第三十歩
とある監督は言った。
『最後まで…希望を捨てちゃいかん。
あきらめたら そこで試合終了だよ。』
私はその言葉を胸にある決意をした。
まだ諦めない。
ごまかし通して生き残る。
「いやあ、いつも言われるよ。
いつもごまかそうとはするんだけど、すぐばれちゃってね。」
「やっぱりそうなんだ。
けどじゃあなんでごまかそうとしたの?
満点取ったなんて自慢すればいいのに。」
大丈夫。
すべてがばれたとわかったわけじゃないのだ。
「さすがにね。
なんか恥ずかしいし。
それに照れくさかったんだよ。」
大丈夫。
まだ戦える。
まだ焦るほどの時間じゃない。
「ところで裕也君は今何かごまかそうとした?
もしかして、なにか気を使ってくれてるなら別にそれほど気を使わなくて大丈夫だよ。
どっちかというと、気を使われるより、私は裕也君と本音で話したいし。」
どうやら今日のところは完全に試合終了だったようだ。
はっきり言おう。
今の状況では何をしようとしても覆せる気がしない。
もしするべきことがあるとしたら、話を自分の情報が漏れないであろう方向にそらすことだ。
そうするしかない。
「そんなことはないんだけど・・・。
けどやっぱり緊張はするなぁ。
だって自分は、モテルわけでもないから、あんまり女の子と話す機会なんて多くないしね。
もし自分がモテル人間だったら女の子とうまく話すことができたのかなぁ。」
「なんて言うか・・・。
大丈夫だよ裕也君!
きっと春は来るよ!」
なのはは完全に騙されているようだ。
完璧だ。
だがなぜだろう。
ごまかせたが、なんだか心が痛い。
「そういえば裕也君は今日放課後時間ある?
もし暇だったら、一緒に勉強しない?
実は私とはやてちゃんの追試が明日になったってことで、アリサちゃんとすずかちゃんが勉強見てくれることになったんだけど裕也君も頼めないかな。
それに、裕也君も友達になったんだから、私の友達を紹介したいしね。」
今この少女は何と言った?
私に、『女友達集まって勉強するから来ないか?』というニュアンスのことを言ってきた風に聞こえたがこれは空耳だろうか?
「ごめんもう一度言ってもらっていいかな?
何か聞き間違いして返答するのも変な気分だからもう一度聞きたいな。」
「そう?
じゃあいくね!
裕也君ももう私の友達だから、私の他の友達紹介を踏まえて一緒に勉強会をしませんか?
ということなの!」
聞き間違いではなかったようだ。
なぜこうなった。
私は、わざわざ自虐ネタまで使って話をそらしたのだ。
なのになぜ相手は悠々と私と接触回数を増やす策略を成功させているのだ?
しかも常識的に考えろ。
女集団の中に男が一人。
状況を例えるなら
『阪神ファンの集まりの中に、間違って入ってしまった他球団ファンだ。』
アウェイ間が半端じゃない。
そして、なのはの友人ということはおそらくあの5人。
私の予測ではあの5人はなのはの仲間だ。
もしそんな集まりにホイホイついて行ったら、そのままビームにで消される可能性はないだろうか?
それどころか、もし場所があちら側の拠点なら何か罠が仕掛けられている可能性があるのではないか?
だがもし拠点に連れ込まれたとしたら、うまく立ちまわればこちらに利益がないわけじゃない。
うまくすれば、相手の顔を確認できるかもしれない。
そうすれば自分の幻術の効果は最大になり、最悪の場合に切り札が完全な状態で使えるようになる。
それにもしかしたら、幻術をうまく使えば相手を同士討ちさせることもできるかもしれない。
ハイリスクハイリターン。
どうしたものか。
だがここでの返答は決まっている。
「放課後まで考えていいかな?
やっぱり、あんまり知らない人と話すのは心の準備がいるし、何か忘れてる用事がないとも限らないから。」
「全然いいよ。
そういえば裕也君の絵はどんな感じ?
ちょっと見せてくれない?」
私は何の気もなしに見せた。
「えっ!?
もしかして周りから私ってこう見えてたの・・・?」
どうやら私の絵も地雷だったようだ。
やっぱり行くのやめた方がよさそうだ。
まだ死にたくないし。