第三十九歩
私はきっとこの日の事を一生忘れない。
自分が初めて能力を本気で人に向け、人の人生を危うく奪うところだったことを。
あのときの自分にはこれは確実で、唯一の手段だと考えていた。
いや、ただそう信じたかっただけなのかも知れない。
しかし、そんなことはなかった。
恐怖に染まった心で考えた作戦は、結局無駄な争いを引き起こし、結局失敗した。
そして今、私は思う。
きっと人と人は真には理解し合えない。
けど分かり合おうとすることには意味がない訳ではない。
だから人はより言葉を交わさなければいけない。
だって些細な誤解から人は簡単にけんかになってしまうんだから。
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5月3日。
それは誰もが心待ちにする連休、ゴールデンウィークの最初の休日。
私は今あるものを持って臨海公園を訪れていた。
そのあるものとは、もちろんあの忌まわしき釣り竿では無いことをここに宣言しておく。
それはこの世界のことを、そして危険性を理解した時期に手に入れることになった石。
そう、名も無き敵キャラさんの墓標だ。
ここ、そしてこれは今や自分にとって大きな意味を持つ場所ともの。
これをここに持って来るのは実はいままで一度としてなかった。
だが今日はその行為を初めて行った。
そうおそらくもうじき来るだろうなのは達との対峙、そのことを考えると自然と足が向いてしまったのだった。
これを持ってきたのはそのときなぜかそうすることが正しいような気がしたからだ。
「もうすぐ自分はたぶんなのは達と何か事構える事になります。
おそらくそのときはきっとあの巨大なビームが自分を貫くでしょう。
そのときが来たら自分は生き残る事ができる用に見守ってくれませんか?」
私はなぜかそんな事を思わず口に出していた。
もちろんそれを応えてくれる人など周りにはいたりはしない。
ただの独り言だ。
だが独白は続いた。
「あなたがあのビームに打ち抜かれたとき、ただ恐怖に震えて自分は何もしなかった。
あまつさえその場から逃げ出してしまった。
もし、息があったなら救う手だてがあったのにだ。
そんな自分がこんな事を言うのは図々しいことだ。
けどそれでもやはり自分はまだ生きていたい。
もし同じような場面があったとき次はきっと助けたいから。
そのためにどうか見守って欲しい。」
そこで私の口から漏れた言葉がとぎれた。
いや正しくはこれ以上私には言えることなど存在はしなかった。
ここで一言断っておくが周りには人はいない。
流石に人がいる前でそんなことはしない。
そうして帰路につこうとしたとき、周りが変なことに気づいた。
人が本当にいない。
別に今は早朝であるわけではなく、どちらかというと昼少し前ぐらいの時間だ。
それに先ほどまで確かに、少し離れた位置で、おじいさんなどの散歩客が散歩しているのをちらちらと見かけたのだ。
しかし、今は見かけない。
いや見かけないと言うよりは、まるで急に消えたようだ。
そして周りを少しずつ見回すと他にも変な部分があった。
遠くを見渡すと何かドーム上の物でここが囲われている。
いままでこんな物は見たことがない。
そうして自分は気づいた。
これはあちら側からの襲撃なのだと。
そうして私は迷わずにナイフを展開する。
「ナイフ1から7番!
命令。
①空中停滞
②自分の自動防御
③合図で敵装備に向け加速度200m/s2で射出」
1番、2番は声を上げず、最後の命令だけはできるだけ声を張り上げる。
理由はもちろん相手への牽制だ。
だが実際それほど効果は期待していない。
なぜならあちらにはあのビーム砲がある。
あれの前ではおそらくこんな物ただのおもちゃでしかない。
それでもこちらにも攻撃手段がある事を示すには十分だ。
「こちらは時空管理局所属クロノ・ハラオウンだ!
危険魔法使用、及び盗難、違法ロストロギアの所持の容疑で君を一時拘束する。
それと君のナイフの能力と幻覚魔法はすでにこちらで把握している。
抵抗は無駄だ。」
急に背後から声がして振り返ると、目の前に現れたのは黒髪の青年が一人、そしてその背後には、フェイト・T・ハラオウンと八神はやての姿があった。
そして、相手から出た拘束という単語。
他にも何か言っていたがほとんど聞き逃してしまった。
だがこれでまだチャンスはある.
相手はこちらを殺さず捕まえろとでも命令が出ている。
どうやって知ったかはわからないが理由はたぶんリカバリーナイフ。
そうでなくてはこの場で殺せとでも命令が出るはずだ。
だがあちらにはみるからに最低でも後3人の駒を残している。
その中でもこちらが把握している中で最悪なのがいない。
狙いは狙撃か、それとも逃走時の追撃用の兵力なのかわからないが、やばい。
緊張で胃が強い痛みを発し始める。
しかし私は焦らずに冷静に対処する。
ちゃんとこんな時のためにいままで多くの策を練ってきた。
『ナイフ8から10番。
①空中停滞
②高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングスの3名が500m以内に存在する場合のみ対象の方向に方向修正
③②の工程終了後消去』
私は何も口に出さずに命令する。
これはあの窓から脱出以降密かに練習したのだ。
そしてナイフが一本だけ上の方向を向く。
つまり相手の切り札は上空からの狙撃。
おそらくそこからなのはがこちらをねらっている。
そして残りの2人は、ここら周辺にいないということはこちらが逃走した場合の追撃用の戦力なのだろう。
情報がそろい始め、自分が取ることが可能な策が絞られてくる。
それと一緒に、緊張も増し、吐き気が少しずつ大きくもなっていく。
体も恐怖で硬くなっていくのも感じる。
これはもう決断するしかなかった。
私は全力で幻術を発動させ、恐怖で固まる体で3人に向かって走り出した。
幻術対象は目の前に居る3人。
内容は黒髪の指揮官らしき人から『絶対に交渉を受けざるを得ない状況』を、八神はやて、並びにフェイト・T・ハラオウンからは『この場において最悪の状況』のイメージをそれぞれから引き出し、そして、こちらからそれをより悪くなるように干渉する。
ここから始まるのは私の電撃作戦。
失敗は許されない。
見ていてくれ敵キャラさん。
必ず私が勝利をもぎ取って見せる。