稲荷飼育物語
3話
模擬戦が終了し今は訓練室の外。
八神と高町さん、そしてラスボスが目の前にいる。
俺はというと、3人の前で蹲っている。
てかフェイトさん、斬れば分かるって言ってたじゃないか。
あれは斬りじゃない、突きだ。
例え非殺傷とかいうやつでも、尻の穴が増えるかと思ったんだから。
因みに高町さん曰く、本当は寸止めで模擬戦を終了させるつもりだったらしい。
しかしちょっとした手違いで終了の合図をかけられなかったんだそうだ。
先程から八神が俺の顔を見る度に吹き出しているので原因はなんとなく分かるが。
「そういえば、あの最後にフェイトちゃんの後ろに移動したのはどうやったの?
最初の回避はこっちでモニターしてたから分かるんだけど……」
「うん、突然消えたように見えたら後ろで悶えてるんだもん。
驚いた」
と、言われましても。
「あれは神速っていう、バカみたいなスピードで移動するチート技。
ただ、頭にかける負担が大きすぎるので使うとああなる」
「えっ、じゃあ何で使ったの?
頭がついていかないの分かってたんだよね?」
「痛いのは嫌いです」
「忘れてたんだね……」
と、ここで俺の解説から暫く黙って何かを考える素振りをしていた高町さん。
ようやく顔を上げて話しかけてきた。
「龍也くん、私のお兄ちゃんかお父さんって知ってる?」
「初対面の人の家族を知ってたら変態じゃないか。
どうして?」
「いや、何かお兄ちゃんとお父さんが試合してる時に同じような動きを見たことがあったから……えっ、変態じゃないの?」
高町さんも可愛い顔してガスガス心を抉ってくるね。
ともかく、俺は高町さんの家族は知らない。
この技も、恭也って人が使ってるって話を又聞きしてノリで使ったモノだ。
「私のお兄ちゃんも恭也って言うんだけど……」
「えっ」
「えっ?」
なにそれこわい。
「それはともかくや。
模擬戦してどんな感じやった?
見てればだいたい想像つくけど。
ブフッ」
せめて笑いを堪えろ。
そうだねぇ……
気は気合で使えそう。
魔法は魔力が何なのか分からない。
体力はやべぇ。
でも全てにおいて頭がついていかないのでやるせなし。
「強くなろうとは思わんの?」
熱血、根性は苦手なんです。
「ふぅん……まぁえぇわ。
なら、あんたの処遇やな。
正直、あの右ストレートの一撃だけ見るなら威力がかなりあるんや。
あれだけを見るならやけど。
でもあれを簡単に放てるあんたを野放しにするんは惜しい。
加えてその姿でふらつかれるとちょっと面倒になるっていうんもあって、誰かの使い魔的な立場になって欲しいんや」
ふむふむ。
で、本音は?
「一度ウチで保護したヤツが変態行動を起こして他所で捕まらんように首輪をつけとく。
ただでさえウチは目をつけられてるんや、摘める芽は摘んでおく」
さいですか。
というか俺が出歩いたら捕まることは確定ですか。
まぁここから逃げても根無し草になるので拒否権はないですが。
で、誰の使い魔になるの?
「それなんやけど……なのはちゃん、お願いできんか?
フェイトちゃんはアルフがおるし、私にもリイン達がおるから」
「え、別にいいけど……私でいいの?」
「一応、首輪をつけるんは私ら隊長陣の立場なほうがええからな。
届出を出すだけやし、とりあえず表向きだけお願いや」
なんか高町さんになりそうな予感。
彼女の近くにいると胸のドキドキがマッハなんだが。
だがストロベリーな展開じゃないのはなんか本能で分かる。
てか隊長陣って何?
部隊長は八神じゃね?
「因みに、名前なんやけどあんたその姿で本名で出していいん?
妖怪に戸籍なんてないんやし、別の名前にしたかったら変えるけど。
厨 二病なんてどうや?
素晴らしいネーミングセンスに全私が感動した」
「誰が厨二だ誰が
俺も少しヤバい領域に足を踏み入れたと思ってきてるんだ。
黙っててくれ」
しかし、自分で名前を決めろと?
それなんて羞恥プレイ。
カッコイイ名前つけても名前負けするのが目にみえている。
けど確かに、本名晒すのは何だかはばかられる。
故郷のお父さんお母さんも息子の名前の狐が現れたら驚くだろうし。
う〜ん…………
でも考えるの面倒だし、見た目妖狐だから『稲荷』でいいよ。
何故笑うし。
「じゃあ今度から龍也くんは、私のお稲荷さんだね!」
なん……だと……
「じゃあ使い魔になるって事で、私のことはなのはって呼んでね。
フェイトちゃんはもう名前で呼んでるし。
あ、後敬語はいいよ。
フェイトちゃんとアルフさんの関係って少し憧れてたんだぁ!」
「そや、なのはちゃんの使い魔になるんや。
友達である私らも名前で呼んでくれてええで」
「ん、元々あんまし敬語なんて使っていなかった気がするが。
なのはさんね、了解。
フェイトって名前だったの?
じゃあ苗字はTだったのか……
そして八神、てめぇはダメだ」
「なんでや」
「T!?」
さて、なのはさん。
俺の待遇も決まったところで1つ聞いてもいい?
「どうしたの?」
飯が食べたいです。
信じられるか?
今までずっと夕方から夜にかけての話だったんだぜ。
体感時間は3日くらいに感じたが。
「あ……ごめんね、そういえば夕飯を買いに行ってここに来たんだったよね。
お稲荷さんが何者なのかを早急に調べる必要があったから……」
呼ばれているのは新しく決めた自分の名前な筈なのに笑いがこみ上げるのは何故。
「よーし、じゃあご飯食べにいこっか!
私も今日はまだなんだ〜。
お稲荷さんは何が食べたい?」
「稲荷寿司を所望致す」
こうして俺の異世界1日目は幕を閉じるのであった。
めでたしめでたし。
「あ、それだけ力があるのに努力しないとかダメだよ!
私が時間ある時に鍛えてあげるね。
拒否したらスターライトブレイカー」
全俺が泣いた。
やる気がないのは筆者の性格がそうだから。
熱血……2秒で飽きる。
勝手気ままに好き放題が、座右の銘。
そしてやはりはやての一人称修正