第三十一歩
side なのは
会話の始まりは割とどうでもいいことだった。
裕也君の表情がなぜか少しずつ硬く、こわばっていったことがきっかけ。
最初に、話題の始まりにはなんとなく昨日の話を振った。
実際リアルタイムで脱出するところを見ていた私には特に気になることでもなかったのでただの話のきっかけとするつもりだった。
しかし、この策はある意味で成功し、失敗してしまった。
裕也君の興味をこちらに向かせることができた意味では成功。
だが、裕也君の顔は先ほどより硬くなってしまった。
だからその話題はほどほどにして別の話題にすることにした。
「そういえば、とあるうわさを聞いたよ。
なんでもどんなテストでも数学と理科、英語では満点を逃したことがない天才がこの学校にいて、それをなぜか誇ろうともしないんだって。
実はその人物は裕也君だってうわさなんだけど実際どうなの?
それがもし本当なら、テスト前とかにちょっとでいいから勉強教えてほしいんだけど。」
それは裕也君の本人のこと。
昨日何気なく裕也君のことを先生に聞いて見たら、先生がこぼした情報。
そして、それをアリサちゃんに聞いて、ほぼ確定した情報。
はっきり言って、私は裕也君の頭の良さに驚いた。
屋上で話したときの反応で頭がいいことはわかっていた。
しかし、まさかここまでだとは思わなかった。
だからちょっとした好奇心と、あわよくば勉強法教えてほしいというちょっとした下心も含んでこの話を振った。
「ははは、さすがにそれは買いかぶり過ぎだよ。
自分はそんな頭は良くないよ。
そんな人間がいるならぜひ会ってみたいよ。
あははは・・・・・。
けどなんでそんなうわさが出たんだろう。
自分はきいたことないな。
ところでそれって誰から聞いたの?」
そうしたら、なんだか微妙な反応が帰ってきた。
どう微妙かと言うと、ごまかそうとしてますよと全力で訴えられているような感じ。
もしやこれはなんかの演技ではないかと疑いたくなるようなこの反応は、表情が演技でないことを物語っていた。
だから私は少し意地悪だがこの話題で突っついてみることにした。
「やっぱり裕也君なんだ。
けどどうやったらそんなに点数取れるの?
ちなみに裕也君がいつも満点取ってるっていう情報は先生とアリサちゃんから聞いたやつだよ。
先生の方は今回のテストで満点取った人がいた教科の満点の人が誰だか聞いてみたら、喜々として答えてくれたよ?
なんでも毎回満点を取ってるから、もし勉強に行き詰ったら裕也君に聞いて見ると、同じ学生視点でなにかわかることがあるかもしれないって。
それとアリサちゃんの方は、定期テストの結果張り出しで、いつも満点で1番上に名前が書いてあるって悔しそうに言ってたよ。
それともう一つ言おうと思ってんだけど、裕也君ってさっきの質問の返事もそうだけど、ごまかすの苦手なんだね。
なんて言うか、すごくごまかそうとしているのが伝わってくるごまかし方だよ。
裕也君のそういう正直なところはすごくいいと思うよ。」
この言葉を言い終えたとき、裕也君の反応は、私が予想したものとはかけ離れていた。
なぜなら、裕也君の表情が何かを決意したような表情に変わったのだ。
それこそ、魔王を前にした勇者を連想してしまうような顔だ。
そしてその表情から発せられた言葉は、
「いやあ、いつも言われるよ。
いつもごまかそうとはするんだけど、すぐばれちゃってね。」
またまたばればれのごまかしだった。
先ほどのよりは裕也君自信の心からの言葉のような気がする。
だが、何かを隠しているようでかむずがゆい感覚だ。
「やっぱりそうなんだ。
けどじゃあなんでごまかそうとしたの?
満点取ったなんて自慢すればいいのに。」
「さすがにね。
なんか恥ずかしいし。
それに照れくさかったんだよ。
これも本音がまざっているのも理解できる。
だが私はこのむずがゆい感覚に耐えられなくなり思わず言ってしまった。
しかしそれは私の本音だ。
本音と本音をぶつけあうことができなきゃ、今より仲良くなんて慣れないから。
「ところで裕也君は今何かごまかそうとした?
もしかして、なにか気を使ってくれてるなら別にそれほど気を使わなくて大丈夫だよ。
どっちかというと、気を使われるより、私は裕也君と本音で話したいし。」
「そんなことはないんだけど・・・。
けどやっぱり緊張はするなぁ。
だって自分は、モテルわけでもないから、あんまり女の子と話す機会なんて多くないしね。
もし自分がモテル人間だったら女の子とうまく話すことができたのかなぁ。」
そうして裕也君はどこか遠い目をしてしまった。
確かに裕也君の心からの言葉なのだろう。
もしかしたら、いままでの反応は、ごまかそうとしていたのではなくて、ただ、私と話すのに緊張して、ガチガチになってしまってたのかもしれない。
完全に私はミスってしまったようだ。
それに、今の裕也君にはどんな言葉を返してあげればいいかなんて分からない。
私には恋愛経験なんてないのだから。
「なんて言うか・・・。
大丈夫だよ裕也君!
きっと春は来るよ!」
そこから私はなんとかその話題から話をそらすためにマルチタスクまで駆使して考えた。
そうしてあることを思い出した。
勉強会。
今日アリサちゃんが私と、はやてちゃんのために開いてくれるのだ。
勉強と言えば裕也君の土俵だ。
これをうまく使えば、話をそらすこともでき、裕也君とさらに仲良くなることも可能だろう。
そう考え私はすぐの行動に移した。
「そういえば裕也君は今日放課後時間ある?
もし暇だったら、一緒に勉強しない?
実は私とはやてちゃんの追試が明日になったってことで、アリサちゃんとすずかちゃんが勉強見てくれることになったんだけど裕也君も頼めないかな。
それに、裕也君も友達になったんだから、私の友達を紹介したいしね。」
「ごめんもう一度言ってもらっていいかな?
何か聞き間違いして返答するのも変な気分だからもう一度聞きたいな。」
「そう?
じゃあいくね!
裕也君ももう私の友達だから、私の他の友達紹介を踏まえて一緒に勉強会をしませんか?
ということなの!」
裕也君は少し考えるそぶりを見せ答えた。
「放課後まで考えていいかな?
やっぱり、あんまり知らない人と話すのは心の準備がいるし、何か忘れてる用事がないとも限らないから。」
割とあっさりした解答に、私はほっとし、何気なしに絵について話題を振ってみた。
「全然いいよ。
そういえば裕也君の絵はどんな感じ?
ちょっと見せてくれない?」
裕也君はあっさりこっちに見せてくれた。
そして、私は、その絵を見て驚愕した。
「えっ!?
もしかして周りから私ってこう見えてたの・・・?」
私は一度深呼吸をして、もう一度絵を見た。
その絵の私は、目元がつりあがり、鋭く、目の下には影が差していて、濃い隈のようになっていた。
そして輪郭はほっそりしていて、髪の毛もなんだか枝毛が多くなっている。
はっきり言おう。
かなり怖い。
もしかしていままで裕也君が、怯えていたのは、私の容姿になのだろうか?
もしかして本当に周りからこんな風に見えていたのだろうか?
もしかしてヴィータちゃんが私を悪魔と言ったのって、私の容姿のせい?
もしかして・・・・・・・。
気付くと授業は終わっていて、なぜか、フェイトちゃん達に異様に心配された。
どうしてだろう?