切り忘れていること。
もしこのタイミングを逃してしまうと、学校から連絡が来てしまう。
そうなれば、その電話を取ることなんてできないため、両親に電話が行き、迷惑をかけていしまう。
その結末だけは、どうにかして避けたい。
そして、その結末を避けるために、私は電話を握る。
今の自分を例えるなら、残った最後のおこずかいを使ってスクラッチを買って、10円玉でこする直前。
もうどきどきだ。
一人目にかける。
『おかけになった・・・・・・」
でない。
二人目。
『おかけに・・・・・」
これも出ない。
緊張で変な汗をかいてくる。
3人目。
「おか・・・・・・・」
緊張とストレスで吐き気がしてくる。
今着ているYシャツも汗を吸って気持ち悪い。
はっきり言って最悪の気分だ。
画面に表示されるクラスで知っている最後の一人。
これが駄目ならあきらめるしかない。
そして最後の望みをかけて、私は、相手に発信した。
「・・・もしもし。」
相手の恨めしそうな声が受話器から聞こえる。
そんなことは今は気にならない。
それどころか私はその声が聞こえた瞬間、喜びのあまり飛び上がりそうになった。
それはなんとか自制し、深呼吸をして対応する。
「ごめん、ちょっと先生に代わってくれる?」
「もう変わっている。
ところで風邪か?
それなら学校に電話をかけろ。
もし寝坊なら、早く来い。」
先生は特に怒った様子はないようだ。
まあ当然だが。
しかし、電話をしたがこの状況どう説明したらいいんだ?
「ええと・・・・。
ドアのノブが外れてしまって部屋に閉じ込められてしまったんですけど、どうしたらいいと思いますか?」
「・・・寝坊したのはわかったから、準備してさっさと来いよ。」
先生は電話を切ってしまった。
私の冒険はここで終わってしまったようだ。