第三十五歩
私は思う。
実は今は夢の中で実際の私はまだ寝ているのではないか。
そしてその夢は昔の、あの目の前のなのはが極太ビームを発射して日から始まっているのではないかと。
だってそうだろう。
目の前にいる少女はビームを発射することができるという現実。
そして今は自分の描いた絵によってその少女にビームで消し飛ばされるかもしれないという現実。
この二つのどこに夢ではないと決定ずける要素があるだろうか。
いやそんなものあるはずがない。
どこの世界の常識に、絵が下手だからという理由でビームで消し飛ばされるようなル—r
「鈴木君?
どれだけどうしたんですか?
作品の気に入っているところと、がんばったところの説明お願いします。」
本当にこれが夢の中であったならばどれだけ良かったのだろうか。
そんな現実逃避はほどほどにとりあえずちらりと自分の絵を見た。
特に問題はないような気はする。
だがもしものために一応言い訳だけは考える。
そうして私は発表する言葉を選び口を開いた。
「この絵を描いたときに気をつけたのは顔のパーツに位置です。
気に入っているのは特にありませんが、やはり美術が苦手なので顔面崩壊だけは免れたことは良かったと思います。」
「では鈴木君への質問と感想がある人はお願いします。」
すると割と素早く二人ぐらい手が挙がった。
するとなぜかなのはがビクッと反応を示したが私は見なかったことにした。
「ええっと質問なんですけどなんで若干目が攣り目ぎみなんですか?
あと感想なんですけど、鈴木君の言った通り全体的にまとまった感じはいいと思います。」
まあ予想はしていた質問のひとつだ。
これなら何の問題もなく答えられる。
「それなんですが、昔、絵を描いているとき、たれ目になり過ぎているといわれたので少し攣り目で描きました。
変でしたかね?」
そういうと、先ほど発言した女の子が答えてくれる。
「別に変ではないんですよ。
けど高町さんならもう少したれ目にした方がかわいくてもっと雰囲気が出るかなぁとか思っただけですよ。
私は嫌いじゃないですよその絵。」
その最後の一言に思わず心撃たれそうになった。
昔たまたま友達の家で見たネット掲示板での一言が頭によぎった。
なんでも、あまりもてない人間は、やさしい言葉をかけてくれる人を思わずすきになりそうになるとか。
だがその言葉が思いついた瞬間、心を撃たれたような感覚も覚めてしまうのは不思議である。
すると先ほど手を挙げていたもう片方の男の方がまだ手を挙げていた。
どうやら先ほどのとは別の質問だったようだ。
「感想なんですけど。
なのはさんの絵ならもう少し、顔がやせ気味でもいいんではないでしょうか。
なんだかふっくらし過ぎな気がするんですよね。」
その発言を聞いた瞬間、なのははなぜか自分の顔を焦ったようにぺたぺた触っていた。
はっきり言ってわけがわからない。
「そうですか?
もうないと思いますが、もう一度描く機会があったらそうします。
もしくはあなたが高町さんに書いてあげるといいと思います。」
そうは言ったがもう描きたくなんてない。
もし描く機会があったなら、その権利はのしつけてあの少年にあげよう。
きっと喜ぶ。
だがなんだかなのはの反応がさっきから怖い。
「じゃあお互いに描いた絵を見て席に戻ってください。」
先生のその声に反応してなのははもはやそのまま喰らいつくのではないかという勢いで私の絵を見た。
するとなぜか変なつぶやきが聞こえてくる。
「あれ?
目の下のクマもない。
それに輪郭も拒食症のひとみたいになってない。
目も前に見たときみたいにつりあがってない。
なんで?
どういうこと?」
もしかしてあのとき見せた絵を基準に考えているのではないだろうか?
さっき聞こえた輪郭の話は、確かその時は、顔のパーツの位置を決めるための仮の線で、それっぽく適当に引いただけのやつだった気がする。
それに目の下ということは、目の位置を修正しているときの消し残しだった気もする。
だがはっきり言って、何でそんなのを見て完成した絵だと勘違いしたのだろうか。
その時の絵は、はっきり言ってどんな感じだったか憶えていないが、結構ひどい感じだったと思う。
第一、話しかけてきたときは、まだ20分ぐらい時間を残していた。
その時点で完成と考えるにはいささか早すぎるだろう。
もしかして、なのははあんな短時間で速攻で完成させたのだろうか?
もしそうなら、素直にその才能に嫉妬心を憶える。
まあそれは置いておいて、自分のなのは作の私の遺影を見ることにした。
・・・・・・・。
普通にうまい。
顔もバランスが取れているし、髪型も普段の自分と同じだ。
だが泣き顔だ。
はっきり言って批判するような要素はない。
だが泣き顔だ。
まあだが、なのはの反応を見る限り今回の件で吹き飛ばされるようなことはなさそうだ。
はっきり言ってそれさえわかれば他はこの際どうでもいい。
なぜなら今回私は事実上、勝利し、生き残ったのだから。