第二十三歩
博打に勝って、勝負に負けた私はどうするべきか策を巡らし始めた。
かけなおしてもみたが電話は、電源を切られてしまいつながらなかった。
ドアをぶち抜くことも一瞬頭に浮かんだりするがもちろんやらない。
本格的にピンチだ。
閉じ込められていることにより問題になるのは複数ある。
一つはトイレだ。
もちろん私は携帯トイレを普段から持ち歩いている稀有な人間ではない。
それどころか、窓の外にするような露出狂では決してない。
第一、そんな場面を目撃されれば、社会的に死ぬし、公然わいせつ罪で逮捕だ。
私は警察さんのお世話になるつもりは決してないのだ。
二つ目は食糧。
これに関してはそれほど焦る必要はない。
現在手元に、今日のお弁当があるため、昼まではもつし、最悪は、少々量を減らして夜まではもつ。
だが水分に関しては別だ。
マイボトルを普段から用意していないためここにはない。
まだ夏ではないので摂取しなければ死ぬということはないがそれでも必須だ。
そうして最終的に行きつく先は、どうにかしてここから脱出しなければならない。
もしここに未来のネコ型ロボットがいてくれたならと本気で思う。
壁を通り抜けるあの輪でもいいし、どこにでもつなげられるドアでもいい。
頭部につけるプロペラ的なあれも夢があっていい。
「そ〜らをじゆうにと〜びたいな〜。」
もはや現実逃避をするぐらいしか今することはない気がした。
ここでふとあることが思いついた。
『幻術で私が学校にいるように錯覚させればいいんじゃないか』
しかしそんなことを考えてみたが実行することはしなかった。
だってそうだろう。
幻術の効果は三〇分。
タイムラグも三〇分。
持続時間ぎりぎりまで教室に配置したとする。
限界ぎりぎりでトイレに行く。
そのあとどうする?
また三〇分後、教室に戻って来て授業を受ける幻覚をかけたとして、周りの反応はどうだ?
おなかを壊した少年どころじゃ済まないのではないだろうか。
しかもそれを一日に何度もやるのだ。
どんな変なあだ名をつけられるかわかったもんじゃない。
それに、あの場所にはなのは含め、私を狙っているかもしれない敵がいるのだ。
こんなことでこちらの切り札ばれましたなんて笑えない冗談だ。
そんなことになって対策をとられれば、私を無力化するなんて三秒あればできてしまうだろう。
つまり幻術は使えない。
そんなことを考えているとあることが思いついた。
『戸が開かないなら窓から飛んで出ればいいじゃない。』
私はなぜ気付かなかったんだろう。
別に能力は幻術だけじゃないのだ。
むしろ、自分の主となる装備はこっちだ。
そう思い至った私はすぐに準備を始めた。
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作戦は簡単だ。
①ナイフを召喚
②それに掴まって外に脱出
私はなぜこんな簡単な方法を思いつかなかったんだろうか。
おそらくはパニックになっていたからだろうが、もう少し落ち着いて考えるべきだった。
そして私は限界範囲まで幻術を発動する。
理由は言わずと知れた敵かもしれない存在。
どこから私を監視しているかは分からないが1キロより外からは何をしようとも監視は無理だろう。
幻術の内容は、
『私の家の敷地内では何も起きていない。』
ただそれだけの簡単な幻術。
これなら条件を片方満たしていなくても問題はない。
そうしてナイフを召喚し、命令を宣言する。
「ナイフ1,2番。
空中停滞。
方向固定。
1m/sで等速直線。
ナイフ3,4,5,6,7,8番。
主の1m以内で空中停滞。
主の自動防御。
ナイフ9,10番。
主の1m以内で空中停滞。
敵勢への自動迎撃。
敵と接触後消滅。」
ここで一応確認するが、わざわざ声に出して命令するのは、使いなれてないためうまく命令できないからであって、かっこいいからとかの理由ではない。
いやむしろなんだか恥ずかしい。
私はこの時、今度から宣言しなくてもナイフへ命令できるように練習することを誓った。
そして、私は2本のナイフに掴まって外に飛んだ。
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今になって本当に思う。
私は詰めが甘い。
そのことは今の状況が物語っている。
だってそうだろう。
今さっき、窓から出たときは綺麗だった制服は、ズボンが泥だらけになり、上着は草の露で何箇所かが緑色になっている。
原因はただ一つ。
移動中に手を滑らせて、菜園の端の方に落ちたのだ。
それもあとちょっとで完全に菜園を越えて、芝生に降りられるという距離でだ。
しかも足元が土だったせいで足を滑らせ、そのまま芝生とキスするような形にダイブしてしまったのだ。
顔には少し擦り傷ができている。
私はあることを決めた。
「今日は学校さぼろう・・・。」
そうして私はゆっくりと立ち上がりいえの中に入って行った。