第四十二歩
side はやて
「合図で敵装備に向け加速度毎秒200mで射出」
これは私が最初に結界の中で聞いた言葉。
つまりこれは、裕也はこちらに対して戦闘の意思を示したということ。
ここからは一瞬たりとも気を抜けない。
はっきり言って、あの能力に対してこちらには対応する手段はほぼ存在しないと言ってもいい。
実際この場に私は付いてきてはいるが、戦闘になった場合最悪役に立たない可能性がある。
広域殲滅魔法で一気にけりをつけるのであるならば、私はこの場において最大戦力になる。
しかし、そんなことはできないのだ。
あちらの手にはジュエルシードがある。
そんな状態で、私がそんな魔法をこの場で使用しようものなら、ジュエルシードが一気に暴走を起こし、最悪、結界を抜けて、町に次元震が猛威をふるうことになってしまう。
そんなことになれば、どれだけの被害者が出るかなんて想像もしたくない。
この場においての本当の戦力は、なのはちゃんと、フェイトちゃんのふたりだけだ。
「こちらは時空管理局所属クロノ・ハラオウンだ!
危険魔法使用、及び盗難、違法ロストロギアの所持の容疑で君を一時拘束する。
それと君のナイフの能力と幻覚魔法はすでにこちらで把握している。
抵抗は無駄だ。」
クロノ君が裕也に対して声をかける。
今回の私たちの用意した作戦は2つ。
1つは、私たちが裕也の注意を引いている間に、上空からなのはちゃんが最大威力で封印砲撃魔法を放ち、ジュエルシードを封印すると同時に裕也を魔力ダメージでノックアウトするというもの。
もうひとつは、最悪のとき、つまりこの場にいる全員が幻術にかかったときのための策。
なのはちゃんがシューターを展開し、それをなのはちゃんのデバイス『レイジングハート』がそれを操作、フェイトちゃんがデバイス『バルディッシュ』の誘導で封印広域魔法で、ジュエルシードを封印と同時に裕也を魔力ダメージでのノックアウト。
ざっとこんなものだ。
言ってしまえばこの場でまともに戦闘行動ができるのはなのはちゃんとフェイトちゃんだけなのだ。
私とクロノ君はあの幻術の前では見かけだけの戦力。
つまりお飾りでしかない。
それでも数が有利な状態というのは少なからず精神的なプレッシャーを与えてくれる。
素直に戦力差を認め投降してくることを願うばかりだ。
もし、本当に最悪の状況、つまり戦闘になってどうしようもない時には、シグナム達にも私から念話を送り、援護してもらうことなっている。
万全の布陣だ。
これ以上ないぐらいの戦力。
後は勝利の女神がこちらを味方してくれれば完全勝利だ。
すると目の前の裕也の周りにナイフが3本さらに浮遊し始めた。
そのうちの1本はふわふわと方向を変えている。
そしてナイフが完全に上を向いた瞬間、裕也とナイフの姿が視界から消えた。
まさかいきなり使ってくるとは思っていなかったが、おおむね予想通り。
私がそう確信し、動き出そうとしたときだった。
裕也の先ほど立っていた位置に急に魔法陣が展開され始める。
そして、この場にもっとも現れるはずがなかったものが出現する。
最近、たびたび現れるあの謎の機械兵器。
そうそれはガジェットだった。
しかしここに転送魔法が発動するのはおかしい。
なぜならこの結界は、外からの増援を警戒して、外からは管理局員しか、入れないようになっているのだ。
そんな中に転送魔法なんてできるわけがない。
もしそれをやるのならば、外にいるシグナム達を突破して、ここの結界を外から破壊しなければいけないのだ。
そんなこと、こんな短時間でできるわけがない。
そうなると目の前のは幻術か?
ならば確認するしかない。
「フェイトちゃん!
あのガジェットは実在してるんか!?」
私はフェイトちゃんに声で確認する。
しかしその返事は来ることはなかった。
「ぐっ・・がっ・・・・・あぁ・・・・・。」
フェイトちゃんから帰ってきたのはそんなうめき声。
まるでフェイトちゃんは誰かに首を絞められているかのような反応を示していた。
私はすぐに駆け寄り、首を絞めているであろう裕也にあて身をした。
しかし、あたるはずのあて身は何に当たることもなく、フェイトちゃんの横を通り抜けるだけに終わった。
つまり幻術で姿を消しているから見えないとかではないのだ。
誰もいない。
しかしこのままではフェイトちゃんも危ない。
「はやて、いったんここはフェイトをつれて下がれ!
そして、どうにかシグナム達に連絡をつけろ!!
このままじゃ長くは持たない」
ガジェットを一度に何基も相手にしながらクロノ君はこちらに支持を出してくる。
今は従うしかない。
そうして、クロノ君に背を向け転移魔法を発動させようとしたときだった。
「射出」
そうして目の前に7本のナイフが出現し、私たちに向かって飛んでくる。
今の私は魔法を使用する直前で無防備。
最悪だった。
私たちに当たりそうなのは、フェイトちゃんのバルディッシュが防いでくれる。
しかし、この妨害のせいで私は魔法を発動することができなかった。
そして、裕也の声がその場にまた響き始める。
「逃がしはしない。
そちらからこちらに絡んできたんだ。
勝手に去るなんて許されると思うのか?」
すると後ろから、先ほどとは違う音が響き始めた。
先ほどまではいうなれば撃墜音。
そう、なのはちゃんとクロノ君によるガジェットの撃墜音だ。
しかし、今の音はなんだか雰囲気が違う。
そうまるで爆撃音。
だがしかしそんなものを気にしていられない。
なんとか、隙をついてこの場を離脱しなえればならない。
このままでは本当に最悪の状況になりかねない。
「転移魔法を発動させたらフェイト・T・ハラオウンの命はない。」
裕也から、まるで見透かされているようなタイミングで声をかけられる。
いやこの状況ではあちらからしたら当然の対応なのかもしれない。
こちらには時間がない。
その事実が私を焦らせる。
思わず歯ぎしりする。
そして、フェイトちゃんからうめき声が聞こえなくなくなっていることに気がついた。
もしやという不安に心臓が握りつぶされそうになる。
「焦ってるようだね。
大丈夫、自分の言ったことにしたがってくれている間はフェイト・T・ハラオウンは絶対に死なせはしない。
それともうそろそろ面白いシーンが見られるだろうから、お仲間さんの方を見た方がいいんじゃないか?
あと動かず、しゃべるなよ。」
私は黙って従うしかなかった。
振り返るとそこは爆心地のようになっていた。
そうしてそこには、バリアジャケットがぼろぼろになり、血を流しながらもガジェットを破壊し続けるクロノ君の姿だった。
思わず叫びだして、駆け寄りたくなったが、グッと堪える。
なのはちゃんの方からまた爆発音が響き始める。
私はそちらに思わず目を向けた。
私は見た。
ガジェットがなのはちゃんに突撃し、自爆する姿を。
そう、そん姿はまるでカミカゼ。
そして、そのガジェットが起こす爆発と煙は何もかもを覆い隠す。
「そろそろかな。」
裕也の声が聞こえる。
そうして、私は気付いた。
裕也の狙いに。
ここからじゃいくら叫んだって声は届かない。
私は全力で念話を使う。
≪なのはちゃん、はやくそこから離れるんや!!≫
しかし、なのはちゃんからの返信は全くない。
そうして、煙の中に数基のガジェットが突っ込んでいくのを、私は視界にとらえた。
決して見間違えるはずのないタイプだった。
私の中であのなのはちゃんが体を貫かれた映像がフラッシュバックする。
絶対にそれだけはさせない。
その思いが体を無意識に動かしてしまった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
フェイトちゃんから急に悲鳴が上がる。
「あぁ、君が約束を破るから幻術世界でフェイト・T・ハラオウンはひもなしバンジーをすることになりました。
実施時間は30秒を予定しています。
残念。」
もう黙っていることはできなかった。
なのはちゃんのほうは、なのはちゃんの実力を信じるしかない。
私は裕也をどうにかして、フェイトちゃんを救わなければならない。
「絶対に、あんただけはゆるさへん!!
こそこそ隠れてないででてきいや!!!」
私は叫ぶ。
すると裕也も返事を返した。
「はっはっはははははっはは。
じゃあヒントだけあげるよ君の目の前。」
その声を聞いた瞬間。
私は首に強い衝撃を受けた。
意識を保とうとして見るが、意識は途絶えていく。
なんとか動かそうと頑張ってもピクリとも動かない。
そして私は自分の無力さを恨みながら、意識を手放した。