第三十三歩
私のワークをめぐる、少女達のカオスな戦争を横目に私は、今の状況を少し落ち着いて分析してみることにした。
現在の私の状況と今の状態での自分の保有する情報と、そこから導き出される可能性は、
・敵対勢力の可能性がかなり高い5人組とともに勉強会
・やはり学校の中では襲ってこないようだ
・私のワークに興味を示したことから、学業を面倒に感じている可能性あり
・この勉強会で自分の有益性を証明できれば、私はしばらくの間、命をつなぐことができるかもしれない
・しかし、下手に刺激を与えるとこちらに攻撃を加えてくる可能性がある
だいたいはこんな感じだ。
つまり、今の状況において、一番重要なのは、おそらくあの中でのボス的立場であろうアリサ・バニングスを刺激しない程度に自分の有益性を証明し、取り入ること。
だがここで問題がある。
私はこれまでアリサと話した経験がない。
つまるところ、彼女の沸点がわからない。
あの少女の性格は、見るからにさばさばした感じではあるが、それ以外はわからない。
もし彼女が嫉妬深い性格なら、ここであまり行動を起こすのははっきり言ってまずい。
彼女はお嬢様らしいというのは有名な話だから知っている。
そんな人間を下手に刺激したら、社会的に抹殺された後、コンクリに詰められて海に捨てられるかもしれない。
そんなことになったら、いくらリカバリーナイフでも意味などなさないだろう。
つまり、アリサとの接し方は、必然的に相手から求められたときにのみ、こちらが行動する受動的な対応になる。
そう考えていると、アリサが口を開いた。
「とりあえず、本当にやることがないのはわかったわ。
じゃあとりあえずこっちに来て、この二人を教えるの手伝いなさい。
教えるのも勉強っていうしね。
それと、先に一つ言っておくわ。
絶対になのはとはやてにこのワーク貸しちゃだめよ。
この二人、切羽詰まったら、絶対にすがってくるけど甘やかすだけが優しさではないの。
だから、もしすがってきても、解き方を教えても、絶対に答えをあたえちゃだめだからね!
この二人なら、ほんとに切羽詰まったらまる写ししかねないし。」
「アリサちゃんさすがにそれは偏見なの!
さすがにまる写しなんてしないよ!」
「そうや!
まる写しなんてして全部あってたら、誰かのを写したってばれてまうやないか!
だから適度にちゃんと間違うわ!」
「はやて、なのは、それじゃほとんど写すって言ってるようなものだよ。」
「なのはちゃんも、はやてちゃんもそれはさすがにだめだよ。
できる限りは自分でやろうね。」
「いい?
あんたもわかったわね?
絶対に貸しちゃだめからね?
わかったら、この問いには『はい』か『yes』で答えなさい!」
そう言ってアリサはこちらに『ビシッ』という擬音が聞こえてきそうな感じで指をさしてきた。
なんだかアニメみたいだ。
「はい、わかりました。」
だから私はちゃんと指示通りに返事をする。
こういう小さなことから、コツコツと、やっていき、アリサに少しでも気に入られなくては生き残れないのだ。
絶対にミスはできない。
「よろしい。
そいえば、ワーク見て気になったんだけど、もしかして、あんた高校で勉強する内容とかもうやってるの?
関数の問題とか見てると、なんだか教科書で見たことない記号が消し残しとかで結構あったのよ。
しかも解くのがめんどくさそうな発展問題とかだとそれを使って、式を2本ぐらいで検算してたみたいだしね。」
私はその言葉を聞いてどうしたらいいのかわからなかった。
まず、上がる問題は、これを正直に答えて、相手側を変に刺激してしまったりしてしまわないだろうかということだ。
これはうまく利用すればあちら側に私の利用価値を少しだけ示せるかもしれない。
だが、これでアリサの機嫌を損ねたら私は終わってしまう。
どうしたらいいのだろうか。
とりあえずごまかしてみることにした。
「どうしてそう思うの?
もしかしたらそれは、3年生で勉強する項目かもしれないじゃないか。」
「あんた本気で言ってるの?
どこの世界に、関数の面積を求めるのに、小文字のFみたいな記号を使う中学生がいるのよ。
それに私は、中学校で使う公式は一応暗記してるのよ?
その中にあの記号に見覚えなんてないわよ。」
「えっ!?
裕也君それ本当なの!?」
なんだか呆れた顔でアリサは私の方を見てきた。
それになんだかなのはが反応を示しているが、今の問題はアリサだ。
だからいったん放置しとく。
だがそれと同時にこの話題はアリサを刺激するようなものではないということが確認できた。
これはちゃっかり大きな収穫である。
「そうなんだ。
実はちょっとだけ最近やってるんだよね。
やってみると結構便利な公式があったりしたよ。」
「そうなの?
今度塾の講師の先生相談してみようかしら。
このF見たいのは本当に便利そうだし。」
とりあえずはこれで問題はないだろう。
「ねえ裕也君その公式私に使える?
もし簡単ならおしえt」
「はいはい、なのははとりあえず横道にそれてないでさっさと問題を解く。
第一、今そんなの憶えても、それを使えそうな問題はしばらく先よ。
それにあんたは、まず明日の追試でしょうが。」
「それとはやてとフェイト。
こっそり裕也のワークを覗こうとしない。
フェイトは問題ないとして、けどはやて、あんたはだめよ。」
「アリサちゃん、それは差別や!
差別反対!」
「私はいいんだね。」
「あっ私もちょっと見てみたいかも。」
若干騒ぎながらだが、勉強会は進んでいった。
その後、日が少し傾き、そのまま解散となった。
今日一日を生きて過ごせたことを、私は神に感謝した。