第三十六歩
side なのは
今日は4月最後の日曜日。
ここ最近は裕也君も怪しい動きは見せず、勉強会も何回か参加してくれていて、とても穏やかな日々が続いている。
それに裕也君も、以前ほどあからさまに怖がるそぶりは見えなくなり、勉強会の時などでは、アリサちゃんと割と楽しそうに話している姿も見るようになった。
そうして今日は珍しいことに、クロノ君からの呼び出しで、フェイトちゃんの家を訪れている。
ちなみに今ここにいるのは私、フェイトちゃん、クロノ君の3人だ。
リンディさんとアルフさんは今はお買い物で席を外してる。
はやてちゃんはまだ来ていない。
そうして、私は目の前にある紅茶の入ったカップに手を伸ばし、クロノ君に声をかけた。
「そう言えば今日ってなんの集まりなの?
定期報告会にしてはちょっと間隔短いと思うけど。
もしかして、クロノ君とうとう、エイミィさんと結婚決めたとか?」
そう私たちはちゃんと定期報告会なる、裕也君の様子や、その能力についての議論は定期的に行っている。
実際にそれはほんの4日ほど前に行ったのだ。
私の声を聞いてかクロノ君は少し顔を赤らめながらも質問に答えてくれた。
「それとこれとはなんも関係もない。
詳しくははやてが来てから話そうと思うが、事態がかなりと悪い方に進行しつつある。
今日はそのことについてだ。」
「お兄ちゃん。
落ち着いてる用だけど、それ大丈夫なの?」
フェイトちゃんも話にのってくる。
しかし、悪い方とはどういう意味で悪い方なのだろうか。
この場で考えられるのは3つ。
①裕也君が敵と仮定した場合、そのバックの組織について何かわかった
②裕也君のジュエルシード所持が確認された。
③裕也君と同じタイプの能力を持った次元犯罪者が見つかった
おそらくこの3つのどれかに似た内容なってしまうのではなかろうか。
しかし、私としては3番。
つまり、『裕也君は関係なく、それに似た能力を保有した次元犯罪者が見つかった』であって欲しい。
確かに危険思考な人間に裕也君のあの能力は危険すぎる。
だがそれ以上に私は裕也君をこの容疑から解放してあげたい。
入学からまだそれほど経っていないが、私には裕也君はこんな事件を起こしたりするような人間ではないことははっきりわかるのだ。
なぜなら裕也君の瞳にはちょっとの悪意すら感じることができなかった。
たまに裕也君の瞳には恐怖を映すが、一度だってそこに悪意は写ったことがない。
そんな人間にこんな犯罪はできっこないのだ。
そうしてわたしが思考していると、チャイムの音が部屋に響き渡った。
どうやらはやてちゃんが来たようだ。
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「今回集まってもらった理由だが、こちらの調査結果で大変な事実が判明した。
その調査結果だが、鈴木裕也のジュエルシード所持が確認された。」
私はその言葉を聞いたとき、目の前が一瞬真っ白になった。
それと一緒に、すごく悲しくもなった。
事と次第によっては、今まで私たちが接してきた裕也君は、全て嘘だったことになる。
私は信じられないという思いと、それが現実だというあきらめにも似た感情との間にで板挟みになった。
「お兄ちゃん。
それは本当なの?
実際のところ、接してみて裕也君がそんな事をする人間にはどうしても思えないよ。」
フェイトちゃんも同じ気持ちであった事がすこしうれしく感じた。
「私もそう思うの。
私は裕也君からは、なんの今まで一度としてなんの悪意も感じられなかった。
だから素直に納得いかない。」
はやてちゃんは何も言わずに黙ってクロノ君を見ていた。
「だが実際に鈴木裕也がジュエルシードを持って居るのは事実だ。
この調査結果は近くに来ていた別の次元航行艦が、盗まれたジュエルシード捜索のために、広範囲サーチをかけた結果、たまたま発見されたものだ。
そしてその情報はここに僕が居るということで、そのまま僕が引き継ぎ、捜査に当たることになっている。
だからもうそれほど猶予はないと思ってくれ。
そして、最後に君たちが来る前に届いた最新情報だが、そのジュエルシードは使用はされていないようだ。
しかし、観測することができる貯蔵されている魔力量が明らかに少なくなっているという事が確認された。」
「観測できる魔力が少ないってどういう事や?
シャマルの調べやと、あの家には結界は張られてへんし、それに類似するタイプの魔法の使用された形跡もなかったはずや。
少なくともシャマルが間違った報告をするとは思えへんのやけど。」
確かにそうだ。
シャマルさんは歴戦の補助タイプの魔導師なのだ。
そんなミスをするとは思えない。
「そのことなんだが、僕はジュエルシードをもしかしたら、魔力電池代わりにして使っているんじゃないかと考えている。
実際、そんなことが可能なのかはわからないが、もしも、魔力だけを取り出すことができるような技術があったならば、あのガジェットがAMFを使用するための魔力をどこから持ってきているかという問題がつじつまが合うんだ。」
私はもううまく言葉を出すこともできなかった。
思考もなんだかぐちゃぐちゃで考えがまとまらない。
「なあクロノくん。
そのことを言ったということはもう最悪、タイムリミットが近いんやろ。
どうするつもりなんや?」
「次に、彼が一人で出歩いたときにでも、交渉に出向くしかないと思う。
そのときは最悪戦闘になることも考えて、結界で周りに被害が出ないようにしてからだ。
そして、戦闘になったときの事なんだが、そのときははっきり言って、なのはとフェイト以外では、彼の能力の前では何もできない。
それどころか下手したら、一瞬で終わる。」
確かにそうだ。
もし裕也君と戦闘になったら、直ぐ使ってくるかはわからないが幻術を使用されたらこちらは封殺されてしまう。
「だから、一応僕の方で策をたててみた。
ひとつの意見として頭の片隅に入れておいてくれ。」
その後、クロノ君の話が終わると、全員何も言わずに部屋から出てそのまま解散となった。