第四十一歩
side フェイト
「合図で敵装備に向け加速度毎秒200mで射出」
これが私が最初に聞いた結界内で最初に聞いた裕也の声。
この裕也から発せられた言葉は、私たちは敵対しているのだという現実を私たちにたたきつける。
けど何でだろうか。
私にはこの裕也の声からは怯えしか感じられない。
別に声が震えているわけではない。
変に裏返っているわけでもない。
しかし、私にはこの裕也の声が怯えた子供の声にしか聞こえない。
私たちがやはり怖いのだろうか。
いや、もしいままで接してきた裕也も嘘偽りのない本物なら、人を傷つけるのを恐れているのかもしれない。
それを確かめるにはどちらにしろ、裕也に相対しなえればいけない。
「こちらは時空管理局所属クロノ・ハラオウンだ!
危険魔法使用、及び盗難、違法ロストロギアの所持の容疑で君を一時拘束する。
それと君のナイフの能力と幻覚魔法はすでにこちらで把握している。
抵抗は無駄だ。」
私たちは裕也に接近し、お兄ちゃんが声をかけた。
すると裕也はすぐに振り返る。
裕也の顔はこわばっていた。
そして、その目は恐怖に震えている。
私は今、目の前の裕也を見て思った。
昔の私はなのはからは少し違いはあるがこんな風に見えていたのではないかと。
私となのはの始まりのロストロギア『ジュエルシード』。
それが今、周り回って裕也の手の中にある。
それにこの場所は、偶然にもなのはとジュエルシードをかけて争った場所。
本当に運命めいたものを感じる。
もしかしたらなのはもそう感じているのだろうか?
だとしたらやはり、裕也の事件が終わったら、私は少しでも裕也の助けになってあげようと思った。
あのときになのはに分けてもらった、温かい心を今度は裕也にも分けてあげたいから。
以前の学校での怯えた笑顔ではなく、本当の笑顔が見たいから。
そうして、自分の中で思考を切り替える。
すると裕也の周りに新しく3本のナイフがふわふわと浮き始める。
そのうちの一本だけが上を向いている。
あのナイフは何の狙いだろうか。
上を向く理由。
それを考え、一つの答えに至った。
なのはが発見された。
そうして先ほど現れた3本のナイフは消え、裕也が視界から消える。
これが意味するのは私が幻術にかかったということ。
「バルディッシュ後はお願い。」
「Sir. 」
魔法の発動と方向の修正をバルディッシュに任せ、発動の準備に入る。
すると目の前にはピンク色の誘導弾が私に射線を誘導するように浮遊していた。
本当になのはは流石だと思う。
私が撃ちやすいように誘導するだけじゃなく、裕也の左右の退路も絶つように配置された誘導弾。
ここまでお膳立てされて失敗は許されない。
そして発動する魔法を宣言する。
「サンダーレイジ!!」
私の魔力が雷に変換され放たれる。
雷はただまっすぐジュエルシードと裕也を飲み込むために突き進む。
そして、
「あああああぁあぁぁあぁあああああぁあぁああああああああああああああああああああああああ」
その場に裕也の悲鳴が響き渡った。
そして目の前に倒れた裕也と封印処理の終了したジュエルシードが現れた。
つまり、これで本当に終わり。
なのはもそれを目撃してか、飛んできた。
「フェイトちゃんお疲れ。
けど裕也君大丈夫なの?
すごい悲鳴だったけど・・・。」
なのはが少し疑うような眼で見てくる。
「大丈夫だよ!?
裕也は絶叫してたけど、今回は完全に魔力ダメージのみだからね!
本当だからね!!」
私も実はちょっとあの悲鳴には驚いていたので、少し焦りながら返す。
するとすぐになのはは笑いながら、
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。
冗談だよ、冗談。
だから心配しないで、ね!」
そうして、お互いに少し笑顔がこぼれる。
「ほらほら、なのはちゃんも、フェイトちゃんもいちゃいちゃしてないで確保にいくで?」
「あんまりゆっくりしていても仕方がない。
裕也を回収して、艦に戻ろう。」
はやてもお兄ちゃんも少し呆れたような声でこちらに声をかけてくる。
確かにあまりゆっくりしているわけにもいかないのもまた事実なので、私たちはそこで話を切り上げ、裕也の方に歩きだした。
その時だった。
突如裕也の周りにナイフが10本、再度出現した。
「なのは!」
「うん!」
私たちはすぐに防御態勢に入る。
そうして、そのナイフは放たれた。
そう、裕也に向かって。
「えっ?」
思わず口から声が漏れた。
なのはやお兄ちゃん達もあまりのことに唖然として、誰も行動できなかった。
その間もナイフはまるで餌に群がる獣のように裕也を襲った。
最初に心臓を貫き、裕也の命を絶つ。
そして、そのあとがひどかった。
ある一本は食いつくように腕に刺さり、そのまま腕を切り落とした。
またある1本は腹部をさばくように切り裂き、血を飛び散らせながらめった刺しにしていた。
そのほかのナイフも裕也の顔、頭、肩、足と体のあらゆる部位を襲う。
私たちが唖然としている間も裕也の体はハイエナのごときナイフにばらばらにされる。
そして、なのはが我に返りそれを止めるべく走り出した。
「レイジングハート!!」
なのはがナイフを止めるべく、杖を構えたときだった。
ナイフは唐突に、もともとなかったかのように消滅した。
その場に裕也だったものと裕也の血に染まったジュエルシードを残して。
誰も口を開くことはなかった。
できなかった。
だって、この場において何か言うことが許されているのはきっとなのはだけなのだから。
唯一、裕也を救うべく動いたのだから。
はやては見ていられなかったのか裕也から顔をそむけていた。
お兄ちゃんはこぶしを握りしめていた。
私は、何を考えるでもなく空を見上げた。
そこには雲ひとつなく、太陽が憎たらしいばかりに輝いているだけだった。
そうして私は執務官になるうえで、体験するであろう最悪の状況をまた体験した。
一度目は母さん。
二度目は裕也。
そう、それは容疑者の死。
きっとこれから何度も経験することになるであろうこの経験。
私は裕也のもとに歩み寄り、血に染まったジュエルシードを拾い上げた。
そして、また空を見上げた。
今度は少し視界がくもってみえた。