第二十九歩
現在、私はなのはと向かい合うように座っている。
はっきり言おう。
私の心のライフはもう0です。
あの屋上の事件からまだ1週間程度しか経過していないため、まだ大きな動作はしてくることはないだろうと自分は予想しているが、実際のところそんなのわからない。
何気ない会話でぼろを出したら即ビームという結末だってあり得る。
だからあまり接触するのは、私の精神衛生と余命的な意味で好ましくないのだ。
なのにこの状況は何だ。
私の命を狙う者が目の前にいて、私の絵を描き、また、私も私の命を奪う可能性のある者の絵を書いている。
きっと、なのはは私の遺影でも描いているような気分でいるに違いない。
せめてもの救いは、あちらから話しかけてこないおかげで、まだ何もぼろを出す結果になっていないことだ。
「裕也君、ちょっと表情がかたくなってきたけどお腹でも痛いの?」
「別に何ともないよ?
人の顔を描くってあんまり経験ないから緊張しているのかな。」
危ないところだった。
もしうまくごまかせていなければ、そのまま一気に情報を持っていかれる所だったかもしれない。
表情はちゃんと気をつける必要がありそうだ。
「そっか。
じゃあ緊張をほぐすのにちょっとお話でもしながらやろっか。」
見事に墓穴を踏んだようだ。
私は一体どこで間違えたのだろうか。
いやもしかしたら、始まった時点でもうすでに術中にはまっていて、あとはタイミングをはかっていただけなのかもしれない。
ここからは常に油断はできないようだ。
「そういえば昨日休んでたけど、ドアノブ外れて部屋に閉じ込められたって聞いたけど本当なの?」
いきなりこの話題とは、相手はどうやらこちらを動揺させてから何かを聞き出そうとしてくるらしい。
昨日のあの出来事は幻術で外からは何もなかったように見えているが、実際は能力を使っているため、うまくつじつまを合わせなければ、こちらが不利になる可能性がある。
やはりなのはは策士だ。
「実は本当なんだよね。
その日は、親がちょうど出張で家にいなかったら、出ることもできなくて困っちゃったよ。」
「そうなんだ。
裕也君も運が悪いんだね。
でも今日は出られたってことは、お母さんか、お父さんのどちらかが帰ってきたのかな?
それとも110番に電話でもして出してもらったの?」
やはり追及してくるか。
まあちゃんと策は考えてある。
「なんとか部屋から飛び降りて出たよ。
部屋のしたが土でよかったよ。」
ここはあんまり着色しないこれが一番簡単にして、確実性のある手だ。
「そうなんだ。
けど裕也君もなかなか無茶するんだね。
足をねんざとかしなくて本当によかったよ。」
おそらくここでねぎらいの言葉をかけて相手を油断させる作戦。
だがそれに近い手は屋上で経験している私にはもう通用しない。
「そういえば、とあるうわさを聞いたよ。
なんでもどんなテストでも数学と理科、英語では満点を逃したことがない天才がこの学校にいて、それをなぜか誇ろうともしないんだって。
実はその人物は裕也君だってうわさなんだけど実際どうなの?
それがもし本当なら、テスト前とかにちょっとでいいから勉強教えてほしいんだけど。」
これはどうとらえたらいいんだろうか?
もしここで自分が利用価値があることを示して、私の命を延命させることを考えるべきなのだろうか?
それともこれは、私の情報はある程度掴んでいるアピールで、別にどうでもいい情報を出してこちらを少しずつ追い詰めるための準備か何かなのか?
まあどちらにしろ、下手な答え方をすれば接触回数を増やされて、こちらを深く探るチャンスを相手に与えることになるのは確かだ。
「ははは、さすがにそれは買いかぶり過ぎだよ。
自分はそんな頭は良くないよ。
そんな人間がいるならぜひ会ってみたいよ。
あははは・・・・・。
けどなんでそんなうわさが出たんだろう。
自分はきいたことないな。
ところでそれって誰から聞いたの?」
とりあえずこれに関しては否定することにした。
些細なものでもあちら側の保有する情報が間違っているとわかれば少しは時間を稼げるはずだ。
「やっぱり裕也君なんだ。
けどどうやったらそんなに点数取れるの?
ちなみに裕也君がいつも満点取ってるっていう情報は先生とアリサちゃんから聞いたやつだよ。
先生の方は今回のテストで満点取った人がいた教科の満点の人が誰だか聞いてみたら、喜々として答えてくれたよ?
なんでも毎回満点を取ってるから、もし勉強に行き詰ったら裕也君に聞いて見ると、同じ学生視点でなにかわかることがあるかもしれないって。
それとアリサちゃんの方は、定期テストの結果張り出しで、いつも満点で1番上に名前が書いてあるって悔しそうに言ってたよ。」
じゃあ何が目的でこちらにそんなことを聞いてきたんだ?
まさか本当にテストのことが聞きたいなんてありえないだろう。
というか先生もそんな簡単に点数開示しないでほしい。
はっきり言って、かなり恥ずかしい。
「それともう一つ言おうと思ってんだけど、裕也君ってさっきの質問の返事もそうだけど、ごまかすの苦手なんだね。
なんて言うか、すごくごまかそうとしているのが伝わってくるごまかし方だよ。
裕也君のそういう正直なところはすごくいいと思うよ。」
私はどうやら気付かない間に相手の策の前に敗北していたようだ。
もしかして私の寿命ってもう長くないの?