第四十歩
side クロノ
鈴木裕也の動きだすのはこちらの想定よりかなり早かった。
いや、なのは達全員がこの町にいる状態で動き出すなんてはっきり言って予想していなかった。
だがおそらくこの行動にも何かしらの意味があるのだろう。
これはあちら側の挑発なのか、それとも至急動かなきゃいけない事情ができたのか。
これに関してはどうやったって判断なんかつかない。
だが、どちらにしろ、こちらが動かなければならないのは変わらない。
「じゃあなのはは移動を開始してくれ。
はやて、フェイト、僕たちはとりあえず彼の確保に出向こう。」
僕は2人を引き連れ、結界の中に入った。
今回の配置は交渉班に、僕、はやて、フェイト。
もしもの時の追跡・結界班にヴォルケンリッター。
そして遊撃になのはを当てた。
最悪の場合を考えたときに対処できるように配置したつもりだが、はっきり言って、もしものことはあまり考えたくない。
もし、あのガジェットが鈴木裕也と関係があった場合、最悪この町を戦場に変えかねないのだ。
それに裕也の能力は、僕たちの扱っている魔法とははっきり言って別物と言っていい。
幻術の効果範囲がわからない。
ナイフの限界射程もわからない。
安全圏が存在しない。
本当に勘弁してほしい。
まあだが、どちらにしろ、ジュエルシードを持っている以上回収しなければいけない。
あんなものを放置しておけば、どこでPT事件のような事件がまた発生するかもしれないのだ。
そして、それが、あのときのように解決に導かれるなんて保証はどこにもないのだ。
そうなればより多くの犠牲を生むことになる。
絶対にそれだけはさせない。
だから僕は止まることはできない。
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僕たちが結界の中に入ると同時に、この場に一人の声が響き渡った。
「合図で敵装備に向け加速度毎秒200mで射出」
鈴木裕也の声。
はっきり言って、予想はしていたが、安全に確保することが本当にできるのか絶望的な気分だ。
だが、あちら側がいきなりこちらを殺そうとしてこないだけまだましとみるべきなのかもしれない。
もしそのつもりなら、先ほどの声の内容が、殺害になっているはずだ。
なんとかまだ交渉は可能だと信じたい。
「こちらは時空管理局所属クロノ・ハラオウンだ!
危険魔法使用、及び盗難、違法ロストロギアの所持の容疑で君を一時拘束する。
それと君のナイフの能力と幻覚魔法はすでにこちらで把握している。
抵抗は無駄だ。」
僕は後ろから、声をあげた。
するとそれに反応して、鈴木裕也もこちらを向く。
その顔はとてもこわばっていた。
それがなにを示すのかは分からないが、なぜか少しホッとしている自分がいた。
多分、能面のような感情の抜け落ちたような顔をしていたら、僕は少なからず不安を覚えただろう。
すると裕也の周りに新たなナイフがふわふわと浮遊し始める。
僕はさらに警戒を少し強化した。
しかし、それは意味をなすことはなかった。
突如として、周りの風景が色を失い始め、動きがなくなっていく。
そして、世界はモノクロになり完全に停止した。。
「なっ!?」
僕は思わず声を上げる。
話には聞いていたが、実物をみて理解した。
こんなもの対処しようがない。
発動のための魔法陣もなければ、魔力の発生も感じられない。
はっきり言って、僕たちの扱う魔法より、魔法らしいという気さえした。
「こんにちは、クロノ・ハラオウン。
自分の名前は鈴木裕也。
突然だけど交渉を始めようか。」
背後からの声に僕は振り返った。
そこには裕也が立っていた。
先ほどとは違い、まるで人形のように感情の感じさせない平坦な声でしゃべりながら。
「これはさっきとは逆の状況を演出してみたんだけどどうかな?
まあどうでもいいけど。」
しかし、今の彼をみても、なのは達に聞いていた人物と同じ人物とは到底思えない。
だが話し合いで済ませようというならこれ以上にありがたいことはない。
「交渉もいいがとりあえずこの幻術を解いてくれないか?
もし、君にその気があるなら、こちらも司法取引に応じる準備はある。
だからまずこちらの艦まd」
「ストップだよ。
クロノ・ハラオウン。
こちらはそういう交渉をするつもりでわざわざ、こんな幻術をかけたわけじゃないよ。
まあこちらが要件を言う前じゃ勘違いをしてしまうのも仕方がないがね。」
急に話を止められ思わずむっとしてしまいそうになる。
そうして裕也は続ける。
「交渉っていうのは単純明快だ。
自分のことを見逃して、今後一切かかわらないでほしい。
ただそれだけ。
簡単だろう?」
一瞬裕也がなにを言ったのかがわからなかった。
しかし、すぐに理解し反論した。
「君は何を言っている!
そんなことできるわけないだろう!!」
「いや、できるよ。
むしろ君はこれ以外に選択できないはずだ。
そうじゃないとほら、君のお仲間さんのあの二人も、上を飛んで、こっちを狙っている高町なのはも死んじゃうよ?」
僕は思わず絶句した。
なのはの存在がばれていたのはまだいい。
裕也は今何といった?
「じゃあとりあえずフェイトの方を見てみなよ。」
僕はフェイトの方を向く。
そして僕が完全に顔を向けた瞬間だった。
ナイフの刃がフェイトの首を貫くように出現した。
肩、腕、足と次々とナイフが増えていく。
そして最後にナイフが消滅しそのナイフがあった場所からは滝のように血が噴き出していた。
僕は幻術と理解しながらもこみあげてくる吐き気を我慢できなくなり、その場で吐いてしまった。
「はい。
もし君が断ったらこんな風に君のお仲間さんの体にそのまま直接ナイフを召喚しちゃったりするつもりだ。
ちなみに今は幻術内の映像であってまだ何もしていない。
じゃあ次のパターンも見てm」
「ふざけるな!
おまえは人の命を何だと思っt」
僕はのどがおかしくなるのではという大声で叫んだ。
気分は最悪。
ここまで外道な奴に会うのは初めてだ。
「いやいや、だからそっちがただこちらの条件を飲んでくれれば何もしないつもりだ。
それと人の発言中は黙って聞かなきゃだめだよ。
話している方が不愉快じゃないか。
けど確かに交渉って言っているのにこちら側ばかり良い思いをするのは不公平だな。
君もそういうことが言いたいんだろう?
仕方がないからこちらからそちらにメリットになるようなものを提案してあげるよ。
そうだな・・・
リカバリーナイフで1人だけ、死んでなければ助けよう。」
裕也が話す姿を見て僕は理解した。
この人間を放置するのは危険すぎる。
だが、どうする。
僕が今下手なことを言えば本当に、みんなを殺しかねない。
僕は一体どうしたらいい・・・。